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2015.06.12 Friday

反竜伝記 完結編 第二部 第49話 禁忌の力

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    光の教団の神殿の中枢部、そこは草木あふれる美しい庭園だった。
    美しい花々が咲き乱れ、周囲には迷路のように水路が張り巡らされている。まさに水と緑のオアシス……
    だが、これは実はカモフラージュにすぎない。この庭園には密かに魔力増幅の魔方陣が描かれており、草木や水路はそれを隠すために存在しているに過ぎない。このことを知る者は、光の教団内部でもごくわずかだった。
    そして、そこを戦いの場に選び、勇者を待ち受けているのは、光の教団のナンバー2、アークデーモンだった。
    「む……」
    瞑想していたアークデーモンの目が見開かれる。
    「我以外の魔将らは、破れたか……」
    仲間たちの気配が途絶えたことに、アークデーモンはさほど驚きはしなかった。
    もとより、勝ち目の薄い戦いだったのだ。
    四魔将は、確かに魔界の精鋭を集めた最強の将たちだ。だが、それでもかつて栄華を誇った大魔王の時代の名将と比べれば、数段劣るのは否めない。そして、今の勇者たち一行の強さは、エルフォーシアの時代の英雄たちと比べても、勝るとも劣らない。
    「我々は敗れゆく運命、か。それでも、イブール様のため、故郷の魔族たちのために、ここで引くわけにはいかぬ」
    そういって、アークデーモンは手にした杖を眼前にかざした。
    そこには、これから自分が戦う宿敵の姿があった。



    「よく来た、勇者よ。我は四魔将最後の将、アークデーモンだ!」
    「最後の将だって」
    「さよう。残念だが、他の将は貴様の仲間達に討ち取られたようだ」
    「……そうか」
    どうやら、少なくとも父さん達は無事らしい。ロムは内心安堵する。
    「アークデーモン、そこをどいてくれ。僕が倒さなければならないのはイブールだけだ。無用は血は流したくない」
    「それはできぬ。イブール様は我が主。たとえ差し違えても、貴様をイブール様の元へはいかせぬ」
    そういって、アークデーモンは杖は構えて腰を低くした。
    杖の先端から、魔力が集中し始める。
    「いくぞ! 天空の勇者よ!」
    叫ぶなり、アークデーモンは呪文を唱えた。
    それは、無数のイオだった。何百もの光球が、まるで散弾のように大量にばらまかれ、ロムに迫る。
    「くっ!」
    どこによけれも食らってしまう。そう悟ったロムは、天空の盾を構えた。
    盾から発せられたマホカンタの防御壁。放たれたイオの群は障壁にぶつかって次々と爆発していく。
    直接ダメージはないが、その衝撃は盾を通して身体に伝わる。
    あまりの衝撃に、ロムは身動きがとれない。
    アークデーモンは、その隙をついてきた。
    「隙あり!」
    言うが早いか、アークデーモンはその巨体からは似合わぬ俊敏さでロムに迫る。そして、鋭い爪からなる手刀をロムの心臓めがけて突きだした。
    アークデーモンの突きは天空の盾の向こう側のロムの身体を貫く、はずだった。だが、
    「なんだと!」
    アークデーモンの顔に焦りが出る。彼の攻撃は空振りに終わった。
    ロムの姿はない。ただ、天空の盾だけが宙に浮いている。
    ……まさか、
    思うより早く、身体が先に動いた。
    横っ飛びにステップする。そのすぐ後に、ロムの繰り出した斬撃がその場を走った。
    いつの間か、彼はアークデーモンの後ろに回り込んでいたのだ。
    「そ、そうか。貴様、瞬間移動呪文、ルラストルを使えるのだったな。だ、だが、あの短時間で」
    「あなたもさすがだ。今のをよけるとは」
    ロムは天空の盾を引き寄せて、再び手にはめる。
    ……強い。
    アークデーモンは戦慄を覚えた。
    ここまで強い男と戦うのは初めてだった。
    密偵から聞いていたのとはだいぶ違う。それとも、勇者は戦いの中でここまでの達人にレベルアップしたというのか。
    (今のイブール様では、残念だがロムには勝てぬ)
    それは、認めざるを得なかった。
    この男は、強い。この、天空の勇者は。
    「まだだ。まだ、諦めぬ」
    再び、アークデーモンは臨戦態勢をとる。
    「かなわぬまでも、片腕くらいは!」
    そういって、魔将は目にも止まらぬ早さで手刀の連打を放つ。
    だが、それもことごとく避けられてしまう。
    「ぬおおおお!!」
    焦ったのか、大振りの一撃。
    ロムはそれを間一髪でかがんで交わすと、がら空きになったアークデーモンの顎に回し蹴りをたたき込んだ。
    「ぐうっ!」
    その一撃にアークデーモンはひるんだが、ダメージは受けてはいなかった。
    「お、おのれ、情けをかけるつもりか!」
    今のが天空の剣の一撃ならば、とうにアークデーモンの命は無かった。
    「……」
    ロムの顔つきからは、険しさが消えていた。
    そこにあったのは、戸惑い。
    「……なぜだ。なぜ、そこまでイブールのために」
    「なぜ、だと」
    アークデーモンは、ふふっと不敵な笑みを浮かべた。
    「勇者よ、貴様は確かに強い。だが、やはり、若いな」
    「イブールは、地上の人間を家畜のように扱い、その上で魔族の楽園を築こうとしているんだぞ!」
    「だからなんだ!」
    アークデーモンが一喝した。
    「魔族から見たら、貴様等人間や神の方がよほど外道よ」
    「な、なんだって」
    「知らないのであれば教えてやろう。我ら魔族は、なにも好き好んで地上を侵略したのではない。元々、魔族は地上にあり、人間達の目の届かないところでひっそりと暮らしていたのだ。そんな我々を一方的に迫害し、追いつめたのは他でもない、人間達だ。魔王と呼ばれる者達は、そんな人間達の迫害から立ち向かうために立ち上がった者達のことだ! だが、我々は破れた。天界の神々達と、にくき勇者という存在によってな!」
    「……っ!」
    「貴様等にも正義があるように、我々魔族にも正義があるのだ。人間を家畜? 絶滅しないだけありがたく思え! 貴様等人間は、勇者達は、罪もない魔族をたくさん殺したではないか!」
    アークデーモンの怒りが、ロムに動揺を与えた。
    (魔族は、地上を侵略しようとして、神々の怒りを買ったのではなかったのか……)
    ロム、いや、人間ならば誰もが知っている。
    だが、真実はいつの世も為政者の手によって歪められ、正しく伝わることはない。
    「我々魔族を暗く冷たい魔界へと落としたマスタードラゴンと天空の勇者を、我は絶対に許さない。たとえ差し違えても、貴様だけは!」
    「くっ……」
    ロムは思わず後ずさる。アークデーモンの気迫に、圧倒されていた。
    「ぬおおおお!!」
    猛然と、アークデーモンが突っ込んでくる。
    それがわかっていながら、ロムの身体は、まるで鉛のように固く動かなくなっていた。
    痛恨の一撃が、ロムに迫る……!




