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2015.04.18 Saturday

反竜伝記 完結編 第二部 第47話 死闘、四魔将

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    「ここが、光の教団の本拠地か」
    城からセントベレス山の大地に降り立ったロム達は、目の前にそびえる荘厳な佇まいの神殿に、しばし圧倒された。
    それは、神話に出てくるような、大理石の巨大な柱が立ち並ぶ様式の、いかにもという雰囲気の神殿だった。
    あたかも、そこには神が祭られているとでも言いたげな迫力がある。
    だが、ここで信仰されているのは神ではない。
    それを、ロム達、とりわけリュカはよく知っていた。
    「またここに来る日が来るとはな」
    リュカは苦々しい顔つきで呟く。ここで強制的に働かされ、鞭で叩かれた辛い日々が走馬燈のように蘇ってくる。とうの昔に癒えたはずの傷跡が、痛みを覚えるほどに。
    「父さん」
    「すまん。感傷に浸っている場合ではないな。いこう、ロム」
    「うん」
    ロムも、すでに天空の武具を全て身にまとっていた。
    軽装を好むロムは、今までもあえて天空の鎧は身につけなかったが、いよいよこの鎧をつけて戦わねばならない事態が訪れたのだ。
    「……むっ」
    ライオスが、殺気を感じて立ち止まる。
    神殿から、ぞろぞろと魔物達が姿を現したのだ。
    その数は百を軽く越えるほど。
    「これはこれは、派手な出迎えだな」
    「ライオス、腕は鈍ってはいないな?」
    と、リュカ。
    「笑止、といいたいところだが、本気で戦うのはずいぶんと久しぶりだ。まぁ、実戦で勘を取り戻すとするさ」
    そういって、ライオスは獲物である槍を構える。その黒く禍々しい装飾が施された長槍は、魔界の一流の戦士だけが持つことを許されたデーモンスピアと呼ばれる業物だった。
    「では、いくぞ!!」
    リュカとライオスは一斉に大地を蹴って駆けだした。
    そのまま、躊躇することなく敵陣に突っ込む。
    思わず怯んだ魔物達の隙を狙って、二人は豪快に武器を乱舞した。
    それはまるで、二つの暴風のようだった。
    決して雑魚ではないクラスの魔物達が、いとも簡単に蹴散らされていく。
    「す、すごい。ライオスさんはともかく、リュカさんも」
    その鬼神の如き奮闘ぶりに、アイメルは度肝を抜かれた様子だった。
    「私たちも、負けていられないわね」
    そういって、フローラは夫に襲いかかろうとしたシュプリンガーに、メラゾーマの火球をお見舞いさせる。
    ロムも負けじと天空の剣を振るった。アイメルも、賢明に三人のサポートに回る。
    五人の卓越したチームワークの前に、魔物達は為すすべもなく蹴散らされていった。
    草の根をかき分けるように、ロム達は神殿内部へと突入していく。
    「なっ……」
    神殿内部で最初に目に止まった光景は、思わず目を覆いたくなるような惨劇の光景だった。
    辺り一面、血の海だった。そこに横たわるようにして事切れている人影は、十や二十どころではない。
    それは皆、光の教団の信者達だった。
    普段、熱心に教団に寄付し、信仰心を捧げていた者達の、あまりにも無惨な姿がそこにあった。
    「ひどい……」
    アイメルの目に涙が溜まる。信者の中には、女子供の姿もあった。
    「……つい先ほど殺されたわけではなさそうだ。死後、かなりの時間が立っている」
    漂う腐臭に、さすがのライオスも口元を押さえずにはいられなかった。
    「……くっ」
    リュカは悔しさに唇を噛みしめた。信者の中には、知っている者の顔もいたからだ。
    「……いきましょう、あなた。彼らの無念に応えるためにも」
    「あぁ」
    立ち止まっている暇はなかった。
    後ろから自分たちを追って魔物達が迫ってきている。
    リュカは亡き者に短く黙祷を捧げると、再び走り出した。
    決して、振り返らずに。



