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2014.08.01 Friday

反竜伝記 完結編 第二部 第39話 皇女エリア

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     エリオスの妹登場編。今回は少し短いですが、次回はもっと早くアップできそう。


    反竜伝記 完結編 第二部 第三九話 皇女エリア


     ……フィア達が天空城を浮上させる、少し前のこと。
     予想外にエンドール皇帝に気に入られたロムは、それまでの扱いとはうって変わって、客人として迎え入れられた。
     城内に豪華な客室を宛がわれ、専用の執事まで用意される。彼は光の教団の仇である天空の勇者ではなく、王族として……グランバニアの王子として受け入れられたのだ。
    「では、ロム様。お食事の時間までごゆっくりおくつろぎ下さい」
    「あ、ありがとう」
     部屋まで案内してくれた老執事と別れて、ロムはとりあえず豪勢な天蓋付きベッドに腰を下ろした。
    「調子狂うな。もう」
     ロムはそういってため息をついた。
     グランバニアでもそうだったが、どうも城というのは豪勢過ぎて落ち着かない。旅での質素な生活に慣れてしまっているせいだ。果たして、こんなふかふかなベッドで今夜寝れるだろうか。
    「それにしても、エンドール皇帝はいったい何を考えているんだろうか」
     ロムは皇帝という男について、未だにその器を図りかねていた。
     彼の話した言葉に嘘はないだろう。だが、その全てを信じていいものだろうか。
     彼は話した。エンドール帝国が世界征服を企む裏には、光の教団の存在がある、と。エンドール帝国によって世界を統治する。その帝国を影から操るのが光の教団……すなわち、魔族だ。間接的に、魔族達は人間を支配しようと企んでいるのだ。かつてのデスピサロのような魔王達とは違って、あくまで裏から、しかも確実に人間界を牛耳ろうとしている。
     エンドール皇帝は勇者である自分と手を組んで、その光の教団を打倒すると誓ってくれた。それは本心だろう。
     だが、彼の瞳に宿るもの、それは覇道を行かんとする野心ではないだろうか。
     もしかしたら自分は、とんでもない過ちを犯したのかもしれない。世界の独裁者になるかもしれない男と、手を組んでしまった……
    「いや、今は光の教団と戦わねば」
     そう独りごちて、ロムは迷いを振り払った。
     光の教団を倒さなくては、人類に明るい未来はないのだ。
     そんな時だ。
     とんとんと、扉をたたく音がした。
    「あの、勇者、ロム様ですよね」
    「あ、はい」
     少女の声だった。
     ロムは扉を開ける。
     そこにいたのは、自分より少し年下の、小柄な女の子だった。
    「はじめまして。私はエリア。エリア・ファム・エンドールです」
     そういって、少女はぺこりとお辞儀をした。肩まで延びた薄めのブロンドの髪が、ふぁさっと揺れる。
    「エンドールの姫君、とすると、君はエリオスの」
    「はい。エリオスは私の兄です」
     そういえば、いつだったか、自分にも妹がいるという話を聞いたことがあった。
    「……あ、失礼。どうぞ」
    「ありがとう」
     少女はぺこりと会釈して中に入る。
    「ふーん」
     エリアは部屋に入るなり、ロムの顔をじっと見つめた。
    「えっと、なんだい?」
    「勇者っていっても、ふつうの男の子なのね」
     笑いながら少女は言った。
    「あははは。よく言われるよ」
     ロムは後ろ髪を掻きながら苦笑した。



     二人はすぐに打ち解けた。
     エリアはとても人なつこく、物怖じしない性格だった。まるで好奇心の固まりのような少女で、ロムにいろんな質問をぶつけてきた。
     勇者という存在、というより、箱入り娘の彼女にとって、ただ単に自分と歳の近い異性が珍しかったのだろう。ロムも彼女と話すうちに、幾分気分転換できた。このところ、気が張りすぎていただけに調度良かった。


