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2013.01.26 Saturday

反竜伝記 完結編 第二部 第32話  塔へ、そして……

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     大変お待たせしました。

     


     かくして、ロム達はゴッドサイド島に上陸した。
     ここに、天空へと続く塔があるという。だが、景色を見渡しても、そのような塔はどこにも見当たらない。
     本当にこんなところに天空の塔があるのだろうか?
     ロム達の疑問をよそに、ブライはただ含みのある笑みを浮かべるだけだった。


     一行は浜辺にボートを停め、一行は人里がある奥地へと目指す。
     ゴッドサイト島は、ごつごつとした岩場が続く、荒れた土地であった。
     緑が少なく、黄土色の乾いた風景が延々と続いている。
    「教えてください。ブライ様」
     歩いている最中に、ロムはブライに尋ねた。
    「なんじゃね、ロム」
    「これから行く天空の塔のことです」
     ロムには一つ気がかりなことがあった。
     伝承によれば、天空の塔に登るには条件があり、天空の武具を全て揃えた勇者がいなければいけないということだった。
     ロムはまだ、天空の鎧を手に入れていない。そのことを言うと、ブライは大丈夫じゃ、と首を振った。
    「今の天空の塔は、以前とは違う」
    「違う、とは?」
    「まぁ、行ってみればわかる」
     ブライはそう言うと、口をつぐんでしまった。


    「……ん?」
     しばらくすると、ぽつぽつと雫が落ちてきた。
     気がつけば、空には曇天の雨雲が立ちこめている。
     その時、一際大きな雷鳴と共に、土砂降りの雨が一行を襲った。
    「うひゃあっ、スコールですよ!」
    「いわんでもわかっとるわい! とにかく、雨宿りできそうなところを探すんじゃ!」
     あたふたしながら、一行はようやく、雨風がしのげそうな岩場を見つけた。
    「うへぇ、びしょびしょですね。はやく、火を焚かないと風邪を引いちゃいますよ」
    「情けないやつじゃのぅ。どれ」
     ブライは道具袋から可燃物を取り出すと、それを地面に敷き、杖を向けた。
    「……」
    「……どうしたんです?」
    「そういえば、わしは火炎系の呪文が使えんのじゃった」
    「おやおや、大賢者ともあろうお方が」
    「対した呪文も使えないお前さんに言われとうないわい。ロム。お前さんに任せる」
    「は、はい。苦手なんだよなぁ」
     ロムは人差し指を薪に向けて呪文を呟いた。
    「えっと、メラ」
     次の瞬間、薪は勢いよく燃え上がった。
     というか、勢いが良すぎてあっという間に消し炭になった……
     結局、マナが持参したマッチをこすって火をつけることとなった。

     

    「はぁ、まったく、情けないわい。呪文の制御もろくに出来んとはな」
    「め、面目ないです」
     パチパチと跳ねるたき火に当たりながら、ロムはしゅんと縮こまった。
    「どうも昔から、呪文は苦手で」
    「まぁ、正直わしも驚いたよ。メラであの威力じゃからのぅ。やはり、おぬしが有している天空の力はすさまじいものがあるようじゃ」
    「……けど、その力が、ロムお兄ちゃんの身体を蝕んでいるのよね?」
     と、マナが不安げに言う。
    「ねぇ、ブライ様。ロムお兄ちゃんから、天空の力を取り除くことって、できないのかな?」
    「お、おい、マナ」
     プサンが止めるのも聞かずに、彼女はひた走るようにしゃべった。
    「だって、そうでしょ! 世界のためとはいえ、このままじゃお兄ちゃんがあんまりだわ!」
    「マナ……」
     ロムは、マナの気持ちが嬉しかった。彼女の頭を、くしゃくしゃと撫でる。
    「大丈夫だって。そのために、天界へ世界樹の雫を取りにいくんだろう?」
    「でも……」
     マナは言いかけて、やめた。
     世界樹の雫を飲んでも、天空の力を使い続ければ、どのみちロムの身体は……
    「それにしても、こういうのは久しぶりじゃのぅ」
     話題を変えるためか、ブライは別の話を振った。
    「昔はよく旅をしては、こういうふうに野宿したものじゃよ。仲間も多かった」
     ロムは今更になって、目の前にいる老人が、あのデスピサロを倒した導かれし者達の一人だということに気づいた。
     その伝説の勇者と導かれし者達の冒険譚を知らないものはいない。
    「わしはな、元々サントハイムという小国で、当時姫だったアリーナ様の世話係をしていたのじゃよ」
    「ふむ。前々から疑問に思っていたのですが、大賢者との呼ばれていたあなたが、なぜ王女様の世話係などを?」
    「まぁ、いろいろあってな、その頃のわしは大賢者と呼ばれるのが嫌で、正体を偽っておったのじゃ。魔法で自分の記憶すら消しておった」
    「なぜです?」
    「そうじゃのう。一言で表すと、甘酸っぱい青春、というところかのぅ。若い頃はいろいろとあるのじゃよ」
    「……若いって、あの頃からすでにじじいだったじゃありませんか」
    「なんかいったか?」
     じろ、とブライはプサンを睨み付けた。
    「しかしまぁ、あの頃が一番充実しとったのぅ。今みたいに隠居したのも、かつての仲間に先立たれたせいもある……姫様、バカクリフト、モンバーバラの姉妹にライアン殿にトルネコ

