<< 反竜伝記 完結編 第二部 第45話 決戦前夜 | main | 反竜伝記 完結編 第二部 第47話 死闘、四魔将 >>
2015.04.09 Thursday

反竜伝記 完結編 第二部 第46話 最後の戦い

0
    最終章、突入!

     





    早朝。
    剣のようにするどくそびえ立つセントベレス山を眼前に、その男は立っていた。
    背後にはずらりと並んだ兵隊の列が並んでいる。
    その軍団を統率する軍服姿の男こそ、エリオスだった。
    彼の鋭い眼光は、セントベレス山の山頂に一点に集中している。
    「……」
    彼は黙したまま、胸元から懐中時計を取り出した。
    「……そろそろか」
    その時は残り十秒にまで迫ってきていた。
    高鳴る心臓を堪えつつ、彼はその時が来るのを待った。
    やがて、その時刻を迎えると共に、晴天の空に二つの光が上がる。
    それは、グランバニア軍とラインハット軍が上げた信号弾だった。
    「出撃ッ!!!」
    間髪入れず、彼は剣を引き抜き、腹の底から大声を上げた。
    後の世まで語られることとなる、セントベレスの聖戦の始まりだった。



    セントベレス山とその周辺は、瞬く間に戦場と化した。
    武装した兵士達がなだれ込むようにセントベレス山に向けて突撃していく。
    たちまち、各所で派手な爆発が上がった。
    それと同時に、地上から、空から、無数の魔物達があふれ出す。
    その数、数千、いや、万を越えた。
    魔物の種類は多種多様だった。アームライオンやバサックスといった比較的中型の魔物、ゴーレム、ドラゴンといった大型の魔物、空を飛ぶホークブリザードやメラゴースト……
    それら強大な魔物相手に、兵士達は恐れずに突っ込む。
    その光景は壮絶なものだった。
    瞬く間に、屍と肉片と流れた血が辺りを充満していった。


    一方、セントベレス山を見渡す西の海域では、編隊を組む無数の戦船の姿があった。旗には、グランバニアの紋章が刻まれている。
    「砲撃用意、撃て!」
    フラグシップにて陣頭指揮を執るピエールの号令と共に、全ての船に備え付けられた大砲が激しく火を噴いた。
    砲弾は大きく曲線を描いて、魔物が密集している箇所に次々と落ちた。
    「ピエールさん、おいでなすったぞ!」
    彼の補佐をしていたラウが、空から迫り来る魔物の群れを指さす。
    「弓隊で迎撃! 打ち漏らした魔物は船上で迎え撃つぞ!」
    「がってんでい!」
    ラウをはじめ、乗組員達は武器を手に叫んだ。



    一方、ラインハット軍が担当する北の浜辺でも、激しい激戦が繰り広げられていた。
    「ええぃ、ベギラゴン!!」
    魔物の群れに向かって火炎呪文を唱えたのは、かつてのリュカの仲間である老魔法使いのマーリンだった。
    「どうじゃ、老いたりとはいえ、このマーリン、まだまだ健在じゃわい!」
    「あまり無茶はしないでくださいよ」
    そんな彼をサポートするのは、鉄の槍を手にした中年の兵士トムだった。
    「あなたに怪我でもされたら、私がヘンリー様に叱られてしまいます」
    「何情けないこといっとるか。やっと回ってきた出番なんじゃぞ、ほれ、ヒャダルコ!」
     巨大なはさみを掲げて向かってきた軍隊ガニを、氷結呪文で軽くいなす。
     凍り付いた魔物に真っ先に食らいついたのは、鋭い牙を持つキラーパンサーだった。
    「おぉ、プックル、お前さんもきとったか」
    「プックルだけじゃなくてよ」
     キラーパンサーに跨がり、勇ましげに鞭を奮う女性がいた。
     言うまでもなく、リュカの幼なじみであり、ピエール夫人であり、アイメルの母でもあるビアンカだった。
     その横には、スラリン、ベホマン、挙げ句はサラボナのキラーマシン、ロビンの姿まである。
    「ほっほっほ、懐かしい面々が勢揃いじゃのう」
    「けっ、目には目を、魔物には魔物ってわけだ。やってやるぜ!」
     鋼の牙を口にはめ、スラリンがニヤッと笑った。
    「いくぜぇ、ベホマン、ベス!」
    「ベホマン〜♪ わかったの〜」
    「二人とも、歳考えて、あまり無茶しないでよね!」
    『やれやれ、これは、わたしが頑張らないといけないようですねぇ』
     と、ロビン。
     そんな彼らをほほえましそうに見守りながら、ビアンカは遙か天空を眺める。
    (リュカ、フローラさん、ロム……必ず生きて帰るのよ!)



