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2013.05.05 Sunday

反竜伝記 完結編 第二部 第34話 天界の不死鳥

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    ラーミアではありません、あしからず。

      反竜伝記 完結編 第二部 第34話 天界の不死鳥


    「終わり、だな」
     戦いは決着した。
     圧倒的に、アイメディスの勝利だった。
     切り裂かれた傷から、大量の血が吹き出る。
     そして、意識を失ったロムの身体は地上に向かって真っ逆さまに落ちていく。
    「くっ!」
     悔し涙を流しながら、マナはボウガンを構え、アイメディスに狙いを定める。
     その時だった。
     突然、空を斬るようにアイメディスの目の前を何者かが横切った。
     その者がロムの身体を抱きとめる。
    「何者っ!?」
     眼下に目をやると、そこには翼の生えた白馬に跨がった、一人の女性の姿があった。豊富なブロンドの髪を首筋で一本に纏め、細身の身体に白銀の鎧に身を包んだその姿は、優雅にし

    て華麗だった。
    「あらあら、わたくしとしたことが、少しばかり駆けつけるのが遅かったみたいですね」
     おっとり口調で、女性は言った。
     彼女はロムの傷口に手を当ててベホマを唱える。
     たちまち、彼の身体から傷が消えた。
    「あ、あれって……」
     震える声でマナはいう。
    「あれって、伝説に聞くペガサスじゃ」
     伝説上の生き物の登場に驚くマナ。
     そんな彼女を尻目に、ペガサスに跨がった女性はアイメディスと対峙する。
    「お初にお目にかかります。わたくし、天空の騎士セーラと申します。この子はペガサスのセシル。以後、お見知りおきを」
    「天空の騎士だと?」
    「えぇ、天空竜様に変わって天界を守護するのが私の役目。そして、あなたは魔界の者ですね」
    「それがどうした」
    「一応警告しますが、一刻も早く立ち去ってください。天界に、魔界の者は何人たりとも立ち入ってはならない掟ですので」
    「神もいないのに、律儀に天界を守っているとは、ご苦労なことだな。それに、たった一人で、このアイメディスに勝てると本当に思っているのか」
    「では、やってみますか?」
     と、セーラの方も不敵な笑みを浮かべる。
     両者の間に緊張が高まる、とその時だ。
    『おい、そんなこと言っている場合か』
     驚いたことに、ペガサスは人間の言葉を発した。
    『この勇者の小僧。だいぶ弱っているぞ。はやいところ、神殿につれていって回復してやらんとまずいぞ』
    「あらら、そうでしたわね」
     慌ててセーラといった天空の騎士は手綱を握ってこの場を退散しようとする。
    「おっと、このまま逃すと思っているのか」
     当然のことながら、アイメディスは剣の先をセーラに突きつけた。
    「たかが天空の騎士。ロムごと叩き斬ってくれる」
    「あらあら。それは困りましたわねぇ。うーん」
     さほど困ったようには見えない様子で、セーラはごそごそと懐をまさぐった。
    「大事なアイテムですので、このようなところでは使いたくなかったのですが」
     言いながら、それを出す。
    「妙なまねはさせんぞ!」
     すかさず、アイメディスはセーラに斬りかかった、のだが。
    「なに!?」
     突然、目の前からセーラの姿が消えたのだ。
     忽然と。
     しかも、天空の塔にいたマナの姿もない。
    「ど、どこだ。どこにいった! くっ……」
     その後もアイメディスは周囲をくまなく捜索したが、彼らの姿を見つけることはできなかった。

     


    「あ、あれ?」
     マナは驚いた。いつの間にか、自分はあのセーラと共に、ペガサスの背中に乗っていたのだ。
     まるで、天空の塔からここまで、一瞬のうちにワープしたかのように。
     空中を物凄い勢いで疾走するペガサス。もう天空の塔も、あのアイメディスも見えない。
    「あら。気がつきましたか?」
     セーラが彼女に声をかけた。
    「あ、あの。これって」
     マナがよく事態を飲み込めずにいると、
    「あぁ、これを使ったんですよ」
     そういって、セーラはカラになった器を差し出した。
    「え? これって」
    「この中には、先ほどまで時の砂と呼ばれる、時間を引き戻したり、止めたりする不思議な砂が詰まっていたんです。それをさっき蒔いたおかげで、あの人から逃れることができたとい