    一方、その頃、
    残った天空城でも、襲い来る魔物達との防衛戦が激しく行われていた。
    城は結界を張り、さらに堅く門を閉ざしていたが、魔物達は執拗な攻撃を繰り返してくる。
    「いかんな」
    ギド大神官の額から汗が流れる。
    先ほどの雷神の杖のダメージが残っているため、天空城の結界の力もだいぶ弱まっている。すでに球体に張られたバリアにヒビが生じており、抜かれるのも、時間の問題だった。
    「ロム達を待っているまではなんとか死守したいところじゃが……」
    天空城を守る兵士達の数も絶対的に足りていない。かつてこの城を守っていた熟練兵達は皆、かつて天空城が沈む原因となったゲマ達の襲撃の際に失われてしまった。今いる兵士達は圧倒的に経験不足の新兵達だった。
    「やれやれ、老体に鞭を打つ時がきたようじゃのう」
    よっこらせ、と腰に手を置きながら、ブライは杖を片手に覚悟を決めた。
    「ギド殿、門を開けてくだされ」
    「む、無謀です! いくらあなたといえども、この人数を前にしては」
    「こういう時のために、かつて仲間から教わった呪文があるのじゃよ。そいつを、使う時がきたようじゃ」
    「まさか……」
    ギドの脳裏に、その呪文の存在がよぎった。
    自己犠牲呪文、メガンテ。
    その呪文を使えば、確かに外の魔物達を一掃できるかもしれない、しかし。
    「い、いけません、早まっては」
    「そうよ、おじいちゃん。死に急ぐことはないわ」
    その声は、この場にいるはずのない者の声だった。
    「まさかっ」
    驚いて、ブライが振り向く。
    そこにいたのは、彼の予想した通りの少女だった。
    しかも、普段の魔法使いスタイルの彼女ではない。
    どこから手にいれたのか、一級品の剣と法衣に身を包み、マントを優雅に靡かせている。その姿は、彼女も勇者と呼ぶのに相応しい格好といえた。
    「フィア! おぬし、どうしてここに」
    「もちろん、ルーラで来たのよ。地上のことは、コウガさんに任せてね。セントベレス山にはルーラ封じに結界が施されているけど、天空城にはそんなものはないでしょう?」
    「しかし、その装備は」
    「マナから貰ったのよ、この城の宝物庫の鍵をはずしておいたから、好きなものを持っていってくれって」
    彼女の装備は、妖精の剣にプリンセスローブ、それに指には祈りの指輪を填めている。
    どれもかつて、魔と戦った勇者の仲間が身につけていた一品だった。
    「やれやれ、ロムが聞いたら怒るじゃろうが、正直頼もしい救援じゃて」
    「兄さん達だけに、任せてはおけないからね。さぁ、門を開けて頂戴。勇者ロムの妹、フィオリア・エルド・グランバニア。魔物一匹この城には入れさせないわ!」



    「おかしい……」
    神殿の内部奥深くへと進んだロム達だったが、ここにきて妙な雲行きになってきた。さっきまでの敵の猛攻がぱったりと止んでしまったのだ。
    神殿内部はがらんとした静けさで満たされている。
    まるで、ここには自分たち以外誰もいない、全くの無人のようだった。
    「どういうことだ。ここは光の教団の本部だぞ。それなのに、この静けさは異常だ」
    リュカは何か罠があるのではないか、とむしろ警戒した。
    「それとも、光の教団の力はここまで衰えていたとでもいうのか」
    そうかもしれない、とリュカは思った。
    そのふとした油断が、敵につけ込む隙を与えてしまうことになる。
    ……突然、足下が眩く光り出したのだ。
    「なっ!」
    慌ててその場を飛び退こうとするが、身体の自由が利かない。
    彼らの足場に、とある文様が浮かび上がる。
    それは、転送魔方陣……!
    「しまっ……!」
    気づいた時は後の祭り。
    リュカ達は、魔方陣の光に包まれて、次の瞬間、空間からかき消された。