    、みんな逝ってしまった」
    「……ブライ様」
    「不死というのも、案外辛いものじゃよ。この先わしはいつまで、この世の行く末を見続けなければならんのかのぅ」
     そういって、ブライは遠く彼方を見つめた。
     

     

     
     雨がやみ、一行は再び歩を進めた。


     しばらく歩くと、人里らしき村が遠目に見えてきた。
     あれが、隠れ里ゴッドサイド、天空竜に祈りを捧げる巫女達の村だ。
    「お、お兄ちゃん、見て!」
     マナが村を指さす。
     近づくにつれて、そこがとうの昔に廃村になっていたことがわかった。
     道には人気はなく、家々も無人で、大半が崩れたり、窓が割れたりと風化してしまっている。
    「ここには、かつて数百人の神に仕える者達が暮らしていた。じゃが、それも魔族によって……」
    「ひどい……」
     よく見ると、そこらに焼け焦げた跡や破壊されたと思われる跡が残っている。ここで行われた残虐な非道がいかに酷かったのか、ロムには痛いほどよく分かった。
    「神は、ここの者達をお助けにならなかったのですか」
     さすがのプサンも、痛ましい表情を隠しきれずにいた。
    「神は消えた。死んだのか、文字通りどこかに身を隠したのかは、定かではないが」
    「ブライ様にもわからないのですか」
    「わしは神ではないのでな。千里眼といえども、限界がある」
     ブライの声は冷め切っていた。
     それきり、一同の間に沈黙の空気が漂う。
     黙々とブライの後をついていくだけだ。
     ……どれくらい経ったのだろう。
     ロム達は大きな神殿の前にやってきた。
     かつてここは天空竜信仰の総本山だった。しかし、今は見る影もない。まるで古代の遺跡だ。
     しかし、内部は外見と比べてそれほど荒れてはいなかった。
     柱に刻まれた竜のレリーフなどはほぼ無傷で残っており、かつてここが聖域であったことを物語っている。

     

     長い回廊を越えた先に、外へ出る出口があった。その先に、それはあった。
     天までそびえ立つ古の塔。それは紛れもなく、天空の塔だった。
    「そんな、外からは見えなかったのに」
     ロムは驚きを隠せない。
    「すごい。なんて高いの」
     マナはあんぐりと口を開けて塔のてっぺんを見ようとしたが、塔は途中で雲に遮られてその全容を知ることはできなかった。それほどまでに高く、巨大な塔だった。
    「この塔に使われている石材は特殊での、遠くから見ると風景に溶け込んでしまうのじゃよ。じゃから、外からは見えなかった、というわけじゃ」
    「そうだったのですか」
    「それに、さっきも言った通り、天空竜が消えた今となっては、天空の武具を全て揃えなければならないという戒めも消滅している。もっとも、その変わり内部には邪悪なモンスターが