    「派手にやってるなぁ」
     天空城の心臓部、オーブの間。その中央の台に置かれた水晶に映し出されている映像は、紛れもなく下界の戦場だった。
    「今のところ、両者拮抗している、という感じか」
     と、リュカ。彼はかつてフェズリィと名乗っていた時に身につけていた魔神の鎧を再び装備していた。ただ、正体を隠す必要はすでにないため鉄仮面は被ってはいない。
     腰にはグランバニア王家に代々伝わる王家の剣を帯剣している。結局、彼は父の形見のこの剣が一番手になじむのだ。
    「みなさん、お久しぶりですねぇ」
     台座に置かれたシルバーオーブから、聞き慣れた声が響いた。
    「プサンさん!」
    「私もいるよ、ロムお兄ちゃん」
     今度はゴールドオーブから、マナの声がした。
    「二人とも、会話ができるんだね」
    「ご挨拶が遅れてしまってすみません。あいにくと声だけですが、これからあなた方をセントベレス山に無事送り届けるべく、尽力させていただきます。マナ、準備はいいかい」
    「えぇ、結界作動!」
     ロムにはわからなかったが、天空城一帯に白いオーラのようなバリアが覆われた。
    「よぉし、さあみなさん、全速力で突っ込みますよ!」
    「行って下さい、プサンさん!」
     ロムが頼んだ。
     グラッ、と城全体が揺れるような違和感を感じた。
     水晶の映像が、天空城の眼前の映像に切り替わる。
     ぐんぐんとすごいスピードでセントベレス山めがけて迫っている。
     むろん、それを黙って見ている光の教団ではなかった。
    「グギュアアア!」
    「ここから先へは、行かせぬぅっ!」
     多数の叫び声と共に、空の魔物達が迫ってくる。
     その数、空が黒く覆われるほどだ。
    「来るよ!」
    「心配ご無用です! この城が神の城であることをお忘れですか?」
     プサンの言うとおり、天空城の結界は恐ろしく強固だった。
     襲い来る魔物をいとも簡単に弾き飛ばし、全方位から攻撃を受けているというのに、ヒビ一つ生じない。むろん、城内へ侵入できようはずもなかった。
     そうこうしている間にも、天空城はセントベレス山と距離を詰めつつあった。さっきまで小さく感じられていた敵の居城が、もう目の前まで迫っている。
    「……! おいでなすったようですぞ!」
     プサンの声に緊張感が生じる。
     そう、警戒していた光の教団の切り札、雷神の杖が今まさに放たれようとしているのだ。
     神殿の天辺に設置された巨大な杖の先端が、怪しく光り輝く。
     十分に魔力を秘めた杖は、次の瞬間、そのチャージした波動を一気に放出した。



     ドゴォォォッ!!



     すさまじい轟音と揺れが、城内に響きわたった。
     雷神の杖から放たれた邪悪な雷が、天空城に直撃したのだ。
    「プサンよ、被害を知らせぃ!」
     必死に柱に掴まりながら、ブライが叫んだ。
    「……ば、バカな……」
     プサンの返事は、恐怖におののいていた。
    「結界……貫通! 居住区に、直撃……被害、甚大です」
    「そんな! 一発は凌げるって計算じゃなかったんですか!」
     フローラが悲痛な声を上げる。
    「予想以上に、威力が大きかった。次あんなのをまともに食らえば、さすがの天空城といえども、ひとたまりもない」
    「こりゃプサン! 情けないことを言うでない!」
     ブライがわめき散らす。
    「そうだよ、第二発目がくる前に、接岸しちゃえばいいんだよ」
     プサンを励ますように、マナが言う。
    「そ、そうですね、今更後には引けません。みなさん、いきますよ!」
     天空城は白煙をあげつつも、そのスピードを落とさない。
     だが、そんな一行をあざ笑うかのように、雷神の杖は再び怪しげな光を放出し出した。
    「なっ、チャージが早すぎる! 間に合わない!!」
     悲惨な声でプサンが叫ぶ。
    「……!!」
     それまで黙って事を見守っていたロムが、意を決して短く呪文を唱えた。
     脱出の呪文、リレミトだった。
    「ロム、なにを……!」
     リュカが止めようとしたが、間に合わない。
    「ロム……!!」
     その時、水晶にロムの姿が映し出された。
     むろん、彼は逃げるためにリレミトを使ったのではない。
     その逆、立ち向かうために、あえて外に出たのだ。
     彼は天空城をかばうように正面に立っていた。
     左手には、そう、天空の盾を構えて。
    「まさか、天空の盾で雷神の杖を受け止めようというのか!」
    「無茶だよ、ロム兄ちゃん! やめさせて!」
     マナの叫びもむなしく、雷神の杖から第二射が無慈悲にも放たれた。