    だが、結果的に、その一撃はロムには届かなかった。
    かわりにあがったのは、アークデーモンの絶叫。
    彼の身体からは、一本の槍が深々と突き刺さっていた。
    それは、ライオスが投擲したデーモンスピアだった。
    「ロム!」
    「おにいちゃん!」
    気がつくと、ロムの横にはアイメルとフィア、そしてリュカ、フローラの姿があった。
    「ロム、あぶないところだったぞ」
    「ラ、ライオス」
    放心したような声で、ロム。
    「お、おのれぇ、もう駆けつけてきたか。勇者の仲間達」
    口から吐血しながら、忌々しい目付きでライオス達をにらみつける。
    「そして、裏切り者のライオネック……魔族でありながら、イブール様に楯突く愚か者め」
    「アークデーモン。あなたの気持ちも、わからんでもない。私とて、魔族の端くれだからな。現に、私も、人間を憎んでいた……だが、そんな私に一筋の光明を与えてくれたのが、マーサ様であり、リュカであり、そして、このロムだった!」
    「ライオス……」
    ロムがライオスの、師の顔を見上げる。彼は弟子の肩に手を置き、微笑んだ。
    「……バカめ」
    だが、アークデーモンはそんなライオスの気持ちを一蹴した。
    「……それは貴様が個人的に勇者やその親族を好いているに過ぎん。人間全てが、魔族とわかり合えるものか! それに、仮に人間と妥協点を見いだせたとしても、天界の神々が黙ってはいまい。そもそも、魔族を魔界にたたき落としたのが、他でもない神々なのだからな!」
    アークデーモンはそう叫ぶと、手にした杖に全魔力を集中させる。
    彼の、全生命力が、杖の先端に集まり始める。
    「まずい! あの呪文は、メガンテ!」
    リュカが指摘した通り、アークデーモンは自己犠牲呪文、メガンテを唱えようとしていた。
    メガンテ、自分の生命エネルギーを爆発力に変えて、周囲一帯を吹き飛ばす、諸刃の呪文。アークデーモンほどの魔族が唱えれば、その威力はセントベレス山の頂を吹き飛ばすくらいの威力はある……!
    「……くっ、間に合わん! ならば……」
    ライオスが止めを刺すべく、腰に帯びたデビルサーベルを引き抜き、アークデーモンに迫る。
    だが、その突撃は突如として空から現れた光に遮られた。
    それは、人影だった。
    その白い法衣を身につけた男は、印を切って呪文を唱えた。
    「なっ……!」
    アークデーモンは絶句した。自身の魔力が、みるみるうちに収縮されていく。
    それは、マホトーンの呪文だった。
    強引にアークデーモンのメガンテを無効化したのだ。
    「愚か者め、勇者の相手は私がすると申しただろうに」
    「あ、あああ……」
    わなわなと震えた声で、アークデーモンは言った。
    「イブール、さま……ッ」