    棲み着いているがの」
    「それは、困りましたねぇ」
     プサンは項垂れた。言うまでも無く、彼は丸腰だ。
    「プサンさん、ここで待っていて下さい。天空の塔には、僕一人で登ります」
    「それは危険です、といいたいところですが、私達がいっても、足手まといにしかならないでしょう」
    「わしももう一度ここを登れるほど、足腰は丈夫ではないのでな。ここいらで遠慮させて貰うよ」
    「もう、二人ともだらしないわね、じゃあ、私がお兄ちゃんについて行くことにするよ」
     そう買って出たのは、マナだった。
    「マナ! 危険なんだぞ」
     ロムは驚いて彼女を叱る。
    「大丈夫よ、私にはこれがあるもん」
     そういって、マナは道具袋からボウガンを取り出した。
    「これはミスリル製のボウガンよ、魔獣はもちろん、ゴーストタイプのモンスターにだって通用するわ。それに私、射撃は得意なの」
    「しかし」
    「それに、私だってベホイミくらいの呪文は使えるわ。お兄ちゃんを立派にサポートすることくらい、わけないわよ」
    「け、けど、ねぇ、プサンさん」
     ロムはプサンに助け船を求めたが、彼はただ肩をすくめるだけだった。
    「マナは一度決めたらてこでも主張を変えませんよ。それに、ロムさんだって体調が万全ではない。サポート役は必要でしょう。大丈夫、マナの腕は私が保証しますよ」
    「お父さん、正直止めてくると思ったわ」
    「本当は止めたいよ。けれど、お前ももうそろそろ、自分の意志で物事を決断してもいい年頃だからね」
     そういって、プサンは微笑んだ。


     かくして、ロムとマナの二人は、天空の塔内部へと入ることとなった。
    「いいかい、決して無茶はしないこと。わかったね」
    「大丈夫よ、心配性ね、お兄ちゃんは」
    (……やれやれ、だんだんフィアに似てきたな。口うるさいところなんかそっくりだよ)
     ロムは苦笑しながら心の中で愚痴った。
     しかし、ロムはすぐにマナの有能さを知ることとなる。


    『ギエエェェェ!』
     二層目につくなり、突然襲ってきたのは空飛ぶ怪人ガーゴイルだった。
    「おいでなすったな!」
     ロムは天空の剣を構えて、斬りかかってくるガーゴイルに立ち向かう。
     横一線の斬撃をすんでのところで交わし、ロムは剣を振るった。
     その一撃は、的確にガーゴイルの双翼を叩き斬った。
     続けざまに襲いかかってきたのは、魂を宿した鎧である、地獄の鎧と呼ばれる魔物だ。
     振り下ろされた剣を天空の盾で防ぎ、天空の剣を振るう、が、その剣先は固い鎧にぶつかり、空しく音を立てただけだった。
    『ヌゥゥゥゥッ!』
     地獄の鎧は予想外の反撃に出た。剣を投げ捨て、鉄拳をロムの腹に叩き込んだのだ。
     その強烈なボディブローに、一瞬呼吸が止まる。
     その隙を地獄の鎧は見逃さなかった。もう片方の手を首にかけ、じりじりと締め上げだしたのだ。
    「うっ、ぐぅっ」
     指先が喉に食い込む。
     ……まずい……!
     ロムがピンチを感じた、その時。
     突然放たれた矢が、地獄の鎧の兜を貫いた。
     その援護射撃は、言うまでもなくマナによるものだった。
     彼女は冷静な動きで矢をボウガンに装填し、立て続けに射た。その時間、わずかに一秒の早業だった。
     矢は地獄の鎧の肩当てを破壊し、そのおかげでロムは首締めから解放される。
     その隙を逃さず、ロムは地獄の鎧めがけて雷撃の呪文ライデインを放った。
     聖なる雷を全身に浴びた地獄の鎧は、音を立てて崩れ落ち、ただの金属の残骸と化したのだった。