    一瞬の浮遊感もつかの間、アイメルは床にしたたかにお尻をぶつけてしまった。
    「痛ったっ、一体、何なの?」
    見渡すと、そこは薄暗い円筒の空間だった。
    なんとなく、ここはセントベレス山の下層部、つまり地下に作られた部屋だということはわかる。
    問題は、ここにいるのは自分一人だけということだった。
    「みんなとはぐれちゃった。どうしよう」
    さっきの魔方陣は、どうやらパーティを散り散りにするトラップだったようだ。
    まさか、このままずっとこんな地下牢のような場所に閉じこめられたままなのでは。
    一瞬、そんな不気味な考えが頭をよぎった、その時だった。
    突然、足下に何かが突き刺さった。
    はっとして身構える。
    すぐそこに突き刺さっているもの、それは矢だった。しかも、ただの矢ではない。熊でも一撃でしとめられるほどの大きさを誇っている。もはや矢ではなく、バリスタと呼ぶべき代物だった。
    「こ、これは……」
    『フフフ、ワタシノアイテハ、オマエカ』
    金属音に近い声と共に、暗闇から姿を現したのは、金属で出来た機械の兵士、キラーマシンだった。
    「あ、あなたは」
    『ワタシハ、ヨンマショウノイッタイ、キラーマシン。オマエノメイウンハ、ココデツイエルコトニナル』
    「こいつが、四魔将の一体……」
    アイメルは天魔の杖を握りしめて、目の前のロボットに目を向けた。
    キラーマシン、古代文明で作られた意志を持たぬロボット兵士、右手に巨大な剣を、左手にバリスタ砲を装備し、正確無比な射撃と斬撃で一方的に敵を葬る、無慈悲なる戦士……
    (まずい、こいつは、相手が悪すぎるわ)
    キラーマシンには、どんな呪文も通じない。ミスリル合金製のボディは、炎にも強く、冷気にもびくともしない。むろん、その強度は鋼鉄よりも固いと聞く。
    生粋の魔法使いであるアイメルにとって、これほど相性の悪い敵はなかった。
    しかし、
    「こんなところで、立ち止まってはいられないわ」
    そういって、アイメルは自らを奮い立たせた。
    「私は、ロムのところへいく。ロムの背中は、私が守るって誓ったんだから!」
    そう叫んで、彼女は杖に念を送った。
    杖が眩く光り、先端から凄まじい炎がほとばしる。
    火炎呪文、ベギラゴンだ。
    ……しかし。
    『ムダナコトヲ』
    紅蓮の業火に巻かれたというのに、キラーマシンは平然としていた。
    それどころか、ブンッ、と剣を一振りすると、ベギラゴンの炎はまるでか細い蝋燭の火のようにかき消されてしまう。
    「なら、今度は!」
    再びアイメルは呪文を唱えた。
    とがった氷の固まりが、次々とキラーマシンに襲いかかる。
    冷気の呪文、ヒャドを矢のように尖らせて、しかもしれを連発して放つ。並の魔物なら、無数の氷の針に身体が突き刺さって血を吹かせるところだ。
    だが、
    『ムダ、ムダダ』
    それでもキラーマシンのミスリル合金に傷一つつけることはできない。氷の方からむなしく散っていくだけだ。
    ……最悪な相手だ。
    アイメルの顔面から血の気が引く。
    『ソレデオワリカ、ナラ、コンドハコチラカライクゾ』
    無情にも言い放つと、キラーマシンは剣を旋風のように振り回しながらアイメルに目掛けて突進してきた。
    ……早い!?
    とっさに、大地を横に蹴って交わす。間一髪、その攻撃をかわす。長い亜麻色の髪の先端が無惨にも散ってしまったが、これくらいなら安いものだった。
    受け身を取りながら、アイメルは次の呪文を繰り出す。
    今度は爆裂呪文、イオラだ。
    空気中の酸素を圧縮して、一気に解き放つことで大爆発を起こす、破壊力は折り紙付きだ。
    だが、
    『アマイナッ』
    キラーマシンのモノアイが怪しく輝いたかと思うと、鋭い粒子の光線が放たれた。
    光線はなぎ払うように次々とアイメルのイオラを撃ち落としていく。
    (これもダメなら、もう打つ手が……)
    アイメルの顔に悲壮感が漂い始める。
    その一瞬の隙を、キラーマシンは逃さなかった。
    背中から凄まじいジェットを吐いて突進する。
    逃げる間もなく、アイメルはキラーマシンの巨大なマニピュレーターに鷲掴みにされてしまった。
    『トドメダ、ヒトオモイニニギリツブシテクレルワッ』
    グググッ、とキラーマシンは手に力を込める。
    「ああああっ!!?」
    ミシミシ骨が軋む。
    凄まじい激痛に、アイメルは意識が飛びそうになる。
    ……ロ、ム、ごめん。
    薄れゆく意識の中で、アイメルは先に逝くことをロムに詫びた。
    その時だ。

    ……情けない奴だ、それでも誇り高き魔族か。

    その声は、どこからともなくアイメルの脳に直接響いてきた。
    どこかで聞いたような、懐かしい声。

    ……思い出せ、魔族の、戦い方をッ!