     二人の会話が弾んでいた、まさにその時だった。
     扉をノックする音がした。
     ロムがでる前に、彼は姿を現した。
     それは、エリオスだった。
    「エ、エリオス……」
     突然の来訪にロムはうろたえる。
    「聞いたぞ。客人として招かれたと」
    「あ、あぁ」
    「父の客ならば、俺の客も同然。歓迎しよう」
     そういって、エリオスは手を差し伸べてきた。
    「……」
     ロムはしばし躊躇してから、ぎこちなく握手に応じる。
     ……エリオス、彼は本当にエリオスなのだろうか。
     ロムの中では、彼に対する不信感が日に日に募っていった。
     確かに、最初は敵同士だった。だが、和解し、無二の友になった。だが、今の彼には親しみが沸いてこない。
     もしかしたら、父がそうだったように、彼も光の教団が用意した偽者ではないだろうか。
     そう疑わずにはいられなかった。
    「……お兄さま」
     エリアが話しかける。ロムと話していた時とはうって変わって、どこか遠慮がちだ。
    「はしたないぞ、エリア。一国の姫ともあろう者が」
    「ご、ごめんなさい」
     あまりにも冷徹な声。ショックのあまり、エリアは目に涙を浮かべた。
    「まぁいい。ロムと話がある。エリアは出ていろ」
    「……はい」
     寂しげにうなずいて、エリアは兄に従った。
     ばたん、と乾いた音を立ててドアが閉まる。
    「エリオス。あんな言い方はないだろう」
    「ふっ、お前とフィアのようにはいかんさ。あれは、妾が産んだ子だ。俺とは半分しか血は繋がってはいない」
    「だからって」
    「お前と口論するために来たわけじゃないんだ」
     これ以上妹の話はするな、とばかりにエリオスは言った。
    「ロム。話というのは他でもない。エンドール皇帝のことだ」
     自らの父のことを、まるで他人のようにエリオスは言った。
    「あの男には気を許さないことだ」
    「どういうことだ」
    「あの男は、お前を利用している。勇者としての、お前の力をな」
    「それはわかっている。わかった上で、彼に協力すると決めたんだ」
     そう、当面の敵は光の教団であり、魔族のはずだ。
    「お前は何もわかってはいない。あの男の野望の先にあるものがな」
    「野望の先……?」
    「お前は、エンドール帝国が世界を征服しようとしていたのは、陰で光の教団にそうするように操られていたと思っているようだな。ラインハット侵攻も、皇帝の本意ではない、と」
    「違うのか」
    「当たり前だ。光の教団がエンドール帝国を利用したように、奴もまた、光の教団を利用していたんだよ。奴は光の教団の傀儡となるかわりに、強大な力を手に入れたんだ。魔族の力を利用して、他国には真似できない軍事力を手に入れた。吸収するものをすべて得たのなら、あとは光の教団など用無しだ」
    「それじゃあ、皇帝はあえて、光の教団に従ったというのか。彼は本当に、世界征服が目的だとでもいうのか」
    「やつはな。かつての栄光に捕らわれているのよ。古代の時代、エンドールは世界のほとんどを領土にした一大国家だった。だが、それも長くは続かなかった。各地で反乱が起き、気がついた時には、かつての帝国はただの一小国に成り果てていた」
     その話は知っていた。彼も一応、歴史は学んだ。
    「百年前まで、エンドールはラインハットやグランバニアよりも小さな小国だった……親父には、それが我慢ならなかったんだよ」
    「……で、何が言いたいんだ」
    「親父に手を貸すのはやめろ。どのみち、おまえたちは魔族には勝てない」
    「天空城さえ復活すれば、魔族の力は半減するんだぞ」
    「……お前たちが考えている以上に、魔族というのは恐ろしい存在だ。俺はこの国に来て、それを知った」
    「どういうことだ?」
    「…………」
     エリオスは語らない。だが、彼の目には、怯えの色が見え隠れしていた。彼は見たのだ。決して、見てはならないものを。
    「エリオス。君はいったい、何を見たんだ?」
    「……忠告はしたぞ」
     それだけ言い残して、エリオスは部屋を後にする。
     入れ替わりに、エリアが入ってきた。先ほどの元気の良さは見る影もない。
    「昔は、あぁではなかったのに」
     目に涙を浮かべて、彼女は言った。
    「国に帰ってきてからは、兄はまるで別人のよう……どうして、お兄さま」