     一戦終わった後、ロムは驚いた顔で彼女に尋ねた。
    「驚いたな。誰か、いい師匠に教わったのかい」
    「うん。お父さんにね。ああ見えて、昔はかなりの使い手だったらしいわ。今は視力が悪いからあれだけど」
    「そ、そうだったんだ」
     全く、人は見かけによらないものだ。

     

     


    「あぁ、それにしても、残って見守るというのは、なんというか、暇ですねぇ」
     ロム達を見送ってから早数時間。
     プサンは早くも待ちくたびれていた。
    「やれやれ、だらしないのぅ」
    「あははは。どうです、ブライ様。トランプでも。ブライ様、ポーカーはお強いでしょう? 昔、カジノでだいぶ稼いだと聞いてますよー」
    「バカモン! こんな時に遊んでおるヤツがおるか!」
     ブライに一喝されて、プサンはしゅん、と縮こまった。
    「じょ、冗談ですよ、冗談」
    「まったく、お前は相変わらずじゃな。あぁ、頭が痛いわい。昔、クリフトという出来の悪いやつがいたが、お前さんはそれ以上じゃのぅ」
    「それは、ほめているのですか、貶しているのですか?」
    「……もう勝手にせい」
     あきれがちに、よっこらせっとブライは腰を下ろした。
     そして、懐から水晶球を取り出す。
    「おや、なんですそれは?」
    「昔、とある方からもらった水晶球じゃよ。わしの千里眼も、もう歳での、こいつを使わんことには、遠くのことを見渡すことができんのじゃが」
    「でも、その水晶、なんか曇ってません?」
     プサンはのぞき込むようにして見た。
     確かに、その水晶は内側に黒い霧にようなものが渦巻いている。
    「……なにやら、不吉じゃのぅ。ロム達の身に、何も起きぬことを祈るか」


     

     

     

     

     マナの予想外の働きにより、ロム達は快調に天空の塔を登っていく。
     だが、それもそう長くは続かなかった。
     ロム達にとって最大の敵は魔物ではなく、塔自体にあったのだ。
     何時間経っても終点の見えない、まるで延々と続くかのようなフロアの連続、そして、登るにつれて薄くなっていく空気。
     最初は余裕を見せていたマナも、次第に口数が途絶えがちになっていった。
     このままじゃ、彼女の体力が持たないな。
     彼女だけではない。正直なところ、ロム自身疲労がかなり蓄積していた。立っているのがやっとなほどだ。
    「マナ、今日はここまでにしよう。まだ日は明るいが、無理はいけない。先は長いからね」
    「……うん」
     マナは一言呟くだけで精一杯だった。


     建物の中で火を焚くわけにもいかないので、ロムは魔除けの魔方陣を描き、そこに聖水を振りまいた。これで魔物もそうやすやすとは襲ってこれないはずだ。
     もっとも、それでも万全ではないので、二人は交代で番を取ることにした。
     先にマナが休み、ロムが周囲を警戒する。それを五時間起きに行うという段取りだ。
     

     マナが寝袋にくるまってから、八時間ほど経過していた。
     当初は五時間交代の予定だったが、よほど疲れ切っていたのか、かわいい相方は熟睡しきっていた。さすがに起こすのもかわいそうなので、ロムは引き続き見張り番を続けている。
    「すぅ……すぅ……」
     静かに寝息を立てる彼女は、やはりどこかフィアと面影が似ている。
     そんな彼女を眺めていると、ふと故郷に置いてきた家族や仲間のことを思い出した。
     みんなどうしているだろうか。黙って国を出た僕を今も怒っているのだろうか。それとも、心配しているのだろうか。
     なにより、僕は再び生きてみんなと再会することができるのだろうか。
     そんなネガティブなことを考えていると、
    「う、うぅ、ん……」
     寝ぼけ眼な顔をして、マナが目を覚めた。
    「あれ、お兄ちゃん……?」
    「あ、ごめん、起こしちゃったかい」
    「あっ! ごめんなさいっ! もうこんな時間!?」
     慌てて飛び起きようとするマナを、ロムは優しく止める。
    「いいよ、どっちみち、あまり眠くないんだ」
    「ごめんね、足手まといだよね、わたし」
     しゅんと肩を落とすマナの頭を、ロムは撫でた。
    「もう少しだと思うんだ。頑張れるかい?」
    「うん! がんばるよ!」
    「いい子だ」
     ロムはにんまりと微笑んだ。