    うわけです」
    『まぁ、最後の一本だったんだがな。次は使えんが』
     と、ペガサス。
    「あ、あの、あなた達はいったい?」
    「慌てないで。順を追って説明しますわね。まず、私の名前はセーラ。天空の騎士です。天空の騎士というのは、早い話が天空城で神様の身辺の警護をしたり、今みたいに天界に侵入し

    た魔族なんかと戦う存在、まぁ、ざっくばらんにいうと、天界の偉い騎士、というところですね」
    『そのまんまじゃないか』
     と、突っ込むペガサス。
    「私の仲間があなた達、というか、勇者ロムの気配を察しまして、そこで私が飛んできた、というわけなんです」
    「仲間って、え、でも、天空城はもう」
     言いかけた、その時。
     ペガサスが雲の中に突入した。
     霧のような不明瞭な世界に突入したかと思うと、すぐにそこを突破する。
     そして、マナは見た。
     無数の大地が浮かぶ、神秘なる光景を。
    「すごい」
     大小さまざまな島が空中に浮いている。そして、それらには木々があり、山があり、そして人里もある。
     そこは、人が決して足を踏み入れることのない聖域だった。
    「あなたは天空城だけが天界だと思い込んでいたみたいですわね。けど、天界はここ、浮遊大陸帯アースノアのことを指すんですのよ」
    「アース、ノア」
    『ここに人間が降りるのは初めてだな。光栄に思うが良いぞ、小娘』
     そういいながら、ペガサスは一際大きな島に着陸した。

     

     ペガサスから降りたマナは、セーラと共に延々と続く石畳の道を歩いていた。
     その道の先には、古代の神殿がある。どうやらそこが目的の場所らしい。
     ロムは、まだ目を覚まさない。

     

     神殿に入ると、一人の中年の男性が彼らを出迎えた。
    「おぉセーラ。その方が勇者ロム殿だな」
    「そうですわ。大神官様」
     大神官と呼ばれたその男は、なるほど、確かにそのような服装をしている。竜の紋章の入ったローブを着込み、手にはこれまた、ドラゴンの頭部の形をした樫の杖を握っている。
    「この方は?」
    「この方はギド大神官様。天空城では天空竜様の補佐をなさっていたほどの偉い人なのよ。さっき話した、あなた達が地上から上がってくることをいち早く探知したのも、ギド様なの」
     説明しながら、セーラはロムの身柄を彼に預けた。
    「うむ。これは酷い。かねてよりの肉体のダメージの蓄積に加えて、邪気を負ってしまっている。セーラ、すぐに処置を施すぞ」
     言うが早いか、ギドはロムを神殿の中央に置かれた台座の上に寝かせる。
     そして、懐から一つの瓶を取り出した。
    「それって、もしかして世界樹の雫じゃ」
     驚いてマナはセーラに聞く。
    「いいえ。残念ながら違うわ。世界樹の雫は、もうこの天界には一つも残っていないのよ」
    「そんな! じゃ、じゃあ、あれは」
    「あれはギド様が世界樹の雫を真似て作り出した薬よ。大丈夫。効き目は私が保証するわ。それよりも、私達は治療の邪魔になるといけないから、よそにいきましょう」

     


