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2014.12.09 Tuesday

幼き日の約束 (主フロ)

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    アンソロジー用に書き下ろした短編に加筆修正して初掲載。
    幼少時に主人公とフローラが出会っていたら、というPS2の設定をもうちょっと突っ込んで書いたストーリーになります。
     


     幼き日の約束

               著 藤枝たろ


     大陸のはるか北に位置する、極寒の村。
     凍てつく凍土に覆われた真っ白な世界に、一人の幼子の姿があった。
     年の頃、まだ六歳。スカイブルーの瞳とセットになった髪をした、可愛らしい幼女は今、途方に暮れていた。
     少女の眼前には、真新しい墓石。墓碑銘は自分を育ててくれた父親の名前が刻まれていた。
     少女……フローラの父は、放浪の画家だった。母は彼女が物心つかないうちに流行病で亡くなったため、彼女は顔も覚えていない。
     フローラは父親に連れられて、様々な地方を旅して回った。
     そして、最後に落ち着いた地にて、彼女の父は奇しくも亡き妻と同じ病にかかり、あっけなく逝った。
     それが、つい一週間前のことだった。
    「まだいたのかい?」
     優しい声に、フローラは振り向いた。
     そこには、恰幅の良い大柄の中年男性の姿があった。
     来ている服も、羽織っているコートもとても高価なものであることは、幼いフローラにもよくわかる。
    「うん、こんどは、いつこれるか、わかりませんから」
     そう、これから自分が向かう場所は、海を隔てた遙か彼方の地、サラボナなのだ。
    「それより、ほんとうにいいのですか? わたしなんかを……」
    「言っただろう? わしら夫婦には子供がおらんのだ。それに、友人のあやつから、娘にもしものことがあったら頼むと託されておったからな」
     ルドマンは幼いフローラの背丈に合わせてかがむと、優しく少女の頭を撫でた。
    「これからはわしのことを、父と呼んでくれるかね? フローラや」
     その問いかけに、フローラはためらいがちに俯き、まるで同意を求めるように父の墓に目をやる。当たり前だが、返事は返ってこなかった。








     凍てついた一陣の風に、少女は肌寒さを覚え、まだ小さな自分の身体を抱きしめた。
     空は雲一つ無い晴天。天空には大地を優しく照りつける太陽も見受けられるというのに、少女の吐く息は白い。もう五月だというのに。
    「寒いのかい? フローラや」
     少女の隣にいた恰幅の良い老紳士が優しく声を掛ける。彼がこの寒空にさほど堪えていないのは、少女が今まで見たこともない、ぶあつい毛皮のコートに身を包んでいるからだろう。

    単に防寒用のコートならフローラの生家に何着かあったが、この老紳士が着ているコートは色鮮やかで、きらびやかな装飾がいたるところに散りばめられており、豪華としか言いようが

    ない。
    「いいえ、おじさ、おとうさま」
     思わずおじさん、と言うところだったが、フローラは寸前のところでその部分だけを呑み込んだ。
    「寒さには、慣れていますから」
    「おぉ、そうか。そうだったな」
    「はい……」
     一般人にはまず手の届かない高価な服を着こなすこの老紳士が、今は自分の父親だということを、フローラは未だに実感できずにいた。本来ならば、住む次元の違う者同士、一生縁が

    なかったに違いない。それがつい数日前、このルドマンというサラボナの富豪に一目見て気に入られて、あれよあれよという間に、フローラは彼の養子になってしまったのだ。彼女が、

    もしかしたら今私は夢を見ているのではないだろうか、と思うのも無理からぬことであった。
    「うぅむ。遅いな。そろそろだと思うのだが」
     ルドマンは胸元に忍ばせていた懐中時計を取り出した。時針は正午をとうの昔に回ってしまっている。
     と、その時だ。遠くから鐘の音が聞こえてきて、二人ははるか海原に目を向けた。
     そこには白い帆を広げた大型の帆船の姿があった。
    「やっときたか。見たかね。フローラや。あれがわしらが乗る船、ストレンジャー号だよ」
    「すごい。大きい」
     ゆっくりと港へと向かってくるその船の優美さに、フローラは目を奪われていた。無理もない。山奥で育った彼女にとって、海も、そしてこんなに大きな船も今まで見たこともなかっ