    カッと、アイメルの目が見開かれた。
    『ナッ』
    キラーマシンのモノアイに、動揺が生まれた。
    グググググッ、と、すごい力で押し返されていく。その華奢な腕の、どこにこんな力が秘められているのか。
    『バ、バカナッ』
    バキィッ!
    とうとう、キラーマシンのマニピュレーターはアイメルの凄まじい力に負け、あり得ない方向に曲がって折れた。
    颯爽と、その場から抜け出す。
    アイメルの身体から生じるオーラ、それはあのアイメディスが放っていた暗黒のオーラに他ならなかった。
    その時になって、ようやくアイメルはハッと我に返る。
    「こ、この力は……」
    どういうことだ。身体の内側から魔力が溢れ出てくる。
    アイメディスと分離した時に、魔力の大半を彼女に持って行かれたはずなのに。
    ……まさか、それでもなお、自分の中には眠っていたパワーがあって、それが今目覚めたというのか。
    『コ、コノチカラニハ、データガアル、ソウ、コノチカラハ、カツテノマゾクノオウ、デスピサロノチカラ……』
    機械であるはずのキラーマシンが、戦慄している。
    「この力なら……!」
    アイメルは天魔の杖を手に、再び構えた。
    彼女の身体から発される暗黒のオーラが、再び唸りを上げる。
    『コウナッタラ、ミセテヤルゾ! ワタシノ、ウラモードヲ!』
    キラーマシンはそう叫ぶと、思いっきり両腕を振り上げた。
    勢いよく装甲部分が割れ、フレームが剥き出しになる。そこから、バチバチと放電現象が引き起こされる。
    自らに掛けられたリミッターを解除し、短期間だが自身の性能を倍以上に高める隠された機能、それが裏モードだった。
    『イクゾッ!!』
    キラーマシンが疾走を始める。
    地面を滑るように滑走するそのスピードは、相当なものだった。
    一瞬で間合いを詰め、アイメルめがけて剣を振り下ろす。
    「ピオリムッ!」
    だが、その一撃を、彼女は避けた。
    自身の瞬発力と脚力を高める呪文、ピオリムを使ったのだ。
    瞬時にキラーマシンの背後に回り込む。
    『ヨメテイルゾッ!』
    キラーマシンは半壊したマニピュレーターをパージすると、空洞となったその腕先をアイメルに向けた。
    ゴオオッ!!
    それは、数百度の熱風を放出する発射口だった。
    たちまち、アイメルは吹っ飛ばされ、床に転がり落ちる。
    「くっ……」
    とっさにフバーハを張り、ダメージは最小限に抑えたが、倒れた時に背中を激しく打ったため、身動きが取れない。
    『ククク、コレデオワリダ』
    とどめとばかりに、キラーマシンはアイメルに向けてがらんどうとなった腕を構える。
    「うぅっ……」
    起きあがろうともがくが、ダメージは深刻で、身体がいうことを利かない。
    このままでは……
    その時だ。アイメルの目に、すぐ近くに転がった天魔の杖が目に留まった。
    「これしかない!」
    アイメルは懸命に腕を伸ばし、杖を手に取った。
    「キラーマシンには呪文は通じない、でも……!」
    アイメルは杖の先端を手槍に見立てて、キラーマシンに向けて思いっきり投げた。
    『ミグルシイマネヲ……ナ、ナニィッ!』
    キラーマシンに向けて放たれた天魔の杖は、急にそのスピードを上げた。
    彼女が杖に向けて放った呪文、それは、バシルーラだった。
    天魔の杖は、弾かれたかのように猛スピードでキラーマシンへと肉薄していき、その熱風発射口の奥深くへと突っ込んだ。
    「ごめんっ!」
    そう叫んで、アイメルは小さく呪文を唱える。
    それに呼応するように、天魔の杖はその内部にため込んだ魔力を一気に放出した。
    それは、凄まじい爆発を伴った。
    さすがのキラーマシンも、体内からの爆発には耐えきれず、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
    『イブールサマァァァッ!!』
    その、人間じみた断末魔の叫びが、文字通りキラーマシンの最後の言葉となったのだった。
    「や、やった……やったよ、ロム」
    儚げな笑みを浮かべる。
    だが、緊張の糸がほぐれた次の瞬間、彼女の身体から暗黒のオーラが消えた。
    そして、アイメルの意識も同時に深き闇の中へと落ちていったのだった。