     セーラはマナを離れの庭園へと連れて行った。
     マナは見るもの全てが珍しいため、きょろきょろと辺りを見回している。
    「ふふ、そんなに珍しい?」
    「は、はい。この世界にこんな場所があったなんて、驚きです」
    「本当は、ここに人間を連れてきてはいけない決まりなのだけど、今は場合が場合だしね」
    「それって、天空城が落ちたことと関係があるんですか?」
     マナは天空の塔のてっぺんで見た光景を思い出した。言い伝えによれば、天空の塔は直接天空城と繋がっているはずなのだ。しかし、現実は違っていた。
    「天空城が魔族達の突然の襲撃により地上に墜ちたことは知っているわよね?」
    「はい」
     マナは頷いた。天空城が墜ちて、この地上に凶暴な魔物が溢れだしたというのは有名な話だ。
    「突然の魔族の奇襲によって、天空城は墜ち、天空の騎士も、今や私だけになってしまったの」
    「そうだったんですか」
    「えぇ。だから正直、あの魔界の者と対峙した時はやばかったわぁ」
     そういって、セーラは胸をなで下ろした。
    「墜ちた天空城を再び天空にあげることは可能なのですか?」
     と、マナが聞く。
    「それが出来るのは、天空竜マスタードラゴン様だけね。けど、そのマスタードラゴン様も天空城襲撃の際に行方不明になってしまって……」
    「それじゃあ」
    「そう。私達はもう、あの勇者様にすがる以外方法はないわけね」
     そういって、セーラは神殿の方に目をやった。


     それからすぐに、ロムが目を覚ましたという報告がはいった。

     


     
     ロムはセーラから事のあらましを聞いた。
     あぶないところを助けて貰ったこと。ここが天界の聖域アースノアだということを。
    「アースノア、不思議だ。僕はその名前を知っている気がする」
    「きっと、勇者の血によるものですわ。勇者も、元々は天空の民ですもの」
     と、セーラ。
    「ここにいればもう安心ですじゃ。ゆっくりと静養なさるがよい」
    「そ、そうもいっていられないんです」
     ロムはギドとセーラに、自分たちが天界に来た目的を話した。
    「……そうですか。世界樹の雫を求めて」
     ギドはふむぅ、と眉をひそめた。
    「先ほど治療を施した時にわかりましたが、確かに、あなたの肉体はもう限界に近い。元々、勇者は人間の身体に神の力を宿すがゆえに代々短命なのですが、あなたの勇者としての力は

    歴代のどの勇者よりも強い」
    「……」
     ロムは黙って頷く。
     しかし、と、ギドは心の中で呟いた。
    (肉体は衰え初めているというのに、その体内に宿る勇者の力はむしろ肥大化している。これは、いったい……?)
    「ギドさん。本当に世界樹の雫はもうないんですか」
    「残念ながら。かつての魔との戦いによって、世界樹は枯れ果ててしまったのです。故に、すでにその雫も……」
    「そんな……それじゃあ、ロムお兄ちゃんは」
     マナは悲しみに打ち震えた。
    「……ただ、一つだけ、方法があります」
     ぽつりと、ギドは言った。
    「ほ、本当ですか!」
    「えぇ。不死鳥の灰を使えば」
    「不死鳥の、灰?」
     初めて聞く名前だった。
    「不死鳥……天界にのみ存在する不死の命を持つ鳥です」
    「しかし、不死鳥の灰とは……」
    「言葉が足りませんでしたね。不死鳥は、一度死ぬと真っ白な灰となるのです。ですが、すぐに灰の中から甦る。新しい肉体と共に。そして、不死鳥の灰には、大いなる生命エネルギー

    で満ちあふれているのです。その不死鳥の灰を浴びることができれば……」
    「ロムお兄ちゃんは、助かるのね!」
    「ですが、不死鳥は恐ろしい魔物です。数万年にも及ぶ天界の歴史の中で、不死鳥の灰を持って帰った者はたった一人しかいないのです。それでも、いくというのですか」
    「僕は、その不死鳥の灰にかけてみようと思います」
     ロムは固い決心をこめて頷いた。

     


