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2015.03.11 Wednesday

反竜伝記 完結編 第二部 第44話 エリオスの帰還

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    JUGEMテーマ:二次創作小説

    遅ればせながらアップしました。
     
    反竜伝記 完結編 第二部 第44話 エリオスの帰還


    ロムの放ったマジャスティスの光を、エリオスはまともに浴びた。
    「うっ!」
    魔力の光が、エリオスの身体に纏わり付く。
    光は彼の内部に深く染み渡っていった。まるで彼の中の何かを洗い出すかのように。
    (これで、真意がはっきりする。頼む、偽者であってくれ!)
    祈る思いで、ロムは呪文の効力が出終わるのを見守った。
    光がじょじょに消えていく。それと共に、まぶしさに目を瞑っていたエリオスも、うっすらと瞼を開く。
    だが、そこにあったのは、先ほどまでと何ら変わらない、冷たい目だった。
    「何をするかと思えば、単なる目くらましか。伝説の勇者も、いよいよ焼きが回ったと見えるな」
    そういって、エリオスは落としてしまった剣を拾う。
    (もうここまでか……!)
    ロムは決意を固めざるを得なかった。盟友となった彼を討つ覚悟を……
    だが、彼は知らなかった。
    ロムの放ったマジャスティスは、全く役に立たなかったわけではなかった。
    「死ね!」
    エリオスが剣を振り下ろそうとした。だが、その切っ先がロムに届く寸前で止まった。
    「なっ!」
    驚愕の表情を浮かべたのは他でもないエリオス自身だった。
    まるで金縛りにあったみたいに、腕が動かないのだ。自分の意思に反しているかのように。
    「くっ、おのれ、どういうことだ! 動けっ、うごけぇ!」
    だが、どんなに渾身の力を込めても、微動だにしない。
    「い、いつまでも、思い通りになると思うなよ!」
    その声は、エリオス自身の口から発せられたものだった。
    「エリオス!?」
    驚いて、ロムは叫んだ。奇妙なことに、今までのエリオスとは全く別の声色をしたエリオスの声が聞こえてきたのだ。いや、この厳しくも優しさが垣間見れる声こそ、本当のエリオスの声に違いなかった。
    「くっ、お、おのれ、完全に封じ込めたと思ったが」
    「おあいにく様だったな、さっきのロムの呪文が、意識の内側に封じ込められていた俺自身の意識を呼び覚ましたのだ」
    二つの声は、一人の人間の口から発せられたものだった。
    他人が見たら奇妙に見える光景だったが、ロムにはすぐに理解できた。
    「エリオス、君なんだろう!? 返事をしてくれ」
    「あ、あぁ、ロム、そうだ、私だ。お前の知る本当のエリオスは、この私だ」
    「くっ、勝手に、声が」
    「ロム、今私の身体を乗っ取っているのは、光の教団の魔物だ。私の記憶と人格をコピーし、私本人に成りすましていたのだ。本来の人格である私自身は、固く封印されていたのだが、