    たのだから。
     やがて帆船はルドマン達が立つポートに接近し、停泊した。
     船員の手によって、マットが下ろされ、船と港を繋ぐ桟橋が掛けられる。
    「これはこれはルドマンさん。遅れてしまって申し訳ありません」
     船から、まっしろな制服とキャプテンハットをかぶった初老の男が下りてきた。
    「道中、海に棲む魔物に何度か襲われましてな。おかげで、とんだ時間を食ってしまいました」
    「そうだったのか。大丈夫だったのかね?」
    「はい。幸いなことに、腕の立つ戦士の方が偶然この船に乗り合わせていて、彼が退治してくれたのです。しかも、たった一人で」
    「なんと、たった一人でか!」
    「はい。そりゃあもう、すごかったのなんのって。襲いかかる魔物の群れを斬っては捨て斬っては捨て、それはそれは英雄ライアンの如き戦いっぷり、まさに勇猛果敢、疾風怒濤、天上

    天下唯我独尊……」
    「ごほんっ!」
     突然、船長の後ろにいた一人の男が、意図的に咳払いをした。
    「船長。わしらもそろそろ」
    「お、おぉ。これは失礼した」
     船長は顔を真っ赤にして苦笑すると、慇懃に頭を下げて道を空けた。
     桟橋から下りてきたのは、屈強の戦士だった。鍛え抜かれた身体には無駄なところなど一つもなく、そして、その威厳に満ちた鋭い眼差しは、気品すら帯びている。
     ……なるほど。ルドマンは男と、その腰にぶらさがった剣を一目見るなり、ただ者ではないことを見抜いた。
    「船長。このお方が」
    「え、えぇ」
    「そうか。旅人よ。船長にかわって礼をいいますぞ。わしの名はルドマン。この船の所有主です」
    「おぉ、あなたがあの」
     その名を聞いて、旅の男は幾分表情を和らげた。
    「サラボナきっての大富豪ルドマン殿ですか。ご高名、聞き及んでおりますぞ。申し遅れました。わしの名はパパス。旅の剣士です」
    「パパス……?」
     その名を聞いた時、ルドマンはどこか懐かしい響きを覚えた。遠い昔に、どこかで耳にしたことがある。だが、それがいつ、どこで知った名前かは思い出せなかった。
    「失礼じゃが、どこかでお会いしたことはなかったかね?」
    「……? いえ、御仁とは今日初めてお会い致しましたが」
    「そうか。ふぅむ。どこかで聞いた名だと思ったのじゃがのう」
     ルドマンはそういって顎をしゃくったが、すぐに疑問を横に置くことにした。彼は些細なことでは深く思いこまない性質なのだ。
    「すまないが、先に乗船してかまわんかな?」
    「これは失礼しました。どうぞ」
     パパスは会釈して、ルドマンに道を譲った。
     ……ふむ、なかなか気持ちのいい男だな。
     ルドマンは感心しながら彼の横を通らせてもらうと、後ろに控えていたフローラに手招きした。
    「さぁ、おいでなさい。フローラや」
    「は、はい」
     フローラはどこか緊張しているようだった。桟橋といっても、板を一本かけただけであり、幼い彼女の目には、眼下に見える深い色をした海が、まるでこちらが落ちるのを待っている

    かのように不気味に揺らいでいるように見えるのだった。
     怯えるようにフローラは一歩一歩頼りない足取りで進んでいったが、船にもう一歩という距離で歩を止めてしまった。
    「そうか。子供にはこの段差はちとつらいか」
     板と船の間にはちょっとした段差があり、それは大人にとっては片足を少し上げれば簡単に渡れてしまえるものなのだが、まだ背の小さいフローラには、通せんぼする壁に見えるのだ

