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2012.12.02 Sunday

反竜伝記 完結編 第二部 第31話 大賢者

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    だいたい原稿用紙30枚分くらいを毎月アップできれば……(汗)



     


     雷鳴が激しく鳴り響く。
     轟音とともに大地に容赦なく降り注ぐ大量の雨の中を、一台の馬車が駆け抜けていく。
    「はいよー、はいよぉー!」
     どこか気の抜けるような声で手綱を握っているのはプサンだ。彼の娘マナとロムは安い布切れを張っただけの粗末な荷台の中で雨風をしのいでいた。
    「とほほ、あの親父、こんなボロ馬車に3000ゴールドなんて、ぼったくりもいいところですよ」
     この馬車は途中の馬屋から買ったものだが、プサンはずいぶんと足下を見られたらしい。
    「よくいうわよ、足りない分のお金はロムお兄ちゃんが払ったのに」
    「そうなんですけどねぇ、相場以上の値段を払わされるというのは、私にとっては大変な屈辱なんですよ」
    「単なるケチってだけじゃない」
    「とほほ。ロムさん。娘まで私に辛く当たりますよ」
    「あはは……」
     ロムはただただ苦笑するだけだ。
     ここまで、敵の追撃はない。
     だが、油断は出来ない。光の教団の追撃は、よりいっそう激しくなってくるに違いない。
     そう思って、緊張を高めていた時だ。ふと、マナが口を開いた。
    「ねぇ、ロムお兄ちゃん。お兄ちゃんって、兄弟いる?」
    「え?」
     突然声をかけられて、ロムは一瞬反応が遅れた。だが、すぐに緊張を解してそれに応える。
    「うん。妹が一人いるよ。フィアっていうんだ」
    「なーんだ」
     心なしかがっかりしたような口調でマナはいった。
    「お兄ちゃんが一人っ子だったなら、私が妹になってあげようと思ったのになぁ」
    「こらこら、無茶をいうもんじゃありませんよ。それに、ロムさんの妹になるってことは、グランバニアの王女様になるということなんですよ」
    「あ、そうなったら私、お姫様!?」
     途端にマナは目を爛々と輝かせた。
    「本気にするんじゃありませんっ、まったく、すみませんねぇ、ロムさん。いつの間にかこんなにも懐いてしまって」
    「あぁ、いえ、僕は全然」
     むしろ、ロムは少し嬉しかった。フィアとは長年離ればなれになっていたせいもあって、こんなに甘えたりはしてこなかったから。
     ……そういえば、フィアは元気にしているだろうか。
     ふとそんなことを思いながら、ロムは尋ねた。
    「ところで、プサンさん。そろそろ教えてくれませんか。僕に会わせたい人物って、いったいどんな人なんですか」
    「ふむ」
     プサンはそれまでのおちゃらけ顔を返上して、柳眉をひそめた。
    「その方は、私が以前大変お世話になった方です。とても聡明で、博識なのですが、この世の乱れを嘆き、世捨て人となってしまった……」
    「その方の名は……?」
    「大賢者、ブライといいます」
    「ブライ!?」
     その名を聞いてロムはびっくり仰天した。
    「ブライって、あの先代の勇者と共にデスピサロを倒したという、あのブライですか!」
    「えぇ、そのブライですよ」
    「し、信じられない……」
     ロムがそう思うのもムリはない。
     ブライといえば、天空の勇者の仲間の中でももっとも高齢だったはず。
     いや、そうでなくても何百年も経った現在まで生き延びているはずがないのだ。


     大陸の中央から遠く離れた、乾きの渓谷。
     そこは文字通り、乾燥し、乾いた風が吹く不毛の大地だった。
     数日をかけて、ロム達はこの地にやってきた。ここで隠居生活を送っているという、大賢者ブライという老人を訪ねて。
    「にわかに信じられません……」
     ロムは未だにプサンから聞かされた真実を受け止められないでいた。
    「実はブライが、この世の誕生と共に存在し、この世界の行く末を見届けてきたとか」
    「えぇ。その通りです。あの方は不老不死なのですよ。その昔、アリーナ姫のお目付役をなされていたのも、当初はほんの気まぐれからくる余興だったとか」
    「本当なんですか。どうも、信じられない」
    「ははは、そうですよね。でも、実在の人物です。私が保証しますよ」
    「お知り合いなんですか?」
    「えぇ、そう、あれは若かりし頃。まだ学者になりたてで、地位も名誉もなく、あるものといえば情熱と若さだけだったあの頃……あぁ、ついこの間のことのようだ」
    「あ、あはは……」
     しまった、といった感じに、ロムは苦笑を浮かべた。つい最近知ったことだが、この人の思い出話は果てしなく長いのだ。
     この後もあまり関係のない話が延々と続き、ようやく二人の関係が語られたのは、それから三十分後のことだった。
    「私は何度も弟子入りを志願したのですが、結局受け入れてもらえませんでしたよ」
    「そ、そうだったんですか……」
     ロムはげんなりしながら、それを表には出さずに言った。
    「しかし、そんな凄い人なのに、どうしてこんな不毛の地に?」
    「長い間生きているとね、いろいろとあるみたいなんですよ」
     プサンのその言葉の意味を、ロムはこのあと知ることとなる。