     その夜。
     ロムは一人、あてがわれた自室で眠れぬ夜を過ごしていた。
     思い浮かぶのは、豹変したアイメルの姿。
     あれは、自分の知っている彼女ではなかった。
    (アイメルの言っていたこととは、本当のことなのだろうか)
     かつての魔王の遺児。にわかには信じがたい。
     だが、アイメルが纏っていた邪悪な力は、確かに魔族が持つ暗黒の闘気に他ならなかった。
     そして、ただ一つ言えること。それは、強敵が一人増えたということだ。
    (僕は、次に彼女と会ったとき、闘うことが出来るのか……)
     
     

     

     次の朝。
     不死鳥が住むという紅蓮山という山に、ロム達は赴くことになった。
     紅蓮山……それはアースノアの島群の中の一つで、溶岩が絶え間なく流れる過酷な地である。天界の者ですら、滅多に近寄らないという危険地帯であった。
    「ロム殿、つかぬことをお聞きしますが、あなたは天空の鎧はまだ……?」
    「はい」
     剣、盾、兜は手に入れたが、鎧のありかは未だに不明である。
     それに、ロムは元々軽装を好むため、重たい鎧はあまり着けたがらなかった。
    「未だに、どこにあるのかさえも」
    「ロム殿、もし、あなたが不死鳥の灰を浴び、その肉体が完全復活すれば、ひょっとしたら、あなたは天空の鎧を手に入れることができるやもしれませぬ」
    「それは、どういう……?」
    「元々、天空の装備には勇者の望み一つで次元を越えて装着できる機能があるのです」
    「え?」
     それは初耳だった。母からも聞いたことがない。
    「もっとも、消耗が激しすぎて歴代の勇者は誰も扱うことが出来なかったのですが、しかし、ロム殿、あなたの潜在能力は歴代の中で群を抜いている。その隠された機能を使うことがで

    きるやもしれませぬ」
    「まぁ、全ては不死鳥の灰が手には入ってからですけどね〜」
     と、のんびりとセーラが言った。

     


     一方、その頃。
     場所は、光の教団の総本山であるセントヘレナ神殿。そこの一部の幹部の者しか立ち入ることが許されない教祖の間に、漆黒の翼を生やした少女が降臨した。
    「……その邪気は」
     教祖イブールは覚えのある気配を感じて振り返った。
    「まさか、生きておられたとは」
    「久しぶりだな。イブール。かつては魔王軍の一部下に過ぎなかったお前が、今や教祖とは、出世したものだな」
    「アイメディス様、ですか」
    『さようですぞ。イブール様』
     そう答えたのは、彼女の横に控えていたゲマだ。
    「アイメディス様は、千年前に神によって封印されていたはずでは」
    「そうだ。私は神によって、その身を封印石に固く封じ込められた。その上、肉体を赤ん坊にまで退化させられて、な。しかし、封印石の効果はおよそ千年……だがまさか私自身記憶を

    なくし、人間の手によって育てられたとはな。しかも、ふっ、勇者の仲間として」
     そう、アイメディスは自虐げに笑った。
    「これは、とんだ皮肉だ」
    『イブール様。アイメディス様は魔王の血をお引きになる正統な血統の方ですぞ!』
     まるで立場が逆転したかのような口調でゲマが叫ぶ。
    (ゲマめ。私を教祖の地位から引きずり下ろすために、今更アイメディスなどを……)
     イブールは内心舌打ちした。
    「よい。ゲマ」
    『は?』
    「私は教祖などという地位に興味はない。私は父の悲願であった、魔族による地上統治が達成できればそれでよいのだ」
    『し、しかし……それでは』
    「ふっ、ゲマよ。もくろみが外れたな」
    『……!!』
     ゲマは顔を真っ赤にした。
    「よろしいでしょう。アイメディス様。私としても、魔王のご息女を卑下にはできません。ここは我々は対等同士として、手を組みませぬか」
    「異論はない」
     そういって、アイメディスとイブールは握手を交わした。
     だが、イブールはそう言いながらも、内心は穏やかではなかった。
    (所詮は過去の人よ。必要なだけ働いてくれれば、後は……)
     そして、その考えを読めぬアイメディスでもなかった。
    (イブールは昔から信用のおけぬ人物だった。必ずや裏切るに違いない。だが、私にはまだイブールに対抗できるだけの力がない。一刻も早くイブールに対抗できるだけの地盤を固めな