    そこに現れたのは、確かにイブールだった。
    禍々しい魔力を全身に放ち、勇者達と対峙している。
    その目は、不敵に笑っていた。まるで、この逆境を楽しんでいるかのように。
    「イ、イブール!」
    突如として登場した親玉に、リュカ達は警戒の色を露わにする。
    「忠臣アークデーモンよ、お前はその目で、私とリュカとの戦いを見届けるのだ」
    そういって、イブールはロムを指さす。
    「勇者よ、貴様に決闘を申し込む。一対一の勝負だ」
    「……ッ」
    その宣告に、ロムは顔を険しく顰めた。
    「私が敗れれば、地上に残った魔族は全て魔界へと退けよう。そして、二度と地上には戻らぬ。そして、私が勝てば、この地上と、人間達の全ての支配権を貰う」
    「なっ……!」
    リュカ達の間にざわめきが起こる。
    もし、ロムが破れれば、地上の人間は、全て魔族により統治される。それは、暗黒時代の到来の始まりでもあった。
    「バカな! ロム、そんな話は呑むな! 我々全員で、イブールと戦うのだ!」
    ライオスが剣の切っ先をイブールに向けて叫ぶ。
    「イブール、そんな条件を突きつけられる立場か?」
    リュカも、ライオスと同じく武器を構える。
    「貴様らには聞いておらぬ!」
    イブールは怒号に近い声で一喝した。
    「私は勇者ロムに訊ねておるのだ! もとより貴様らは、ロムなしでは何もできなかったではないか! 貴様らに決定権はない!」
    「なんだとっ」
    いきり立つライオスを、ロムがそっと制した。
    「ロム!?」
    「イブール、その言葉に偽りはないか」
    「……誓おう」
    確かにイブールは頷いた。
    それを確認すると、ロムは天空の剣を引き抜くと、パーティの先陣に立った。
    「みんなは手を出さないでくれ。イブールは本気だ。あの目は、卑劣な手段を隠している者の目ではない」
    「しかし……」
    「あなた」
    止めようとするリュカの肩に、フローラが手を置く。そして、何もいわずに首を左右に振った。
    「だいじょうぶよ、お兄ちゃんはあんな奴には負けないわ! そうでしょう?」
    フィアの問いに、ロムは笑顔で頷いた。
    「あぁ、必ず勝つさ。そして、兄の忠告を反故にして飛び出してきたかわいい妹にお仕置きしないとな」
    そういって、ロムはにっといたずらっぽくウィンクした。
    もう、止める者はいなかった。
    ロムとイブール、二人は相対する。
    「ここでは、ちと狭いな」
    イブールはそういうと、錫杖でとんと地面を突いた。
    杖の先端から、ものすごく強い魔力が集中し始める。
    「……これはっ!」
    「イオナズン!!」
    イブールは叫んだ。
    次の瞬間、轟音と共に巨大な爆発が生じた。



    「なんだ!!」
    地上で戦っていたエリオスは、セントベレス山の山頂で起こった謎の大爆発をその目で目撃した。
    凄まじい爆風と衝撃波が、陣地のテントを瞬く間に吹き飛ばす。
    エリオスや兵士達は見た。空に浮かぶ巨大なキノコ雲を。




    「うっ……」
    耳がキィーンと高鳴る。
    ……私は、生きているのか。
    突然のイオナズンの呪文に、リュカ達は死を覚悟した。
    だが、それはリュカ達を攻撃した呪文ではなかった。その証拠に、リュカ達の周囲には結界が張られており、被害はない。
    目を開いて、リュカ達は愕然となった。
    そこには、何もなかった。
    神殿が、跡形もなく吹き飛んでいる。
    見渡す限り、巨大なクレーターが広がっているのみだ。
    イブールは今の呪文で、自ら築き上げてきた神殿を一瞬で吹き飛ばしたのだった。
    「ふっ、これで思う存分戦えるというものだ」
    はぁ、はぁ、と息を荒立てながら、イブールは言った。
    「このような神殿など、もう必要ないからな。私が貴様に勝てば……!」
    「イブール!」
    「こい! 勇者よ! ここで、全ての決着をつけてくれようぞ!」
    「望むところだ! ゆくぞっ!」
    もう、ロムに迷いはなかった。イブールの決意の前に、彼は覚悟を決めたのだ。
    彼は天空の剣を構えて、猛然と挑みかかった。
    その一撃を、イブールは錫杖を構えて受け止める。