     マナはすっかり目が覚めてしまい寝付くことができなかったので、ロムは彼女に昔話を語った。
     今までの辛く険しい旅路。だが、同時にかけがえのない仲間を得たこの旅のことを、マナに知っておいて欲しかった。
     あらかた話し終えると、今度はマナの番となる。
    「私ね、本当はお父さんの子供じゃないの」
     さらりと述べたが、それは衝撃的な一言だった。
    「私の本当のお父さんは、教会の神父様だったの。けど、この国が光の教団を受け入れてから、天空信仰は禁止されて……お父さんはそれに反対して仲間と一緒にデモを開いたの」
     マナはうつむきがちに語った。
    「……そしたら、兵隊に殺されちゃった」
    「……」
     ロムはなんて声をかけていいかわからなかった。
    「今のお父さんは、本当のお父さんの友人で、それで私を引き取ってくれたわ」
    「……そうだったのか」
     エンドール帝国の、天空信仰に対する弾圧は厳しいものだとは聞いていたが、まさかこんな身近な人にも被害者がいたとは。
     ロムはやりきれない気持ちになった。
    「本当言うとね、弓の稽古も、将来レジスタンスに加わって、帝国兵と戦うために磨いたの」
     てへ、とまるでいたずらをごまかすような口調で、マナは言った。
     ロムは、これ以上何も言えなかった。
     もしかしたら、マナの背負っている闇は、自分が思っている以上に暗く、深いものなのかもしれない。


     ロムとマナは再び天空の塔を上りだした。
     すでにだいぶ上ったのか、空気もだいぶ薄くなり、疲労度もいっそう増してきた。
     幸いにも、襲ってくる魔物の数もだいぶ減ってきた。もしかしたら、天界に近づくにつれて聖気が増し、結果として魔物を遠ざけているのかもしれない。
    「あっ!」
     螺旋階段を上りきった先に、ロム達の前に大きな扉が現れた。
     圧倒されそうなくらいに大きく、重厚な扉だった。
     ロムがその扉の取っ手に手をかけ、渾身の力で押す。
     ゆっくりと、軋みながら扉が開く。
     隙間から太陽の光が差し込み、あまりのまぶしさにロムもマナも目を瞑った。
     しばらくして、二人はゆっくりと眼を開く。
     そこで見た風景は、想像を絶するものであった。

     

     

     一方、その頃。
     天空の塔の麓でロム達の帰りを待つブライ達にも、異変が起こっていた。
    「むぅぅ……」
     ブライの顔色が悪い。その顔には、脂汗が大量に浮かんでいる。
    「ど、どうかなさったのですか、ブライ様?」
    「……いったい、なんじゃ、この得体の知れない暗黒のオーラは。はるか頭上から感じる、この邪気には、確かに、覚えがある」
    「えぇっ!?」
    「さっきの水晶球の曇りは、これを意味していたのか。し、しかし、このオーラは、確かに、以前の王デスピサロが放っていたオーラに似ている。奴が復活? ま、まさか、そんなこと