    「うおおおおお!!」
     ロムは迫り来る黒き雷を前に、腹の底から声を上げて対抗した。
     天空の盾の竜の口から放たれた光の波動が、黒き雷に正面から激突した。
     バチバチと激しい火花を散らしながら、善と悪、双方の波動はぶつかり合う。
     勝ったのは、光の波動だった。
     ロムの放った波動は、雷神の杖の黒き雷を飲み込んで、逆に雷神の杖を木っ端微塵に破壊した。



    「す、すごい……雷神の杖を押し返して、挙げ句に破壊するなんて」
     プサンは唖然として今の光景を振り返っていた。
    「なんという、強大な力じゃ。歴代の勇者と比べても、ロムの力はずば抜けておる。もはや、人が持つ強さの次元を越えておるぞ」
    「……ロム」
    一人、アイメルだけが不安げに肩で息をしている彼を見つめていた。
    「今のうちに、はやく!」
     ロムが叫ぶ。
     それに応えるように、天空城はものすごいスピードで加速していき、とうとう山の頂に激突した。
     すさまじい衝撃、飛び散る岩石、舞い上がる粉塵。そして空を震撼させるほどの轟音。
     恐ろしいほどまでに巨大な城が、世界一の標高を誇るセントベレス山にめり込むほどの突き刺さるその光景は、まさに圧巻だった。


    「あたたたた、全く、全速力でぶつかるやつがあるか」
     腰をしたたかに打ったらしく、ブライは苦しげな顔をしながら言った。
    「す、すみません、勢い余っちゃって、大丈夫でしたか、みなさん?」
     皆のことを心配するプサンだったが、幸いなことに、腰を痛めたブライ以外にけが人は一人も出なかった。
    「さて、ではいくかね」
    「うむ」
     リュカとライオスが頷きあう。
     アイメルも、フローラも真剣な表情だ。すでに心の準備は出来ている、といった感じだ。
    「みなさん、私たちはここであなた方の帰りを待つことにします」
    「必ず、帰ってきてね!」
     二つのオーブに見守られながら、リュカ達は歩き出す。
     と、その時だ。
    「ちょっと待った」
     腰を押さえつつ、ブライが彼らを呼び止めた。
    「なにか?」
    「これは、ワシからの餞別じゃ、受け取るがいい」
     そういって、懐から彼が取り出したのは、山吹色の透明な液体が入れられた小瓶だった。
    「どんな怪我も瞬時に癒すといわれる秘薬、世界樹の雫じゃ。あいにくと、百年に一度しか採れないものゆえ、これ一つきりじゃがな」
    「そんな貴重な品を、ありがとうございます」
     フローラは丁重にその小瓶を受け取った。
    「それから、アイメルにはこれを」
     次にブライが取り出したのは、片手で持てるほどの小さなベルだった。
     美しい装飾が施されている以外は、特に何の変哲もなさそうな楽器だった。
    「これは?」
    「なに、お守りじゃよ。道具袋にでも入れておいておくれ」
     そういって、ブライはにやっと笑った。