    さっきのお前の呪文によって、その封印が解除された、というわけさ」
    「やっぱり……」
    仮にラーの鏡を見せたとしても、無駄だっただろう。エリオスはその身体を乗っ取られていたのだから。
    「お前と離ればなれになった時に、私は光の教団に捕まってしまってな……我ながら、情けないな。だが、それもこれまで。ロム、待っていろ、今助けるぞ」
    そういって、エリオスは剣を鞘に治めようとするが、
    「バカめ! 今この身体を支配しているのはこのオレだぞ!」
    彼の身体に寄生している魔物が、支配力を強める。本来の身体の持ち主も必死にそれに抗おうとするが……
    「くっ、か、からだが……」
    身体の自由は再び魔物に奪われたエリオスは再び、ロム目がけて剣を構えてしまう。
    「ふはははは、今度こそ、死ねぃ、勇者!」
    「う、うおおおおおっ!」
    必死の抵抗も空しく、とうとうエリオスは剣を振り下ろしてしまう。
    ……今度こそやられるっ! そう思った、その時だった。
    間一髪のタイミングで、二人の間に割り込んだ者がいた。
    それはアイメルだった。天魔の杖で、エリオスの剣を受け止めたのだ。
    「きみは、アイメル、なぜ!?」
    「エリオス、諦めちゃだめよ! 魔物なんかに負けちゃだめ!」
    「おのれぇ、余計な真似を! まず貴様から叩っ切ってくれるわ」
    そういって、魔物は両手に力を込める。腕力に差がありすぎて、アイメルはたまらず膝を折った。今にも脳天に刃が届きそうな勢いだ。
    「ア、アイメル、その杖の尖った先端で私の胸を突くのだ」
    「えっ!?」
    苦しげに放った言葉に、アイメルは驚いた。
    確かに、天魔の杖の先端には槍のように鋭い穂がついており、突くことも可能だ。だが、
    「そんなこと、できるわけがないわ」
    「やるんだ! 今となっては、私の肉体ごとこいつを殺す以外に方法はない!」
    「でも……」
    「……操られていたとはいえ、私は大罪を犯してしまった。光の教団の手先となり、お前達の敵となり、そして、自らの妹までも手にかけてしまった……」
    それは、懺悔に近い告白だった。
    「……アイメル、やってくれ、これ以上、私に生き恥を晒させないでくれ!」
    「エリオスッ! あなた、本気でそう思っているの!? そうだとしたら、とんだ思い上がりよ! 私だって……」
    アイメルにだって後悔の念はある。別人格が犯したこととはいえ、自分もロムや、彼の大切な人達を傷つけたのだ。
    「エリオス、償わなければならないのなら、それは、生きて償うべきよ! 死んで全てチャラにするなんてことは卑怯だわっ!」
    「アイメル、しかし、今となっては……」
    「ゴチャゴチャとうるさいやつらよ! ほらほら、もうすぐ刃が届くぞっ!」
    「くうぅっ……」
    アイメルの方はすでに限界が近かった。腕が痺れてきていている。このままでは……
    「勇者よ、ライデインだ!」
    その時、エンドール皇帝が叫んだ。
    「ライデインは、邪悪な者を打ち払う破邪の呪文っ! エリオスの中に潜伏している魔物にも必ず効果がある!」
    「そ、そうか! ならば」
    それを聞いて、ロムは必死の思いで立ち上がった。
    「馬鹿め! そんなことをすれば、この男の身体もただではすまぬぞ! それに、この男がマホトラの魔方陣の上に立っていることを忘れたか!?」
    「それならっ!」
    カァッ、と、アイメルの身体がまばゆく輝き出した。その光はロムに吸収されていく。
    それは、マホトラの応用呪文だった。本来のマホトラは対象者の魔力を奪うのに対し、アイメルが唱えたのは、その逆。自分の魔力を対象者に分け与えることができるのだ。
    「ち、力が、戻っていく。よしっ」
    ロムは天に手を掲げた。意識を集中し、己が魔力を高める。
    「エリオス、ちょっとの痛みくらいは我慢してくれよ、荒療治でいくぞ!」
    「させるかぁっ!」
    エリオスの身体を操る魔物は、アイメルを蹴り飛ばすと、ロム目掛けて飛びかかった。
    凶刃が彼に迫る。
    だが、ロムは思わぬ行動に出た。あえて、エリオスにしがみついたのだ。
    「くっ、なにを……」
    「ライデインッ!!」
    エリオスにしがみついたまま、ロムは呪文を唱えた。
    天空から放たれた聖なる雷が、天井を貫き、そのまま二人に落ちる。
    「ぐおおおっ!!」
    「くううっ……」
    凄まじい衝撃とダメージが、二人を襲う。
    目眩を覚えながらも、ロムはさらに続けた。
    「まだだ、ライデインッ!!」
    再び落雷が落ちる。
    それは、壮絶な根比べだった。
    「ラ、ライデ、インッ!!」
    ドオォォォンッ! 凄まじい轟音と雷光が、容赦なく二人に襲いかかる。
    「や、やめろぉ、こ、これ以上はぁっ」
    「ギ、ギガデイ……」
    「ひ、ひいいいぃっ!!?」
    その時、エリオスの身体から、何かが飛び出た。
    それはガス状の魔物、ギズモだった。
    「いまだっ!」
    「うおおおぉっ!!」
    自由を取り戻したエリオスが、渾身の力を込めて地面を蹴り、今まで自分を操っていた魔物を縦一閃に切り落とした。
    「がああぁぁっ、イブールさまぁぁぁ……! 万歳ーーーっ」
    断末魔の叫びと共に、ギズモは四散し、ただのガスと化した。