    が。いや、しかし……」
     その時だ。
     突然、光と共に、空間が割れた。
    「ぬっ!」
    「い、一体、何事です!?」
     突如、予想だにせぬ現象に二人は驚く。
     そこから飛び出てきたのは、一人の少女だった。
    「う、うわわ、全身血まみれじゃないですか!」
    「……う、うぅ」
     少女はがくっ、とうなだれ、そのまま地面に倒れ落ちる。
    「今の光は、送還の術。ルラストル系の呪文か。一体誰がここに送り込んだ!?」
    「ブ、ブライさま、ど、どうしましょう。し、死んじゃったんですかねぇ」
    「馬鹿者、よくみてみい、その血は返り血じゃ。本人は疲労はしておれど、身体に傷はないわい」
     ブライは彼女を抱き起こした。
     少女が、うっすらと、目を開ける。
    「こ、ここ、は、エンドールに、ついた、の」
    「そうじゃよ。お前さんの名前は」
    「……私は、グランバニアの、フィアです」
    「なんと!? と、すると、ロムの妹のフィアか」
    「えっ、ど、どうして?」
    「やはり、か。確かに面影がある。いや、今はそんなことはどうでもいい。一体全体、どうしたというのじゃ。誰がお前さんをここに送り出した? グランバニアは、どうなった!?」
    「グ、グランバニアは、たった一人の、によって……私は、母さんの魔法で、お兄ちゃんのもとへ」
    「そ、そうか、だからここに。確かに、ロムはここにおる。もっとも、位置は同じでもやつは遙か天空じゃが」
    「兄さんを知っているのですか。な、なら、兄さんに告げてください」
    「落ち着きなさい。何を告げる、というのじゃ?」
    「て、敵、敵が、ロム兄さんの、命を。そ、その外見に……うっ」
     それだけ呟いて、フィアは意識を失った。
     ブライとプサンは、顔を見合わせる。
    「ブライ様」
    「まずいぞ。わしが感じているこの邪悪なオーラの持ち主が、このお嬢ちゃんの言う者だとすれば……」
     ブライは言った。
    「……ロムは、死によるぞ」

     

     

     

     

     

     何も、ない。
     扉の先には、何も続いてはいなかった。
     期待していた神秘な神殿も、空に浮かぶ天空の城も、なにもない。
     ただ、空がどこまでも続いているだけ。
    「まさか、そんな」
    「……! お兄ちゃん、あぶない!」
     慌てて、マナが彼の身体を抱きとめた。
     そうしなければ、ロムは足を踏み外して、真っ逆さまに落下してしまうところだった。
    「何も、ない、なんて。いったい、どういうことなんだ」
     ……そのわけを知りたいか?
     いきなり、どこからともなく不気味な声が響いてきた。
    「誰だ!」
     ロムが叫ぶ。
     それに呼応するかのように、何もない空間から一体の人影が現れた。
     真っ黒な法衣に身を包んだその姿は、全く得体が知れない。男か、女かも。
    「お前、魔族だな」
     ロムはすぐにわかった。その身を包む暗黒のオーラを、勇者として肌で感じたのだ。
    「天空の勇者ロムよ。無駄足だったな。天空城は、すでにこの天空にはない! お前が欲していた世界樹の雫も、な。天空城が地上に落ちたことくらいは知っていただろうに」
    「……くっ」
    「さすがに落胆を隠しきれない様子だな。本殿はなくても、その名残くらいは残っていると思っていたか。残念だったな、天界はすでに魔族が落としたのだ。神も、すでにいない!」
    「嘘だッ!」
     ロムは飛びかかった。
    「お兄ちゃん、だめっ!」
     だが、マナの心配しているようにはならなかった。
     ロムはすでに、背中から光の翼を展開していた。空中を飛行しながら、天空の剣を振りかざして斬りかかる。
     だが、その一撃を、黒い法衣の人物は難なく受け止めた。しかも、素手で。
    「なっ!」
     愕然とする。
    「ロム、天空の勇者よ。今のお前では、イブール様はおろか、私ですら敵ではない。天空の剣など、恐るるに足りず!」
     黒い法衣の人物はロムの土手っ腹に拳を突き立てた。
     メキッ、とあばらが折れる音と共に、ロムは吹っ飛ぶ。
    (な、なんて、強さだ……)
     落下していく最中に、ロムは相手の底知れぬ強さに恐れすら抱いた。
    (だ、だけどっ)
     ロムは必死に自分を奮い立たせた。ここでやられるわけにはいかない。
     ここで死んだら、自分が今までやってきたことが、全て意味がなかったことになる。
     ……そんなことには、させない!
     ロムの身から、聖なるオーラがあふれ出てくる。
    「す、すごい」
     マナですらわかった。ロムは、本気で戦おうとしている。天空の勇者の力の全力全開の戦闘を、これから繰り広げようというのだ。
     ……しかし。
    (な、なんだ……さっきから感じてる、この違和感は)
     ロムは戸惑いを感じていた。
     なぜだか、自分はこの敵を知っている気がする。そして、なぜだかわからないが、とても戦いにくい相手だ。
     闘志が、沸いてこないのだ。
    「お前、一体何者だ。お前ほどの使い手が、まだ光の教団にいるのか」
    「私より強い者がいるとすれば、それは教祖イブール様だ。もっとも、私自身はゲマ程度なら一撃で倒せるほどの闘気を持っている」
    「なん、だと」
     聞き捨てならないセリフだった。
    「私より弱いお前が、イブール様を倒そうなどとは、片腹痛い話だ。そうは思わないか?」
    「天空の勇者を、あまり見くびらないでもらいたいな!」
     啖呵を切ったロムだったが、内心焦りを感じていた。
     まさかイブール以外に、ここまでの使い手がいるとは思わなかったのだ。
     しかもこいつは、イブールと比べてまだ格下だという。
    (身体のことなんか気にしてはいられない! 全力でいかなければ、こいつは倒せない!)
     翼を羽ばたかせて、ロムは飛んだ。
    「ほう、まだそんな力が残っていたか」
     対する黒い法衣の人物の態度には、余裕が見える。
    「これは受け止められるか!」
     ロムは自身の聖なるオーラを、天空の剣に集中させた。
     剣の刃が、まぶしい光に包まれる。
    「まさか、アルテマソードを使えるというのか!?」
     それが勇者がもっとも得意とする破邪の攻撃だと悟った時、黒い法衣の人物から余裕が消えた。
    「アルテマ、ソォォォドッ!!!」
     刃を振り下ろす。
     聖なるオーラを凝縮させた天空の剣の一撃。それは、どんな魔族ですら一撃で屠ってきた天空の勇者の必殺剣だった。
     だが、
    「そんなっ!?」
     マナはその光景に愕然とした。
     振り下ろされた剣は、もう片方の漆黒の剣の前に完全に勢いを止められていたからだ。
     それは、魔王のみ扱えるという、魔界の剣だった。
     闇と光、その二つがぶつかり合った衝撃で、二人は互いにはじけ飛ぶ。
     いや、違った。
     黒い法衣の人物は吹っ飛ぶロムめがけて追い打ちをかけていた。
     さっきの衝撃で、法衣の人物がかぶっていたフードが脱げる。
     その素顔を見た時、ロムは愕然とした。
     なぜなら、その顔は自分のよく知る人物で、彼女なら絶対に、こんな行動を取るはずがないからだ。
    「ど、どうしてだ、アイメ……ッ!?」
     その灰色の髪をした少女は、ためらいなく、ロムの胸に魔界の剣を突き立てた。