    ければ。さしあたっては……)

     

     

     


     外に出たロム達は、ギドによりさらに二匹のペガサスを借りた。
     こちらのペガサスは栗毛で、どうやらセシルと違い言葉を話すことは出来ないらしい。
     そのかわり極めて従順であり、初めて乗ったにも関わらず、ロムもマナも自由自在に乗りこなすことができた。
     しばらくすると、目的地の浮遊島が見えてきた。
     轟々と燃えさかる火山、そここそが紅蓮山であった。
    「すごい熱気ね。ここからでもわかるくらい」
     まるでサウナの中にいるかのような暑さだ。マナの服もすでに汗でびっしょりである。
    「さぁ、降りますわよ」
     セーラが手綱を引き、火山の麓へと舞い降りる。ロム達も後に続いた。

     

     紅蓮山に降り立った一行は、ペガサスを安全な場所において、登山を開始した。
    「不死鳥は火山の火口に眠っています。もっとも、そこにたどり着くまでが大変なんですけどね」
    「そうなんですか」
     マナがそう聞いた時だ。突然、頭上から奇声が聞こえた。しかも、大量の。
    「な、なにあれ!?」
     顔を上げたマナが、びっくりした声を上げる。
     そこで彼らが見たものは、初めて見る種類のキメラの群れだった。
    「なにあれ!? 見たことのないキメラ」
    「あれはスターキメラよ。キメラの中でも上位種で」
    『説明は後だ! 来るぞ!』
     セシルの叫びのすぐ後に、スターキメラ達の猛攻が始まった。
    「グガァァァ!!」
     口から吐き出された炎は、すでに灼熱の域に達していた。
     その炎をすんでの所で散開して避ける。
    「こんなところであんな炎を食らったら、最悪だよ!」
     そう言いながら、マナはボウガンをスターキメラに向かって放つ。会心の一撃! スターキメラは急所を射貫かれて絶命する。
    「あら、やりますわね」
     と暢気にセーラは褒め称える。と、その時。
    「セーラさん! あぶない!」
     マナが叫ぶ。
     セーラの背後から、もう一匹のスターキメラがするどいクチバシで彼女を貫かんと迫りつつあった。
     だが、セーラは冷静に槍を構えると、すっと突いた。
     目にも止まらぬ早業だった。槍はキメラの口に食い込み、しっぽから貫通した。それを彼女は、軽々とやってのけたのだ。
    「さすが、天空の騎士ですね」
     ロムが讃えると、セーラはいやぁ、と暢気に喜んだ。

     
     ロム達はスターキメラの群れをたちまち蹴散らした。
     だが、次々と現れる魔物の大群に、彼らは逃げるように火口へと続く洞窟の中に入っていく。
     洞窟内部は灼熱のマグマが流れる、まさに火炎地獄だった。
     サラボナの死の火山を彷彿とさせるが、そこに巣くう魔物の強さは段違いである。
     さすがのロムも、まともに闘ってはきりがないと思い、無駄な戦いは避けて進んだ。

     

     

     

     