    死闘が、はじまった。



    互いの武器を交差させたまま、せめぎ合う。
    しばしの鍔迫り合いの後、イブールはロムの腹を蹴って、その反動で後ろに飛ぶ。
    飛びながら、イオの呪文を数発飛ばす。
    小型の爆裂球はロムに触れるよりも早く爆発した。
    黒い煙が辺りに充満し、周囲の視界を不明瞭にする。
    「煙幕を張ったつもりか!」
    ロムは目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。そして、イブールの気配を掴み取ろうとする。
    次の瞬間、ロムはとっさに左に飛んだ。
    そのすぐ後に、矢のように鋭い一閃がその場を貫く。
    それはイブールが繰り出した一閃突きと呼ばれる奥義だった。
    「ほう、よくかわしたな」
    にやり、とイブールは唇に笑みを浮かべる。
    「だが、まだまだこんなものではないぞ!」
    いうが早いか、イブールは続けざまに一閃突きを放つ。
    二度、三度、いや、それ以上。
    凄まじいまでの乱撃が、ロムに向けて繰り出される。
    「奥義、一閃狼牙突き!」
    「くっ!」
    とても捌ききれない、そう判断したロムは、天空の盾を構えると、あえて前に出た。
    無数の突きが、天空の盾の表面に傷を付ける。
    だが、構わずロムはそのままイブールに体当たりを仕掛けた。シールドアタックだ。
    「ぐっ!」
    「いまだ!」
    密着したまま、ロムは天空の剣を横一線になぎ払った。
    その一撃は、イブールの胸板を深く切り裂いた。
    「ぬ、ぐおおおお!」
    傷口から大量の血が噴き出す。
    それを見たリュカたちはやったと声を上げ、かたやアークデーモンは悲痛な声で主の名前を叫んだ。
    「ぐっ……さすがに、やりおる」
    よろよろと、後退するイブール。
    「な、ならば、このイブールの、最強の攻撃を受けるがよい!」
    イブールはそう叫ぶなり、大きく息を吸い込んだ。
    そして、
    「うがああああ!!」
    銀色に輝くブレスを広範囲に吐き出す。
    あらゆるものを凍り付かせる絶対零度の息、輝く息だ。
    ……かわしきれない!
    ロムは悟った。
    あのブレスを少しでも浴びれば、あっという間に全身が凍り付く。
    ならば、と、ロムは天空の剣に全ての魔力を込めた。
    「イブール!!」
    天空の剣が、激しくスパークする。
    そのあらぶるエネルギーを、ロムは一気に解き放った。
    「ギガスラッシュ!!」
    振り下ろされた剣から発せられた雷の斬撃は、イブールの輝く息を真っ二つに切り裂き、その向こうの本人の身体を直撃した。
    そのあまりの衝撃に、イブールは空中に投げ出される。
    激しく吹っ飛んだイブールの身体が、なすすべもなく地面に叩きつけられた。
    ……誰もが思った。
    勝負、あったと。
    「おにいちゃ……!」
    思わず駆けつけようとしたフィアを、
    「まだだ、来るな!」
    ロムは声を張り上げて止める。
    その通りだった。
    よろよろと、イブールは起き上がる。
    ただ、その様子は満身創痍と呼べるものだった。
    「もうよせ、イブール。勝負は付いた。おとなしく降参しろ」
    ロムはこの男を、出来るなら殺したくはなかった。
    手段はどうあれ、彼も魔界の行く末を案じた結果、このような事を起こしてしまったのだ。
    それに、ロムと戦っていた時のイブールは、まごう事なき戦士だった。小細工や卑怯な類いは全くせず、正々堂々と勝負に殉じた。
    「降参、だと? ふ、ふふふふふ、どこまでも甘い男よ、天空の勇者よ」
    ギラギラとした目で、イブールは言った。
    「だ、だが、その強さ、さすがと言えよう。よもや、この私が敗れるとはな」
    イブールは負けを認めている。だが、それでもなお、彼は抗おうとしている。
    「……やはり、こいつを使うしかないようだ、な」
    そういって、彼は懐からあるものを取り出した。
    それに、真っ先に反応を起こしたのは、フローラだった。
    「あ、あれは!」
    愕然とした表情。
    「ど、どうして、あれが、あそこに」
    「くくく、苦労したぞ、闇に葬られた技術を、現代に蘇らせるのにはな」
    そういって、イブールは手にした黄金の腕輪をちらつかせる。
    「フローラ、いや、エルフォーシア。こいつを覚えているだろう。そうだ、かつてお前が、自らの命と引き替えにデスピサロと共に地中深く封じた黄金の腕輪よ」
    「黄金の腕輪、古の伝説に聞く、進化の秘法を体現する腕輪か」
    リュカもそのことについては伝承で聞き及んでいた。だが、それはすでに失われた秘法のはず。
    「……そうか!」
    アイメルが悟った。
    「あのラボから!」