    ようやく自由を取り戻したエリオスは、残ったメドーサボールを一刀のもとに斬り伏せた。
    手足を縛っていた触手を解くと、皇帝は息子に向かって苦笑した。
    「この親不孝者め、よく戻ってきたな」
    「父上……」
    エリオスの表情は晴れない。
    支配が解かれたとはいえ、やはり、彼のしてきたことはあまりにも罪が大きかった。自らの妹の死の原因を作ったのも、他ならぬ自分なのだ。
    「エリオス。操られていたとはいえ、不覚を取ったのは事実。その責任、決して軽いものではないぞ」
    「承知しております。どんな処罰でも、甘んじてお受けする覚悟は出来ております」
    「そうか……」
    そういうと、皇帝は剣を引き抜き、エリオスの眼前に突きつけた。
    「こ、皇帝!」
    驚いて、ロムとアイメルが止めようとするが、
    「ぬんっ!!」
    皇帝は容赦なく刃を振り下ろした。



    結果から言うと、エリオスは無傷だった。
    皇帝は彼が腰に帯びていた剣の留め具を狙ったのだ。
    王家の紋章が刻まれた剣が弾かれて、床に転がる。
    「これで、エンドールの皇子エリオスは死んだ」
    「……!」
    エリオスの身体が一瞬びくっと震えた。
    「処断は済ませた。エリオスよ、お前は今日よりエンドールの名を名乗ることを禁ずる。これよりお前は、王族でも、貴族でもない、死んだ我が息子と同名の、ただの平民に過ぎぬ。どこへでも自由に行くがよい」
    「エンドール皇帝……」
    ロムには、彼の気持ちがわかる気がした。
    光の教団との戦いが終われば、後処理として、この無用の戦いを引き起こした責任を、誰かが取らなければならない。それは必然的に、光の教団と手を組んだエンドール皇帝一族とな

    るだろう。そうなれば、エリオスも……
    「やめて下さい、父上。この上私に情けを掛けるなど」
    「愚か者め!」
    なおもすがるエリオスに、皇帝は一喝した。
    「……最後の最後くらい、父親らしいことをさせろ。この親不孝者め」
    それは、普段の皇帝からは信じられない言葉だった。
    それから皇帝は、ロムに目を向ける。
    「……ロム殿、我ながら甘い判断だとは思う。だが、光の教団と策謀し、今日の事態を引き起こしたのはあくまでも余なのだ。この戦いの後、余は裁判にかけられ、おそらく、死罪は免

    れないだろう。余はそれでも構わない。だが、エリオスは、エリオスだけは……」
    「わかっております、陛下。あなたの父親としての懇意を、無下に断ることは致しません」
    「……ロム」
    「エリオス、僕には君が必要なんだ。わかるね」
    そういって、ロムは彼に握手を求めたが、
    「……だが、私は、大切な妹を……」
    差し出された手を、エリオスは拒む、その時だ。意外な人物の声がその場に乱入してきたのは。
    「兄様は、ロム様のお手を取るべきですわ」
    驚いて二人は振り向く。
    そこには、確かに死んだはずのエリアの姿があった。
    「エ、エリアッ!?」
    ロムは驚愕の声を上げた。
    信じられない、彼女は確かに、あの場で息絶えたはず。
    「ど、どうして?」
    アイメルも驚いて、目を丸くする。
    「嫌ですわ、アイメディス様。私の命を救って下さったのは、他でもない、あなたではありませんか」
    「「なんだって?」」
    ロムとアイメルの声が重なる。
    「確かに私は、魔物の凶刃によって息絶えました。ですが、つい先ほど、私の部屋に立ち寄られたアイメディス様が、私にこれを」
    そういって、エリアはアイメルに一枚の葉を渡した。
    それは、伝説の世界樹の葉だった。
    「まさか、これを、アイメディスが、君のために?」
    「えぇ、私がお礼を言う暇もなく、飛び立ってしまいましたが……あら、よく見たら、アイメディス様とは少し雰囲気が」
    首をかしげるエリアを尻目に、アイメルはじっと効力の失った世界樹の葉を見つめた。
    (確かに、私(アイメディス)は、ゲマから手渡された世界樹の葉を一枚所持していた。けど、それはあくまでも万が一の時のための保険として、だったはず。それを、エリアの命に使った……?)
    アイメルには信じられなかった。今のアイメディスには、そんな善なる心は全く残っていないはずなのに。一体なぜ?