     


    「な、なぜだ、なぜ、君が!?」
    「なぜだと? ふっ、異な事を言う」
     ふと、一瞬だけ、彼女は険しい表情を解き、元の穏やかな彼女に戻る。
    「軽蔑したか? それとも、失望したか? どちらでもかまわない。だが、これが真の私だ。冥土の土産に教えておいてやる」
     剣を振り上げ、次第に憤怒の表情を見せながら、アイメルは叫んだ。
    「私の真の名前はアイメディス・オルド・ピサロ。千年前に、お前の母に殺されたデスピサロとロザリーとの間に産まれた魔族とエルフの混血児! そして、貴様を憎む者だッ!」
    「……うそだ」
    「うそではない。その証拠を、見せてやる!」
     アイメルはその剣を思いっきり振り下ろした。
    「アイメル、見るがいい! これがお前の愛したロムとの決別の証だっ!」
     その一撃はとどめとばかりに、彼の身を袈裟懸けに切り裂いた。
     剣が、ふかぶかとロムの胸までえぐられる。

     ……そんな。

     

     薄れいく意識の中、ロムはアイメルに手を伸ばす。
     だが、彼女はその手を冷たく払った。


    「いやああああっ!」
     マナの悲痛な悲鳴も、急激に薄れゆくロムの意識には届かなかった。

     

     

     

     続く

     

     

     

     

     


     

     

     

     

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