     片や、光の教団本部の神殿では……
    「ほ、報告します、雷神の杖は破壊。天空城の接岸を許してしまいました

     神殿の最深部、薄暗い祭壇……通称、教祖の間で瞑想しているイブールは、部下の竜人兵シュプリンガーの報告に目を開けた。
    「くっくっく、いよいよ来たか」
    「イブール様、ここはもう危険です、お逃げを」
    「……逃げる、だと」
     イブールは鋭い眼光をシュプリンガーに向けた。
    「ヒッ」
     あまりの迫力に、シュプリンガーが蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。
    「何を逃げる必要がある! 獲物がわざわざ向こうからやってきたのだぞ。ここで勇者達を葬れば、もう我らに抵抗できる者はいなくなる。違うか!?」
    「は、はい」
    「なら、至急四魔将に召集をかけんか!」
     怒鳴り散らすようにイブールは叫ぶ。
     シュプリンガーはびっくりして、逃げるようにその場を立ち去った。
    「……使えぬ屑めっ!」
     ペッ、と汚らしくその場に唾を吐き捨てる。
    「お呼びになる必要はありませんぞ」
     ぬっ、と暗闇から姿を現した集団があった。
     その数、四体。
     牛の下半身に鬼のような屈強な肉体を持つヘルバトラー、金色の鱗が眩く輝く金竜グレイトドラゴン、特殊金属のボディを持つ無機質なる殺戮マシン、キラーマシン、そして、その実力はイブールに匹敵すると言われながらも、あえて彼の部下に甘んじている上級魔族アークデーモン……
     いずれも、一騎当千の魔界で有名を馳せた実力者達だった。
    「ぬっ、すでにおったか」
    「とうとう勇者達がこの神殿にやってきたわけですな?」
     両手をポキポキ言わせながら、ヘルバトラーの声は歓喜に震えていた。
    「うれしそうだな?」
    「えぇ、伝説の勇者の首を、この手でへし折る時が、ようやく訪れたと思うと、いてもたってもいられませんぜ」
     そう言って、邪悪な笑みを浮かべる。
     彼は残忍さでは、四魔将一と呼ばれるほどのサディストだった。
    「残念だが、勇者と戦うのは私のみだ」
    「なんですと!」
     アークデーモンが驚きの声をあげる。
    「おまえ達は、勇者に付き従う者どもの始末を頼む」
    「なんでぇ、つまんねぇなぁ」
     と、ヘルバトラー。
    「イブール様、それはあまりにも危険ですぞ、せめて私だけは、あなたのおそばに」
    「くどいぞ、アークデーモン。この私が、勇者程度に遅れをとると思っておるのか?」
    「し、しかし、勇者ロムの力は、今や神であるマスタードラゴンに匹敵するという報告すらあがっています」
    「案ずるな、この私とて、無策で奴に挑むわけではない。私とて試してみたいのだ。私が得た、新たなる力をな」
     そう言って、イブールはぐっ、と拳を強く握りしめる。
    「し、しかし、あの力はあまりにも危険なため、封印されたもの。あなたの自我すら崩壊する危険が……」
    『……モウ、ヨセ』
     一部始終を見守っていたキラーマシンが、電子音の声をあげた。
    『イブール、ケツイ、カタイ。ナニイッテモ、ムダ』
    「そうじゃのぅ、わしらはわしらの仕事を、やるだけじゃよ」
     そういったのは、グレイトドラゴンだった。ドラゴン族の中でも、長い時を生きた者は豊富な知恵を蓄え、人語をも話せるようになるという。グレイトドラゴンは、まさにその生きた見本だった。
    「……すまんな」
    「けっ、いいってことよ。俺たちは、あんたの理想に従って、ここまでやってきたんだ。地上でのうのうと暮らしている人間どもと、俺たちを暗く、冷たい魔界へ落とした傲慢な神への復讐。それらが叶うのなら、この命、いくらでも差し出してやるぜ」
    「よくいった、ヘルバトラー! なら、これ以上の言葉は無用である。おまえ達はこの私に誓え! 必ずや戦いに勝利し、私の眼前にリュカ、フローラ、ライオス、アイメルの首を持ってくると!」
    「応ッ!!」
     四魔将は力強く拳を掲げて叫んだ。




     つづく
    コメント
    コメントする








     
    この記事のトラックバックURL
    トラックバック
    Calendar
      12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
    << May 2018 >>
    web拍手
    お読み頂けたらぽちっとおして頂けると大変うれしいです。
    Twitter
    Selected Entries
    Categories
    Archives
    Recent Comment
    Recommend
     (JUGEMレビュー »)

    小説執筆には必須ともいえる日本語入力ソフト&ワードです。
    Recommend
    キングジム デジタルメモ ポメラ DM100 ブラック
    キングジム デジタルメモ ポメラ DM100 ブラック (JUGEMレビュー »)

    管理人も使っているシンプルメモ帳。小説執筆にも使えますぞ!
    Links
    Profile
    Search this site.
    Others
    Mobile
    qrcode
    Powered by
    30days Album
    無料ブログ作成サービス JUGEM