    イブールの放った襲撃部隊も、ロムと、正気を取り戻したエリオスらによって瞬く間に制圧された。
    被害は甚大だった。兵士、民間人合わせて多大な犠牲者が出た。医務室は怪我人でベッドが足りず、死者を弔うにも棺桶が足りない。
    「この戦いが終わったら終わったで、エンドールの未来は決して明るくはないな。少なくとも、帝制を維持はできんだろう」
    未だ黒い煙があちこちで立ち込めているエンドールの城下町を丘で見下ろしながら、エリオスは呟いた。
    「この国はタブーを犯し過ぎた。占領地からの撤退、それに付随する各国への賠償金。国家が殻になるくらいで収まればいいが、そうもいくまい。いずれ革命の狼煙が上がるだろう。そ

    の後この国がどんな形に生まれ変わるか……願わくば、人々が笑って暮らせる、暖かな国になってくれることを、祈るばかりだ」
    「そうだね」
    ロムは隣で頷く、その時だ。
    「おぉ、ロム。ここにいたか」
    声がして振り向くと、そこには懐かしい顔ぶれがいた。
    グランバニアの国王である父リューゼンリッター。それから、ラインハットの国王代理のヘンリー王子の姿があった。
    「二人とも、来てたの?」
    「あぁ、ここにはいないが、ルドマン(義父)さんやテルパドールのレティシア王女も来ておられる。共に和平会談に出席する、各国の代表者としてな。もっとも、そいつは表向きで、

    実際は各国で協力して光の教団への包囲網を敷くというのが本来の目的だ」
    「それじゃあ、父さんも戦ってくれるの?」
    「あぁ、もちろんさ。この戦いは、元はといえば私が始めたようなものだからな。決着は、自分の手でつけなければならん」
    「へ、陛下、いけませんっ」
    慌てて彼の前に飛び出したのは、従者として彼に付き従ってきたグランバニアの兵士、ピピンだった。
    「ロム様からも止めて下さい。陛下は、まだ身体の傷が癒えていないというのに、ご無理をなさって。それに、医師からは二度と剣を取ってはならないとキツくご忠告なされたはずです

    。今度激しい戦いをなされては、それこそ命に関わると」
    「ピピン。こういうときの父さんには何を言っても無駄だよ」
    「うぅ……」
    ピピンは苦しそうに胃のあたりを押さえた。一兵卒の彼にとって王の護衛は荷が重いのだろう。
    「やれやれ、無鉄砲な王様を持つ兵士というのも、けっこう大変なもんだな」
    「君にいわれたくはないなぁ」
    「俺はいいんだよ、王族なだけだから」
    気楽そうに、ヘンリーは肩をすくめた。
    この二人がこうやって親しげに肩を並べるのも、ずいぶん久しぶりだ。
    共に旅をしたことも、ずいぶん昔に感じる。
    その時だ。
    「……! これは」
    はっとして、ロムは天を見上げた。
    「どうした? ロム」
    友の奇異な行動にエリオスが訊ねる。
    「今、空から声が聞こえたような」
    「……? 何も聞こえなかったが?」
    「いや、聞こえる。これは……」
    ロムが耳をすませた時だ。
    突然、その場にいた全員の身体が、眩く光り出した。
    「なっ、なん……」
    驚きの声をする間もなく、光と共に一行の身体は空へと飛び上がった。