    「そうとも、今頃気づいてももう遅い。ふふふふ、エドガンの編み出した進化の秘法は未完成だった故、使用したものの自我を失わせてしまうが……!」
    いうなり、イブールは黄金の腕輪を右腕に填めた。
    腕輪が、怪しく光り始める……!
    どくん、どくん、と不気味な胎動が鳴り響く。
    「なっ!」
    ロムは思わず後ずさる。
    イブールの身体が、激しく変異し始めていく。皮膚が、骨格が、凄まじい勢いで違う生物へと変貌を遂げていく……!
    『ガアアアアアッ!!』
    激しく、イブールだったモノは咆哮した。
    それは、形容しがたい異形の化け物だった。
    ワニのような飛び出た口、竜のような金色に輝く目、そして、真っ白な毛に覆われた強靱な肉体。
    大きくふくれあがった身体は、ロムの三倍近くある。
    『お、おぉ、なんということだ。力が、力が、溢れる……こ、これが完成された進化の秘法の成果か』
    「な、なんてこと……」
    愕然と声を震わせながら、フローラは言った。
    「あんなに身体が変化しているというのに、自我が失われていないなんて」
    「なんてことを、あぁなってしまったら、もう二度と元には戻れないぞ!」
    『かまわぬ。貴様を、勇者である貴様を倒せるのならばな! いくぞ! ロム!』
    そういって、イブールは駆け出す。
    それは、巨体に似合わぬ凄まじいスピードだった。
    一瞬のうちに、ロムはその拳を受けて大きく吹っ飛ぶ。
    『ガアアッ!!』
    さらに追い打ちとばかりに、イブールは口から灼熱の炎を吐き出す。
    「て、天空の盾よ!」
    吹き飛ばされながらも、ロムは盾に念じた。その祈りに応じるように、盾から淡い光の防御膜が張られる。だが、灼熱の炎は、それすらも飲み込んでロムに迫った。
    やられる、と思ったその時、彼は突然横から飛び出してきた者によって救われた。
    それはリュカだった。
    「父さん!?」
    「ロム、こいつはもう、お前一人でどうにかできる相手ではないぞ」
    かろうじて炎を避けることができたリュカは、イブールに向けて剣を抜く。
    「ライオス!」
    「おうよ!」
    リュカとライオスは、一斉にイブールに向かって斬りかかった。だが、
    『雑魚どもが!』
    あろうことか、イブールはリュカの魔人一刀流の一撃を素手で受け止め、ライオスに至っては、拳を振り下ろした時に生じた衝撃波だけで吹き飛ばした。
    そして、愕然としたリュカの腹を容赦なく蹴り飛ばす。
    「フィア!」
    「うん!」
    父を援護すべく、フローラとフィアは同時にメラゾーマの呪文を唱えるが、
    『マホカンタ!』
    予備動作すらなく繰り出した魔法反射障壁の前に、二つの炎の弾は反射され、術者であるフローラ達に襲いかかる。
    メラゾーマは彼女たちの足下で爆発し、二人は飛ばされ、地面に激しく叩きつけられる。
    「そ、そんな……」
    残されたアイメルだけが、青ざめた顔で周囲を見回す。
    たった一瞬の出来事で、リュカが、ライオスが、フローラが、フィアが、地面に倒れ、起き上がれないでいる。
    『ふはははは!』
    その横で、イブールは高笑いを浮かべた。
    『こいつはいいぞ! この力、この圧倒的な力だ! この力さえあれば、何者にも負けることはない! そう、天界の神々にさえも!』
    「お、おおおお、さすが、イブール様!」
    その主を、賞賛の眼差しで讃えるアークデーモン。
    『さぁて、残るは、一人だけ』
    イブールはぎらついた目を、アイメルに向ける。
    『貴様も魔族だが、裏切り者にはそれ相応の制裁を与えんとなぁ……』
    ゲスな笑みを浮かべて、イブールはノッシノッシと大地を踏みしめながらアイメルに迫る。
    「こ、こないで!」
    その強烈なまでの威圧感に、アイメルは全身に鳥肌が立つ。
    『どう料理してくれようか、そのかわいい顔を握り潰すか、それとも、生きたまま腹を掻っ捌くか……』
    すでにイブールは気づいていなかった。すでに彼自身、正気を失っていることに。結局は、彼も進化の秘法を自分のものにすることはできなかったのだ。
    だが、それでも圧倒的な力に変わりない。
    蛇に睨まれたカエルのように、身動きが取れないアイメルに、イブールの鋭い爪が伸びる、その時。
    「ギガデイン!」
    声と共に、天から落ちた雷が、イブールに直撃した。
    それを唱えたのは、もちろんロムだった。
    満身創痍の状態でありながら、なんとか繰り出した最強の呪文。だが、それも、イブールの表面を少し焦がした程度の効果しかなかった。
    (ギガデインで、この程度のダメージしか与えられない!?)
    それは、ロムにとって明らかな計算違いだった。
    イブールの防御力が常軌を逸しているだけではない。もう、彼には、