    ろう。彼女が躊躇していると、
    「さぁ。おいで」
     それまで、パパスの横にいた少年が、フローラに向けて手をさしのべた。
     彼の息子だろうか。フローラと同じくらいの男の子だった。父親ゆずりのややおさまりの悪い黒髪の持ち主で、藍色のターバンとマントが、いかにも旅の戦士の子らしい。
    「え、でも」
    「だいじょうぶ。船の胴体のところに、小さなでっぱりがあるでしょう? 子供はそこに足をかけて乗るんだ。僕が手を掴んでてあげるから」
     そういって、少年はにっこりと微笑んだ。
    「う、うん」
     フローラはほんのりと顔を赤らめながら、勇気を出して少年の手を取った。彼の手のひらは、自分より少しだけ大きくて、温かかった。彼女は少年に言われた通りに、船の胴体にある

    小さな凹みに足をかけると、
    「えいっ」
     思い切って身を乗り出した。
     たんっ、と、靴底が板張りの床につく音と感触を、フローラは確かに聞いた。
    「ほらね」
     目の前に少年が微笑んでいる。そのことに気づいた瞬間、フローラはまだ自分と少年の手が重なっていることに気づいて、慌てて手を離した。
    「あ、ありがとう」
     かすれるような声で言うと、彼女は恥ずかしさのあまり、少年から背を向けてしまった。
     まだ、胸がドキドキしている。この高鳴りは、船を渡り終えたことへの興奮からだろうか。それとも……?
    「ありがとうや。坊や。坊やは小さいのに立派な紳士だね」
    「えへへ」
     ルドマンに褒められて、少年は照れくさそうに頭を掻いた。
    「息子さんを連れての旅かね? なにかと大変じゃろう」
    「御仁こそ。かわいらしいお嬢さんですな」
    「わしはこれから故郷に戻るところじゃからな」
    「わしもです。サンタローズという村をご存知ですかな」
    「おぉ、ここへくる途中にそこの宿に立ち寄ったよ。穏やかで、なかなか住みやすそうな土地じゃな。まぁ、わしの故郷であるサラボナには一歩及ばんが」
    「これはこれは、手厳しいですな」
     パパスは嫌な顔一つせずに苦笑した。
    「では、いつの日かサラボナに立ち寄った時は、自分も比べさせてもらうとしましょうか」
    「はっはっは。その時は遠慮なくわしの家を訪ねなされ。これも何かの縁じゃろうからな」
    「えぇ」
     言葉を交わし終えた二人は、互いにがっちりと握手を交わした。
     ……不思議な男だな。
     このとき、ルドマンとパパスはお互いに同じ印象を相手に抱いていた。
     それほどまでに、二人は気が合っていた。初めて会った気がせず、ずっと昔からの旧友のような気さえする。
    「では、失礼します。さぁ、いくぞ」
     パパスはルドマンに一礼すると、息子を呼んだ。
    「はい、おとうさん」
     じゃあね、とフローラに手を振って、少年は父についていく。
     そうか。もうお別れなんだ。そんな当たり前のことに気づいた時、フローラは胸にもの悲しさを覚えた。今日会ったばかりの、縁もゆかりもないというのに、なぜか、別れが惜しい。
     そんな気持ちが届いたのか、パパスが思い出したかのように言った。
    「おっとそうだ。すまないが客室のタンスの中に忘れ物をしてしまった。取ってきてはくれないかね」
    「え? う、うん、わかったよ」
     少年は頷くと、くるっと反転して慌ただしく走っていく。
    「船長。すまないが少しだけ待っててくれんか」
    「それはかまわんよ。いろいろと積み込みもせねばならないことだしな。おっと、言ってる側から」
     こことは別の渡し橋から、大きな木箱を抱えた船夫が数人乗り込んでいるのが見えた。
    「ルドマンさん。出港まで小一時間かかりますが、いかがなされますかな? 港のほうでお待ちしますか?」
    「ふむ。そうだな。では、そうしよう。パパス殿、それまで、休憩所で酒でもどうかな? わしがおごろう」
    「ありがとうございます。では、お言葉に甘えましょうか。船長。あいつが戻ってきたら休憩所に来るようにと、そう伝えてくれませんか」
    「了解した」
    「フローラは船室に戻ってなさい。わしも後からいくから」
    「はい、おとうさま」
     フローラは頷いたが、内心ほっとした。これでもしかしたら、もう少しだけあの子とお話できるかもしれない。
     結果として、彼女の願いは叶えられることとなる。もっとも、思いも寄らない形でだが……