    突然の浮遊感は一瞬だった。
    気がつくと、一行は見知らぬ庭園にいた。
    「ここは?」
    ロムは辺りを見回して、あっ、と声を上げた。
    目の前にそびえ立つ悠大な城。それが伝説の天空城だと悟るのに、そう時間はかからなかった。
    「ど、どうなってんだ? 俺たち、白昼夢でも見てるっていうのか」
    唖然とするヘンリー。
    「いや、これは夢ではなさそうだぞ。ヘンリー」
    リュカはこちらに向かってやってくる一団を指さして言った。
    それは、紛れもなく別行動をしていた妻や娘をはじめとするメンバー達だった。
    「お兄ちゃん、お父様!」
    二人に向かって一番に駆けつけてきたのは、ロムにとっての妹であり、リュカにとって愛娘である、フィアだった。
    「やっぱりフィア達か。しかし、これはどういう……」
    「天空城の力を使って、皆様をこの場にお連れしたわけですわ」
    そう言ったのは、ロムにとって恩人である、天空人の女騎士セーラだった。
    「おぉ、それでは天空城は無事、浮上したということか」
    「なんとかね」
    「いいぞ、これで希望が見えてきた」
    「……それで」
    ロムは一人首をかしげた。
    「プサンさんと、マナは? 姿が見えないようだけど」





    「……そうか、二人は」
    フィアから事情を聞いたロムは、複雑な表情で呟いた。
    マナとプサン、二人は元々は天空城の動力源たるオーブという存在だった。もう、人間として彼らと出会うことは叶わない。
    「ロム、二人は死んだわけではない」
    気休めかもしれないが、エリオスはそういってロムの肩に手を置いた。
    「そうよ、兄さん。兄さん達をこの城に転送したのも、私達がゴールドオーブ、マナに頼んだからなの。マナはもう言葉も話せないけど、いつでも、私達を見守っているわ」
    「マナ……」
    ロムは目を閉じて、あの健気な少女の姿を思い浮かべた。思えば、先ほどの声はマナのものだったのかもしれない。
    「ロム、感傷に浸っておる場合ではないぞ」
    「ブライ様」
    落ち込む彼を叱咤激励したのは、かつて勇者と行動を共にしたという導かれし者達の最後の生き残り、老魔法使いブライだった。
    「天空城は浮上した。今こそ、全ての元凶である光の教団を叩く時なのじゃ」
    「……ん?」
    その時、一人リュカが首を傾げた。
    「どうかなさったのですか、あなた?」
    その様子に気づいたフローラが訊ねる。
    「あ、いや、あの老人、まさか、ブライとは」
    「えぇ、あなたの考えておられる通り、あの、ブライですわ」
    「……」
    リュカはいぶかしげな目で、ブライを見つめた。
    「フローラ、ちょっとこっちへ……」
    「え?」
    言うが早いか、リュカは妻の手を取って皆に気づかれないように城の裏手へと回った。




    「もう、どうしたんですか?」
    人気のない場所につれてこまれて、フローラは年甲斐もなくドキドキしながら訊ねた。
    「……妙だ、あのじいさん、本当にブライと名乗ったのか」
    「どういうことですか?」
    「フローラ、君も知っての通り、私は伝説の勇者を探すためにこれまで幾度となく様々な文献を集めてきた。勇者の所在、というか、導かれし者達のその後が書かれたものはほとんどな

    かったが、唯一、信頼性のおける書物があったんだ。何を隠そう、君の、というより、ルドマンさんのご先祖、トルネコの伝記だよ。義父さんの書斎から見つけたんだが……」
    リュカは目を細めて呟いた。
    「老魔法使いブライは、108歳で老衰で亡くなっているんだ」
    「え? そんな……だって」
    フローラは驚いて目をぱちくりさせた。
    「あなたは、あのブライが偽物だと仰りたいのですか?」
    「そうとしか考えられない」
    「そんな、そんなはずがありません。あなたもご存じとは思いますが、私は前世でその勇者だった者です。前世の記憶でのブライさんと、今のブライさんは確かに同一人物。そうとしか

    考えられませんわ」
    「だが、ブライは遠い昔にすでに故人だという事実は動かない」
    リュカは断言した。
    「……フローラ、このことは僕と君の胸の内だけに閉まっておいてくれ」
    「それは、構いませんが……」
    フローラの胸には不安が渦巻き始めていた。
    考えて見れば、当たり前な話だった。エルフでもない、人間のブライが今日まで健在なはずがないのだ。
    ……彼は、一体何者なのだ。そして、ブライを名乗る人物の真意はどこにあるのか。
    光の教団の壊滅?
    あるいは……
    決戦の日は間近に迫ったというのに、フローラとリュカの前には、未だ解けない謎が霧のように立ち込めていた。



    続く




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