    ギガデインをまともな威力で放てるほどの魔力は残っていなかったのだ。


    『往生際が悪い……』
    目線を、ロムに向ける。
    『そんなに殺して欲しいのならば、貴様から血祭りにあげてやろう!』
    にっ、と唇、否、大きく裂けた口を歪ませて、イブールはゆっくりと、だが、威圧的にロムに迫る。
    はぁ、はぁ、と息を荒立てながら、ロムは震える手で天空の剣を握りしめた。
    すでにその姿からは天空の勇者の印象はない。吹けば飛んでしまいそうなくらいに弱々しい青年でしかなかった。
    ……よく、ここまでもったものだ。
    「ロム! 逃げて!!」
    アイメルが悲痛な声で叫ぶ。彼女にはわかっていたのだ。もう、ロムは”時間切れ”なのだ、と。
    (かくなる上は……)
    ロムは全身全霊の力を、天空の剣に込めた。
    自分の全生命力を上乗せするつもりだった。
    ……差し違えても、イブールだけは倒す。
    「いくぞ、イブール!!」
    カッと決意の眼を見開いたロムは、玉砕覚悟で猛然とイブールめがけて突っ込んだ。
    『とどめだ、天空の勇者ァーーー!!』
    イブールが渾身の一撃を振り下ろそうとした、次の瞬間、

    グギャアアアアアアアッ!!!