     一方その頃、ロムと別れたエリオスは、人気のない城の裏側に来ていた。
     周囲を城塞に囲まれたこの場所は、定期的に見張りの兵士が巡回する以外は全く人気がない。
    「来たか」
     エリオスは背後に気配を感じて振り返った。
     そこにいたのは、光の教団の密偵である、影の騎士だった。
     鎧とフードに身を包んでいるが、その顔は生きた人間ではなく、髑髏だ。
    「前の定時報告には来なかったな。どういうことだ」
     影の騎士が文句を言った。
    「私もいろいろと忙しいのだ」
    「……ふん、まぁいい。では聞こうか」
    「イブール様の言うとおり、エンドール皇帝に謀反の疑いがある。奴はおそらく、天空城の復活と共に、そちらに反旗を翻す気だ」
    「人間風情が……まぁいい。今はまだ泳がせておけとのことだ。ただし、本気でそれを行うものなら、わかっているな?」
    「……あぁ」
     エリオスの返事が遅れた。
    「実の父を殺すのは忍びないか?」
    「あの男は、敵だ。光の教団にとっても、世界にとっても」
     エリオスは自分に言い聞かすように言う。
    「報告は以上だ。では、失礼する」
    「待て、勇者ロムのことに関しては」
     影の騎士は問いかけるが、エリオスはそれを無視して行ってしまった。


     その途中。
    「連絡係、ご苦労なことだ」
     壁にもたれかかって、彼を待っていたのは、魔族の少女、アイメディスだった。
    「いいのか。ロムのことを報告しなくても。怪しまれるのではないか、イブールに?」
    「特に話すことはない。それとも、人の妹と仲良く談笑していたと報告すればいいのか? ふっ、なかなかお似合いだったぞ?」
     エリオスは口元をいやらしげに歪ませた。
     その言葉に、アイメディスはキッと彼を睨みつけた。
    「今のは、女のしての嫉妬か? 魔族化していても、本質的な部分はアイメルの時と何ら変わらんのだな」
    「黙れ。次に私を愚弄する言葉を言ってみろ、二度とそのロムと妹に会えなくしてやる」
     そういって、アイメディスは魔界の剣に手を掛ける。
    「わかったわかった。謝る。すまなかったよ」
     エリオスは謝罪して彼女をなだめた。本気でこられたら、いくら彼といえどもまず勝ち目はない。何せ、彼女は魔族であり、かつての魔王の血を引く者なのだ。相手が悪すぎる。
    「話を戻そう。いったい俺に何のようだ」
    「用というものではない。ただ、貴様の、エリアに対する口振りが少々許せなくてな」
    「……? あぁ、そうか。お前は、うちの妹と面識があるのだったな」
     そうなのだ。ふとしたことがきっかけで、アイメディスとエリアは顔なじみの仲となっていた。最初は鬱陶しかったが、最近ではエリアの存在は彼女の中で少しづつ大きくなっていったらしい。アイメディス自身気づいていないが、彼女はエリアに、自分の血の繋がらない妹アリエルを重ねていたのだった。
    「それこそお節介というものだ。お前たちと違って、私たちは元々兄妹仲は良くなかった。それだけのことだ」
    「だからといって」
    「話はそれだけか? なら、失礼する……それからな」
     振り返って、エリオスは言った。
    「ロムのことを報告しなかったわけだが、簡単なことだ。やつを片づける手段など、いくらでもある。食事に毒を盛ったり、寝首を襲ったり、手段さえ問わなければ、あんな男、いつでも殺せるのだ。つまり、伝説の勇者など、脅威でも何でもないということさ」
    「……貴様!」
    「何を怒っている? 勇者打倒は、貴様とて同じではなかったか?」
    「そ、そんな遣り方は好かん! 卑怯だ」
    「卑怯で何が悪い? 卑怯こそ魔族の十八番ではなかったか?」
    「わたしは、わたしは……」
     怒りでわなわなと震える。
    「……はっきり言ってやろう。アイメディス、いや、アイメル、貴様にロムは殺せない」
    「その名を口にするな! その名はもう捨てた! 次に言ったら、間違いなく斬る!」
    「……魔族といえども、所詮は女か」
     そう言い残して、エリオスは立ち去る。
     残されたアイメディスは、苛立ちを押さえきれずに拳を壁に叩きつけた。
     彼女は気づいてはいなかった。一度捨てたアイメルという心が、再び自分の中で大きくなっていることに。




     つづく
     





      
     
     






     
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