    アイメルがからくもキラーマシンを撃破した、ちょうどそのころ。
    フローラもまた、目の前の強敵と相対していた。
    魔人ヘルバトラーと。
    「けっ、つまらねぇなぁ」
    ヘルバトラーは退屈とばかりに唾を吐いた。
    「前世では勇者だかなんだか知らねぇが、その程度の戦闘力とは」
    「……くっ」
    何も言い返せない。
    フローラの攻撃も、呪文も、全てヘルバトラーには通用しなかった。
    「あんた、中途半端なんだよ、剣も、呪文も、どれも極めてねぇ。並の相手ならそれでも渡り合えただろうが、なっ!」
    一瞬のうちに、十発のイオラを出現させ、それをフローラめがけて放つ。
    とっさに彼女は呪文反射術マホカンタを発動させた。
    だが、ヘルバトラーのイオラの威力の前に、マホカンタは音を立てて砕け散る。
    「あああっ!!」
    爆風で、フローラは激しく吹っ飛んだ。
    「しかし、だ。その美貌、殺すには惜しいぜぇ。おい、お前、俺の女にならんか。そうすれば、命だけは助けてやるぞ」
    「……だ、誰が……」
    痛みをこらえて、フローラは起きあがる。
    「どうせロムもやつも、あんたの旦那も、イブールには勝てやしないんだ。賢い生き方をしろよ、なぁ?」
    「バカにしないで。あなたに辱めを受けるくらいなら、私は死を選びます!」
    フローラは叫んだ。
    「バカな女だ。なまじ、あんな男に関わるから、お前も不幸になる」
    「あんな男とは、私の夫を指していっているのですか!?」
    「それ以外に聞こえたかい? 聞いたところによれば、あんたはサラボナの令嬢で、戦いとは無縁の存在だったらしいな。それが、そいつと関わっちまったばかりにどうだ? 戦いに明け暮れる、辛い日々、せっかく再会した息子も、明日とも知れない命だ。あいつなんかと関わらずに、普通の男の妻になり、平凡な生活を送っていれば、穏やかな生活を送れただろうに。少なくとも、ここで俺に殺される未来はなかったはずだ」
    にたにたとゲスな笑みを浮かべて、ヘルバトラーは言う。
    「私は、あの人と添い遂げたことを、あの時の選択を、決して後悔していません!」
    「ほう」
    そういうと、ヘルバトラーは唇を怪しく歪ませた。
    「いいことを思いついた。このまま貴様を殺したのでは、面白くないし、そこまで言うのなら、お前さんに見せてやろう。もう一つの、あったかもしれない未来をな」
    「なにを……うっ」
    一瞬のうちに、フローラは喉元をヘルバトラーに鷲掴みにされた。
    そのまま、凄まじい力で持ち上げられる。
    「お前さんに、いい夢を見せてやろうというのさ。例えるならif。もう一つあったかもしれない未来というのをな。ただ殺すのも、つまらんしな」
    ヘルバトラーの瞳が、妖しげな光を放ち始める。
    「俺には、他のヘルバトラーにはない術が使えるのだ。相手の脳に干渉して、そいつを自由に書き換えることができるのよ。記憶を操作することも、どんな夢だって見せてやることだってできる。まぁ、メダパニの強化版といってもいい」
    「な、なにを……」
    「あんたに見せてやるっていっているのさ、あったかもしれない、もう一つの未来をな。結構気に入るかもしれないぜ? 俺の術にかかって、現実に戻ってこれたものは、一人もいないほどだしなぁ」
    「だ、だれが……うっ」
    頭の中が、軋むように痛みはじめる。
    凄まじい頭痛に、フローラは気が狂いそうになった。
    「ああああああっ!」
    「はははははっ! 決して醒めぬ夢の中で、せいぜい幸せに暮らすんだなっ!」
    ヘルバトラーの笑い声すら、すでに彼女には届かない。
    やがて、痛みが頂点に達した時、フローラの意識はぷつんと途切れた。



    「ああああっ!!?」
    叫び声と共に、彼女はベッドから飛び起きた。
    はぁ、はぁ、と荒い息を立てて。
    「……ゆ、め?」
    酷い夢だった。全身汗でぐっしょりと濡れ、寝間着まで汗でべたついている。
    彼女、フローラは深呼吸して、呼吸を整えた。
    朝の日差しが、窓辺から差し込む。
    そう、ここはもう見慣れた部屋、サラボナの別荘にある、彼女たち夫婦の寝室だった。
    「フローラ、大丈夫かい?」
    隣で寝ていた彼が、心配そうにこちらを見つめている。
    「すごい声だったけど」
    「え、えぇ、ごめんなさい。なんだか、いやな夢をみていたみたいで。もう大丈夫よ」
    にっこりと、彼女は愛する夫に微笑んだ。
    「……アンディ」





    続く





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