     フローラが船員に案内されてたどり着いた先は、船の中でももっとも豪華な一等客室だった。
     駆け回れるほどに大きな空間に、シャンデリアに真っ赤な絨毯といった豪勢な装飾が惜しげなく飾られている。ストレンジャー号は本来は定期便だが、この部屋だけはまるで豪華客船

    のようだ。
    「それではお嬢様、出港まで、しばしお待ちくださいませ」
     船員は慇懃に言って、ドアを閉めた。
     一人になったフローラは、まるで王子さまかお姫さまの部屋に圧倒されながら、一人ベッドに腰を下ろした。寝台もふかふかで、いい匂いがする。
    「お嬢様、か」
     今ひとつ実感が沸かない。フローラは何気なしにベッドにすわったまま、足をばたばたと揺らした。しばらくして、ぴた、と止まる。
     ……そうだ。あの子はどうしているだろう。
     フローラはあのパパスという大人につれられた男の子のことを思い出した。
     まだ、この船にいるのだろうか。
     もう一度だけ、会ってみたい。彼女はこの部屋を抜け出して、少年に会いにいきたい衝動に駆られた。
     だが、勝手に部屋を抜け出したら、船員やルドマンに心配をかけてしまう。
    「どうしよう」
     フローラの脳裏に少年の顔とルドマンの顔が浮かぶ。二つの顔はあがったりさがったりしていたが、やがてルドマンの顔は引っ込み、少年だけが残った。
    「やっぱりいこう。ごめんなさい。お父様」
     フローラは罪悪感を抱えながらも、ベッドから立ち上がった。
     そっと、ドアを半開きに開ける。
     そこには、誰もいなかった。大人しいフローラが勝手に外に抜け出すとは、船員も思ってもみなかったのだろう。
    「誰もいないみたいね」
     ドアから少しだけ顔を出してきょろきょろとあたりを見回そうとした、その時だった。
    「なにしてるの?」
     すぐそばから、聞いたことのある声。
     ドキッとして、フローラは声のする方に目を向ける。
     そこには、きょとんとした、少年の顔があった。
     あまりにも突然のことに、少女は呼吸すら忘れて表情を固まらせて、
    「ご、ごごご、ごめんなさいっ」
     どうすればいいかわからず、ペコペコと頭を下げる。
    「あ、あぁ、いいよ。ぼくのほうこそ、ごめんね。そっか。ここの部屋、きみの部屋だったんだ」
    「う、うん。わたしの部屋、というわけじゃないんだけどね」
    「ぼく、ポートセルミからずっとこの船に乗ってたけど、この部屋だけは入れてもらえなくて、気になってたんだ」
    「そうだったの」
    「じゃましてごめんね。それじゃあ」
    「あ、まって!」
     少年がいってしまいそうになって、フローラは思わず彼の手首を掴んでしまった。
    「えっ? な、なに」
     突然女の子に引き留められて、少年は目をぱちくりさせて彼女の顔を見る。
    「あ、あの、す、少しだけ、お話しない?」
    「えっ? お話」
    「うん。だめ……?」
     控えめに、だが熱い眼差しを向けて、フローラは言う。
     そんな彼女をじっと見つめていた少年は、やがて、
    「うん、いいよ」
     と、明快な返事を返した。すると、みるみるうちにフローラの表情が花咲くように笑顔に変わった。



     ……それから、二人は堰を切ったようにいろんなことを語り合った。
     それぞれの生い立ちや、暮らしていた土地のこと。今まで触れ合った様々な人たちのことを。
     特にフローラにとっては、少年の話すことは何もかもが新鮮だった。彼は父親に連れられて、物心ついた時からいろんな国を旅してきたのだ。その冒険談を聞くたびに、彼女は胸をド

    キドキやハラハラさせ、いつの間にか自分のことはそっちのけで、彼の話に聞き入るようになっていた。
    「わたし、あなたがうらやましいわ」
     ある程度話の区切りがついた後、フローラはぽつりと言った。
    「えっ? どうして」
    「だって、お父様と一緒に、いろんなところにいけるなんて、とてもステキなことだと思うわ」
    「あれ? きみも、今までおとうさんと旅をしてきたんでしょ?」
     少年は、フローラの隣にいたお金持ちのおじさんのことを思い返しながら言った。
    「あのひとは、わたしの本当のおとうさんじゃないもの」
    「えっ!?」
     その告白に、少年は驚き、目を丸くした。
    「わたしのおとうさんとおかあさんは、ついこのあいだ死んじゃって、わたしは、あのおじさんに引き取られることになったの」
    「……そうだったんだ」
     こんな時、どう言葉をかければいいのか、少年は悩んだが、結局、何一つ言ってあげることはできなかった。