     そして、ついに彼らは火山の最上部、火口の縁に辿り着いた。
     巨大な穴の底に、大量のマグマがうごめいている。
     一歩でも足を踏み外せば、たちまち骨も残さず溶けてしまうだろう。
    「不死鳥は、どこ?」
     熱気の中、マナは辺りを見回す。
     すると、
    (ここに人間が訪れるとは、何用です?)
     その澄んだ声は、彼らの頭の中に直接響いてきた。
     すると、火口の中から、一羽の美しい朱色の鳥が舞い上がった。
    (あら、そのオーラは、そうですか。あなたが天空の勇者なのですね)
    「なぜ、僕のことを?」
    (千里眼のスキルは、何もブライの専売特許ではないのですよ。下界の情報は、私にとって手に取るようにわかります)
     と、不死鳥は言った。
    「ロムといいます」
     ロムは名乗り出た。
    (それに、隣にいるのは天空の騎士ですね。これは珍しい取り合わせです)
    「不死鳥様。今日は折り入ってお願いがあって、ここまで来ましたの」
    (わかっていますわ。私の灰が欲しいのでしょう?)
     ぴしゃりと不死鳥は言い当てた。
    (なるほど。私の灰を欲しているのはロムの方ですね。確かに、あなたの生命力はひどく弱っています。他でもない勇者の頼み。本来なら無条件で渡しても構わないのですが……)
     不死鳥は両方の羽を大きく広げた。まるで威嚇をするかのように。
    (例外を、認めるわけにはいきません。これまで何人もの冒険者が私の灰を求めてきて、そして死んでいきました。その魂達を冒涜する行為は出来ませんから)
    「ロムお兄ちゃん! 助太刀するよ!」
     マナがボウガンを構えるが、
    「ダメですよ、マナちゃん」
     と、セーラが止めた。
    「一対一の勝負と、いにしえより決まっているのです。私達が出来るのは、ロムさんを応援することだけですよ」
    「そんな」
    「大丈夫だよ。マナ」
     安心させるようにロムは言った。
    「僕はこんなところじゃ死なないよ」
    「でも」
    (いきますよ!)
     ギエェェェェッ!!
     凄まじい鳴き声が響いた。
     翼を広げ、不死鳥がより高く空に舞い上がった。
    「来るっ!」
     ロムは天空の剣を構えた。
     不死鳥の口から灼熱の炎が放たれる。
     その炎をロムは天空の盾を使って防ぐ。
     そして、ロムは天空の剣にライデインの雷を宿した。
    「でやああっ!」
     そして、その一撃を不死鳥めがかて放つ。
     雷を帯びたソニックブーム、ライデインソニックとも呼ぶべき必殺技が、不死鳥に直撃する。
     だが、
    (それだけですか!)
     その攻撃は、不死鳥を傷つけることはできなかった。
    「ロムさん! 不死鳥の属性は火と雷。ライデインを使った技は効き目がありませんよ!」
     と、セーラが叫ぶ。
     ま、アドバイスくらいなら、ね、と彼女はマナにウィンクした。
    「ありがとう、セーラさん。ならっ!」
     ロムはダッシュと共に不死鳥との距離を一気に詰めた。
     不死鳥が放つ炎のブレスをかいくぐり、その懐にまで迫る。
    「ハッ!」
     横一閃! 
     ロムの会心の一撃が不死鳥にクリティカルヒットしたかに思えた。
     だが、
    (浅いですね!)
     そういうと、不死鳥は再び羽を羽ばたかせた。
     凄まじい突風が生じ、ロムはたちまち宙に吹き飛ばされる。
    「くっ」
     ロムが空中で体勢を整えようとした時、
     ブスッ、と彼の肩に何かが突き刺さった。それは、不死鳥の羽だった。
    「うっ!?」
     がくっ、と力が抜けるのを感じた。
     いや、力が吸われているのだ。この羽によって。
    (気をつけることです。私に戦いを挑んだ冒険者達は、みなその羽の魔力によって命を落としているのですから)
     そう言いながらも、不死鳥は突風に混じって羽を飛ばすのをやめない。
     ロムはなんとか剣を振るって羽を切り落とそうとするも、突風の中では想うように身動きが取れず、どうしても二度、三度とそれを食らってしまう。
     ……やばい、目がかすんできた。
     もうだいぶ力を奪われてしまっていた。このままでは意識を失ってしまう。そうすれば、あの灼熱の炎に焼かれ、一巻の終わりだろう。
    「ま、まだだ! まだ、負けるわけには」
     その時だ。ふいに不死鳥が放った灼熱の炎が急激に迫る。
    「た、盾を……」
     ロムは天空の盾を構えようとするが、右腕が動かない。
     そのまま、彼の身体は、なすすべもなく炎に飲まれた。