    突然、断末魔の叫びが辺りに響いた。
    ハッとして、ロムは動きを止める。
    そして、そこに立っている者の姿を凝視した。
    イブールの首筋に深々と剣を突きつけている、少女の姿を。
    そう、悲鳴を上げたのは、他でもないイブールだった。
    『ば、ばかな、貴様は、アイメディス……な、なにを、する……』
    「なにをする、だと?」
    不敵な笑みを浮かべたまま、アイメディスは言う。
    『わ、我々の敵は勇者の、はず……な、なぜ、私を攻撃するのだ』
    「確かに、勇者は倒すべき敵だ。だが、私にとって、お前もまた邪魔な存在。しかも、その力はロムを上回ってしまっている……となれば、どちらを先に始末するかは、おのずと明らかとなろう?」
    『き、貴様、そ、それで、私を倒す隙を窺っていたということか……!』
    「貴様は知らないだろうが、ロムの命はあと一日。放っておけばじきに失われる命なのだ。だとすれば、私にとっての最大の障害は、お前というわけさ!」
    そう言いながら、アイメディスはさらに深々と剣を突き刺す。
    『お、おのれぇ! 小娘がぁっ!』
    イブールは苦しみに耐えながら、自分の肩に乗る女魔族を引き離しにかかる、だが。
    「少しばかり遅かったのだよ! くらえ、エビルデイン!!」
    アイメディスの放った暗黒の雷が、剣を通してイブールの身体を焼き尽くす。
    『ガアアアアアアッ!!!』
    「イ、イブールさまっ! や、やめろぉ!!」
    アークデーモンが猛然とアイメディスに切りかかる。だが、
    「おほほほほ、手負いの雑魚は死んでしまいなさい!」
    突如、背後に現れたゲマの鋭い手刀が、アークデーモンの背中に突き刺さった。
    心臓を貫かれたアークデーモンは、主君の名も叫べずに絶命した。

    ……戦いは、終わった。それは、勝利とも敗北とも呼べない、第三者の一方的な虐殺で幕を閉じた。


    イブールとアークデーモンの、無惨な死に様を、ロムはただ見ていることしかできなかった。
    屍と化したイブールから剣を引き抜くと、アイメディスはゆっくりと、ロムの前に立つ。
    「……アイメディス」
    「今までよくやった、と誉めてやりたいところだが……」
    言いながら、彼女はロムの眼前に剣を突き立てる。
    「貴様一人では、その辺が限界のようだな」
    「……あぁ」
    認めざるを得なかった。
    もう、身体も満足に動かせそうにない。
    「ここでお前を斬れば、この世界は名実ともに私のものだ」
    「……」
    ロムはうつむいたまま、なにも言えないでいた。
    「ロム、これを覚えているか?」
    アイメディスは懐からとある宝石を取り出して、ロムに見せた。
    それは、命の石だった。
    「こ、これは、以前父さんが……」
    「そうだ。命の石。生命の息吹を封じ込めた秘石だ。この石には、私の魔力が十二分に注がれている。これを貴様に植え付ければ、お前の命は向こう百年は続くであろう」
    その言葉に、その場にいた一同が衝撃を受けた。
    「……ロム、これを貴様にやろう。むろん、私の部下になれという、条件付きだが」
    「な、なにをいうのです、アイメディス様! よりによって勇者を……」
    「お前は黙れ、ゲマ!」
    抗議するゲマを、アイメディスは一喝した。
    「私はロムの命が惜しい。これだけの力を持った男を、このまま朽ち果てさせるのはな。それに、天空の勇者を使役したとなれば、天界の神々も警戒しておいそれとは手出しできまい」
    「……」
    黙って話を聞くロムに、アイメディスは命の石を差し出す。
    「いつぞやは、NOを言われたが、今回はどうかな?」
    「……おとぎ話で」
    「ん?」
    ぼそっと、ロムが呟く。
    「おとぎ話でさ。こういう話、あったよね。魔王が勇者に言うんだ。俺の仲間になれば、世界の半分をお前にやろう、ってさ」
    「……それが、どうした」
    「物語では勇者はそれを突っぱねるんだけど、もし、あそこの問いでYESって答えたら、どうなっていたんだろうね」
    「なにがいいたい?」
    「正直、ありがたい申し出ではあるけど……」
    ロムはゆっくりと、だが確実に差し出されたアイメディスの手を払いのけた。
    「遠慮しておくよ」
    確固たる決意の眼差し。
    「それは、勇者としてのプライドか? ふん、くだらんな。そんなものが何になる?」
    「確かに、僕の力のいたらなさが今回のような結果を招いた。いや、これは当然の報いなんだ。一人で突っ走ったこの結果がこのざまさ。勇者なんていったって、結局一人じゃなにもできやしない」
    「……ロム」
    「まだわからないの、アイメディス!」
    アイメルが、悲痛な思いで叫んだ。
    「ロムは、彼はあなたの部下にはなれないし、魔族の手先になんてなれない! ”ロムの意志”関係なく!!」
    「……!!」
    アイメディスはハッと目を見開いた。
    ……そうか、そうだった。
    天空の勇者とはそもそもなんだ?
    太古の昔、幾度となく繰り返されてきた神と魔王との戦い。その戦いの規模と激しさは、時に世界の地形すら変え、人間の文明を滅ぼしてしまうほどの凄まじさだった。
    そこで神は、自分に変わる存在として、人間をベースに、神の力を備えた戦士を作り出した、それが、天空の勇者……
    「そうだった。私は、おろかだった。ロムは気づいていないのだ。自分の中に仕組まれた、勇者としての遺伝子のせいで……彼は、勇者として死ななければならないという宿命に支配されている……!」
    それは、リュカにとっても、ライオスにとっても、衝撃的な内容だった。
    リュカはすぐに、フローラに問いかける。
    「フ、フローラ、今のは、真実なのか」
    「……はい」
    苦々しく、彼女は頷く。
    「勇者として産まれた者は、みな、そういう風に。決して、天界に背かないために」
    「なんということだ。勇者は、神の意のままに動く駒とでもいうのか!」
    ライオスも、じりっと唇を痛く噛みしめる。
    「アイメディス、僕のためを思うのであれば、その剣で僕の胸を貫くがいい。だが、僕を倒したところで、また第二、第三の勇者が現れ、お前の野望を打ち砕くだろう」
    その言葉は、明らかに先ほどのロムの言葉と矛盾していた。
    これが、勇者の遺伝子……
    「アイメディス様、なにを戸惑うことがおありか! 今こそ、ロムに止めを刺すのです! 勇者を魔族の貴下に加えるなどと……」
    「どこまでも、どこまでも私を否定するか!」
    アイメディスはドンッとロムを突き飛ばし、地面に倒すと、馬乗りになって彼を組み敷いた。
    「力づくでも、この命の石を!」
    「くっ!」
    ロムは必死に抵抗するが、もはや腕力では彼に勝ち目はない。
    じょじょに、命の石が彼の胸元へと近づく。
    それは、明らかに異様な光景だった。
    様々な思惑はあれど、魔族の姫が、勇者の命を救おうとしている。
    そこにはもう、善と悪、聖と魔、勇者と魔王という簡単な図式は存在しなかった。
    愛した男を救おうとしている、一人の女がいる。
    真理だけが、そこにあった。
    アイメルをはじめ、その場にいた者達は一歩も動けなかった。
    アイメディスを止めようと動くものは、誰もいなかった。