     結局、それ以上は大した会話もないまま、二人は別れた。
     フローラは別れ際、少年になにか求めるような目をしていた。そんな彼女の目線が居たたまれなくて、彼は足早にその場を立ち去ったのだ。
    「はぁ、ぼく、なにやってるんだろう」
     板張りの床をとぼとぼと歩く。
     ……ほんとうの、おとうさんじゃない、か。
     まだ幼い少年には、親との血の繋がりの有無の重大さを理解することはできなかった。だが、その言葉を呟いた時の少女の悲しそうな顔が、いまでも彼の脳裏に焼き付いていた。
    「あ、そうだ」
     少年はその時になって、パパスに言いつかっていたことを思い出した。しかも、さっきまでずいぶんと長い間フローラと話し込んでいたので、もうあまり時間がない。
    「いけない、もうすぐ一時間だっ」
     少年は慌てて、自分たちがお世話になっていた三等客室へと急いだ。
     彼らが過ごした船室は、船首側の甲板の地下に設けられていた。もともとは地下室だったため、部屋は狭く、二つあるベッドの他には必要最小限の家具しかない。
    「えっと、ここかな?」
     それらしきタンスに手をかけようとした時だ。
    「な、なんだ、お前たちは」
     甲板の方から聞こえてきた声が気になって、少年はタンスに伸ばしていた手を引っ込めた。
     あれは確か、この船の乗組員の、ガンツさんのものだ。航海中、よく遊んでもらっていたので声を覚えていたのだ。
    「や、やめろ、そんなものを持って……」
     ガンツの様子がおかしいのに、少年はすぐに気づいた。
     怯えるような、せっぱ詰まった声だ。
     どうしたんだろう。彼は無意識に足音を殺して、外へと出るドアを少しだけ開けた。それと同時に、悲痛な叫び声が少年の耳に飛び込んできた。
     驚いて、彼はガンツの方を見た。
     彼は腕をおさえて、その場に崩れ落ちていた。二の腕から、真っ赤な血が流れ、甲板は真っ赤に染まっている。
    「な、なんだっ!」
    「どうしたっ!?」
     その異変に気づいた他の船員達が、現場に集まってくる。
    「うるせぇっ!!」
     ドスの利いた怒鳴り声に、船員達のざわめきは一瞬で鳴りやんだ。
     ドアの隙間から見えたその男が、ガンツを剣で斬りつけたのは明白だった。振りかざした湾曲に曲がった片刃の剣から、真っ赤な液体がしたたり落ちている。
     少年はその時は知らなかったが、彼は先ほどまで、船内に荷物を積み込んでいた船夫の中の一人であった。もちろん、その姿はカモフラージュであり、たった今、男は化けの皮を現し

    たのだった。
    「この船はたった今から、俺たち暁の山賊団が占拠した! 死にたくなかったら大人しくしているんだな」
     そう叫んだ男の足下には、自分たちが運んできた木箱が置かれており、その蓋はすでに開けられていた。そして、男の仲間らしき者達がそこから武器を取り出している。その数は、少

    年が確認しただけでも八人はいた。
    「この船の主ルドマンに伝えろ! 貴様の娘は預かっている。返して欲しくば、身代金百万ゴールドを用意しろとな」
     男の口から娘という言葉が出された時、少年は思わず「あっ」と叫んでしまった。その声に気づいた山賊団の一人が、こちらに目を向ける。
     慌てて少年はドアを閉めた。
    「た、大変だっ」
     足音がどんどん近づいてくる。
     どこかに隠れなければ。だが、焦りばかりが先行して、どこに身を潜めればいいかわからない。
     そうこうしているうちに、
    「だれだ! そこにいるのは」
     ついに、ドアが勢いよく開かれた。



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