     

    「そ、そんな……」
     がくっ、とマナは膝を折る。
    「ロムお兄ちゃん、死んじゃったの……?」
     震える声で呟く。

     


    (終わり、ましたか……)
     不死鳥は未だ燃えさかる炎を見つめながら呟いた。
     ロムの身体は、すでに業火に包まれている。生きているはずがない。そう誰もが思った。
     だが、
    (ッ!!)
     不死鳥は目を見張った。
     燃えさかっていた炎が、急激に収まり始めたのだ。
     いや、違う。
     何者かが、炎を吸収している。
    (まさか……!)
     そのまさかであった。
     炎が完全に消え、不死鳥の眼前にいたのは、無傷のロムだった。
     彼の身体から立ちこめる熱気は、まさに先ほどの彼とはうってかわった、生命力にあふれるものだった。
    (信じられません。あなたは、本当に人間なのですか?)
     それは、ロム自身が聞きたいところだった。
     彼自身、もうだめだと思った。炎に焼かれ、自分の肉体が完全に滅んだものだと。
     ロムは静かに、剣を構えた。
     その剣に、雷を落とす。
    「だ、だめです、ロムさん! 雷では……!」
     セーラが言いかけて、はっと気づく。
     それは、ライデインではなかった。
     雷でありながら、破邪の力の割合の方が遙かに強い、勇者最大の呪文、それは、紛れもなくギガデイン。
    「ギガ、スラッシュッ!!」
     その必殺の一撃が、不死鳥の翼を確かに切り裂いたのだった。

     

    (参りました、降参です)
     静かに、不死鳥はロムの元へと舞い降りた。
     彼はまだ、まだよく事態が飲み込めていないようだった。
    「こ、これは、どういうことなんだ。身体から、力が溢れてくる」
     確かに、ロムの身体からは生命エネルギーが充ち満ちていた。先ほどまで動かすのもやっとな身体とは思えないほど、快調過ぎる。
    (私にも、わかりません。あなたは確かに、私の炎を浴びてその肉体は滅んだはずなのに)
     不死鳥も困惑していた。
    (ただ一つ言えることは、今のあなたからは、眩しいほどの生命エネルギーを感じる。もはや、私の灰など必要ないでしょう)
    「それでは……」
     ロムは久方ぶりの笑顔を浮かべた。
     みなぎるパワーが、そうさせているのか。
    「ロムお兄ちゃん!」
     マナとセーラが駆け寄る。
    「すごい、奇跡だね!」
    「あぁ。自分でも信じられない。僕は、確かに死んだと思っていたのに」
    (不思議なものです……)
     と、不死鳥は言った。
    (ロム。あなたの身体は確かに私の炎によって焼かれ、一度は消滅したはずです。ですが、あなたの身体は、不思議な再生を遂げた。まるで、不死鳥のように。もしかしたら、あなたは

    勇者より一段上の存在にクラスチェンジしたのかもしれません)
    「それって……」
    (なにはともあれ、ロム。あなたが天界ですることはもうないでしょう。さぁ、地上に戻って、今度こそ、世界に平和を取り戻すのです)

     


     下山を開始したロムを、不死鳥は最後まで見送った。
    (しかし、ロム)
     その心中は、複雑だった。
    (あなたはまだわかっていないかもしれませんが、その新しい身体が、あなたにさらなる不幸を呼ぶかもしれません)

     

     


     続く


     

     


     

    コメント
    今年に入って三話も更新されているなんて(生意気みたいですみません、以前は年一のペースでしたので、嬉しい驚きです)。
    藤枝さん、がんばってますね。今後もこの調子で完結までがんばってください。
    • 隼太
    • 2013.05.16 Thursday 01:12
    ありがとうございます! お待たせしてしまって申し訳ないです。 相変わらずスローペースですが、なんとか頑張ります。
    • 管理人
    • 2013.05.25 Saturday 18:36
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