    「……やれやれ」
    その時、呆れた声が、ぽつりと響いた。
    「ロムへの未練を断ち切らせるために、二つに分けたというのに、それでも、やつに対する恋慕の情は完全に断ち切ることはできなかったか」
    それは、ゲマの声だった。
    「所詮、アイメディスも女、というわけですか」
    「なっ、無礼な、ゲマ! 貴様、私を誰だと」
    「ふんっ!」
    突然、ゲマの気が大きく膨れ上がった。
    「なっ!」
    そのあまりにも強大な力に、アイメディスの動きが止まる。
    「カアアアアッ!!」
    ゲマが、気を解放した瞬間、彼を中心に、凄まじいまでの衝撃波が放たれた。
    そのあまりの威力に、ロムも、アイメディスも、互いに吹っ飛ぶ。
    「バ、バカな! 実体を持たぬ貴様の、どこにそのような力が!」
    アイメディスが驚愕する。
    「ほっほっほ、なに、簡単なことです。私の正体は、魔界の瘴気そのものなのですからねぇ。実体など、もともと必要なかった、ただ精神を覆う鎧に過ぎなかったのですよ……ただ、リュカとロムに肉体を滅ぼされた時、同時に私の精神にも多大なダメージを受けてしまったため、今まで実力を出し切れなかったのですが、それも今日まで」
    「ゲマ、貴様、主である私に楯突くというのか。魔王デスピサロの子孫である、この私を!」
    「ふふふ、ふははははは!!」
    ゲマは、腹をかかえて笑った。
    「こいつは傑作だ。まだそんな与太話を信じていたとはねぇ。魔王デスピサロの落胤? そんなの、いるわけないだろうが!」
    ゲマの口調が、がらりと変わった。
    「お前の正体を言ってやろうか? アイメディス。お前は魔族のプリンセスなどではない。私がさらってきた赤子に、魔族の血を注いで人工的に作り出した、いわば人造魔族にすぎんのだよ!」
    「……!! うそだ!」
    「うそなものか。まぁ、その赤子に流した血というのが、かつてのデスピサロの血というのは本当だから、遠い意味で言えば、お前がデスピサロの子孫と言えるかもしれんがな。その赤子を、対勇者の切り札に使おうとした矢先に、とんだ邪魔者が入ったおかげで、お前を手放してしまった……本当ならば、もっと早くに、ロムやリュカをあの世に葬れたのに」
    「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!」
    アイメディスは連呼しながら、猛然とゲマめがけて切りかかった。だが、ゲマはその一撃をなんと素手で受け止めた。イブールをも一撃で葬った、魔界の剣を。
    「お前を擁立したのも、この私の力が完全に回復するまでの繋ぎのため。天空の勇者が神の駒ならば、お前はこの私の体のいい操り人形だったってことだ。そして!」
    ゲマが大きく手を振りかざす。
    「完全に回復した今となっては、貴様にもう媚びを売る必要などない!!」
    振り上げた手を、アイメディスめがけて振り下ろす。
    ゲマの一撃は、アイメディスの身につけていた魔界の鎧をやすやすと引き裂いた。
    「ああああっ!」
    一文字に身体を切り裂かれた彼女は、その場にぐらりと倒れ込む。
    倒れた地面に、血だまりが広がっていく。
    「アイメディス!」
    ロムが叫んだ。だが、彼女は返事すらしない。
    気を失っているのか、それとも……
    「あ、あのアイメディスを、一撃で、だと。バカな! あれが、ゲマの本当の力だというのか!?」
    「その通りですよ、リュカ」
    にやっ、と不気味にゲマは笑う。
    「あなたと戦った時、私は手加減していたのですよ」
    「ばかな! そんな様子は微塵も感じなかった!」
    「これも、私が描いた計略のため。私にとっては、イブールも、アイメディスも、そしてロム、天界のマスタードラゴンも、目の上のたんこぶでしたからねぇ。私が退場している間、あなたがたは実によく戦ってくれた。よく、つぶし合ってくれた。私はロムがイブールに勝利して、アイメディスと戦ってくれると思ったのですが、ロムの時間切れの方が思ったよりも早かったですね。まぁ、どうでもいいことですが」
    「貴様ぁ!」
    リュカが剣を構える。
    「許さん、許さんぞ、ゲマ! 貴様の存在そのものが許せん!」
    「ほっほっほ、やめておきなさい。リュカ。あなたごときが、この私に勝てるとでも?」
    「たとえ差し違えても、やってやるさ。イブールは死に、アイメディスは私がみたところ、そう悪い人間でもない。悪の元凶であるお前を倒せば、この長かった戦いは終わりを迎えるのだからな!」
    「言うのはたやすいですが、実行できるとは、思えませんがねぇ!!」
    叫びながら、ゲマはリュカにメラゾーマを放つ。
    巨大な火球が、リュカに迫る。
    「ぬんっ!!」
    だが、その火球を真っ二つに引き裂いたものがいた。リュカではない。
    「ライオス!?」
    そう、ライオネックのライオスだった。
    「リュカ、一人で格好付けるのはよすんだな」
    そういって、ふっと笑みを浮かべる。
    「ええ、そうですわ」
    その横に、フローラも立つ。
    「思えば、ずいぶんとロムばかりに負担をかけてしまいました。今度は、私たち大人が、ロムを助ける番ですわ」
    「……そうだな」
    リュカも、こくりと頷く。
    「フィア、アイメル、ロムを頼むぞ」
    「や、やめるんだ、みんな……」
    掠れる声で、ロムが止める。
    だが、もう三人は振り向かない。
    一体の邪悪を倒すべく、身構える。
    「いいでしょう、まずは貴様等から、血祭りに上げてくれましょう」
    「ゆくぞっ!!」
    三人は同時に駆け出す。
    リュカが跳躍し、ライオスとフローラが左右から同時に攻める。
    「魔人一刀流秘奥義、光波刃!!」
    王家の剣が、眩しくスパークする。どんなものでも切り裂く、リュカ最強の一撃が、ゲマを脳天から叩き割る。
    「ギガデインッ!!」
    その横で、ライオスがデイン系最強の呪文を放つ。
    「今だっ!」
    サッ、とリュカがゲマとの間合いを空ける。
    間髪入れずに、フローラが最大出力で呪文を放つ。
    「ビッグバンッ!!」
    イオナズンを遙かに越える爆裂呪文が炸裂した。
    凄まじい爆発と爆炎が、火柱となって天に上る。
    見事なまでのコンビネーションによる連撃だった。
    「こ、これなら、さすがのゲマも」
    期待を込めてフィアが呟く。だが、黒煙が晴れると同時に、その顔色は絶望に支配される。
    「……ふっふっふ、こんなものですかねぇ?」
    ゲマは、健在だった。
    その身体には、まるでダメージを受けた様子がない。
    「ば、ばかなっ!」
    リュカが愕然とする。
    「無傷でいられる、はずがないっ!」
    「ふっふっふ、まだわからないのですか。私は実体を持たない精神のみの存在。肉体があったころの私ならば、ダメージを受けたでしょうが、今の私には、物理的な攻撃は一切効かないのですよ」
    「ゴーストだとでもいうのか!?」
    「……ち、違う」
    よろよろと、起きあがったのは、アイメディスだった。
    全身血塗れであったが、まだかろうじて生きている。
    「ゲ、ゲマは、その身体は百パーセント精神体。物理攻撃が、通じないのは、当然のこと……」
    「ほう、よくご存じで」
    ゲマがアイメディスに振り向く。
    「やつを倒すには、精神そのものを攻撃するしかない。だが、精神体に直接攻撃できる武器は、世界でたった一つしかない……それは、神の力が宿った剣、天空の剣だけ」
    「ご名答。ですが、肝心のロムがその様では、それも叶いますまい?」
    「くっ……」
    アイメディスは、悔しさに唇を噛みしめた。
    「……さて、なぶり殺しの時間といきましょうかね」
    ゆらり、とゲマはリュカに目線を向ける。
    「まずはリュカ、あなたからですよ。あなたとの因縁も、そろそろ疎ましいと感じていたところです」
    「お、おのれっ」
    リュカは剣を握りしめる。たとえ、効かないとわかっていても、戦う意志だけは決してなくしてはいなかった。
    「……すぐに、父親と同じ場所へ送ってさしあげますよ」
    ゲマが再び、手のひらに火球を出現させる。それはメラゾーマではなく、その上位呪文メラガイアーだった。激しく紅蓮に渦巻くそれは、一目見ただけで凄まじい威力を秘めているとわかる。さすがのライオスも、あれだけの火球を斬り伏せるのは不可能だった。
    「ここまでなのか。ここまで来て、私達はっ……」
    リュカの目に、無念の涙が浮かぶ。
    そのときだった。
    「まだだ」
    リュカの目の前に、何者かが現れた。
    リュカの前に背中を向ける形で、ゲマに立ちはだかるその人影は……
    「ロ、ロム……!!」
    そう、天空の勇者ロムその人だった……!



    続く













     
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