     


     谷の奥深くの開けた土地に、年期のかかった庵がぽつりと寂しげに佇んでいた。
     ここが、大賢者ブライの住処なのだろうか。
    「さぁ、いきましょう」
     プサンに続いて、ロムとマナは馬車から降りた。
     トントン、と庵の戸を叩く。
    「ブライ様、ブライ様、わたしです。いつぞやお世話になったプサンです。ブライ様」
    「ええい、うるさいわい。わかっておる」
     しゃがれた声と共に、その老人は顔を出した。
     真っ白な白髪に長い髭をたくわえた、一見するとただの翁にしか見えない。本当にこの人が大賢者なんだろうか、とロムは疑問に思った。
    「ブライ様、いやぁ、お久しぶりです。お元気そうで何よりですよ」
    「ふん、プサン。お前は相変わらずじゃな……おっ! そっちの娘は、マナか! 大きくなったのぅ」
    「え? えっと」
    「そうか。覚えておらんか。無理もない。お前が小さい頃に一度会ったきりじゃったからの。それで」
     最後にブライはロムに目をやった。
    「ふむ。お前さんが”今”の勇者か。名前は、確かロムといったかのう」
    「ど、どうして、僕の名を」
     ロムは驚いた。
    「お前さんのことならたいがい知っておる。見ておったからな」
    「見ていた?」
    「ロムさん、ブライ様は千里眼、つまり、ここにいながら遠くのことがわかるのです」
    「す、すごい」
     ロムはこの老人を外見のみで判断していた自分を恥じた。
    「ブライ様、ならご存じのはずです。今、この国、いや、この世界に起こっていることを」
    「ふむ、確かに、今この世界はどえらいことになっておるのぅ」
     ブライは真っ白な髭をしゃくりながら言った。
    「光の教団を名乗る魔族によって、エンドール帝国はやつらの傀儡と化した。帝国の軍事力を背景し、魔族達は世界を手中に収めるつもりじゃ。放っておけば、一年とたたぬうちにこの地上は魔族の天下となろう」
    「なんと……」
    「正直、わしらがデスピサロと戦っていた頃よりも状態は悪い。この地上に残った国家は滅ぼされ、そしていずれやエンドール帝国も……最後には、この地上に魔族の世が訪れるだろうよ」
    「その通りです。だから、僕達は……」
    「それがどうしたというんじゃ?」
    「……え?」
    「それがどうした、といったんじゃ」
     なるで他人事のように、ブライは言った。
    「魔族の世も人の世も、対して変わるものではない。悠久なる歴史の流れから見ればな。統治者が違うだけのことじゃないのかのう」
    「い、いえ、違います!」
     ロムはこの老人の返答に驚きながらも、懸命に否定した。
    「魔族達は、人間すべてを滅ぼすつもりです! だから」
    「そんなことはせんよ。やつらにとって、人間は支配すべき存在じゃ。滅ぼすべき存在ではない」
    「なっ……」
     ロムは絶句した。
    「……ど、どうして、そのようなことを言うんですか。あなたは、大賢者と呼ばれるほどの徳の高い人ではなかったのですか?」
     ロムは信じられなかった。大賢者とまで言われた人の発言とは、どうしても思えなかった。
    「ふん。大賢者という肩書きは自分でつけたわけではないわい。こっちは迷惑しているところじゃ」
    「そんな」
    「わしはな、この世界の歴史をずっと見届けてきた。千年、二千年どころではないぞ。まだ人間が洞穴に住み狩りをしていた頃から、じゃ」
    「……」
    「ロムよ。この世界に訪れた危機が魔族の侵略だけだと、本当に思っておるのか?」
    「え?」
    「お前も歴史くらいは習ったじゃろう。人間の歴史は、戦争の歴史じゃ。これまで人間は、幾度となく戦争を繰り返してきた。お前の故郷、グランバニアですら例外ではない」
    「けど、それとこれとは」
    「話が違うといいたいのじゃろう? じゃが、そうではない。少なくとも、魔族は魔族同士では滅多に争ったりはせん。あいつらはとても同族意識が強いからな。それに比べると、人間は平気で互いを憎み合い、殺し合う。人間と魔族、どちらが優れているか、ここまで言えばわかるじゃろう」
    「あ、あなたは、魔族の味方をするというのですか」
    「……ふんっ」
     ブライはこれ以上ロムと議論を交わす気はないようだった。

     

     ブライは一行を屋内に招くと、ロムに向かって言い放った。
    「ロムよ。せっかくじゃ、お前にこの世界の歴史を見せてやろう。この歴史を見れば、お前さんの認識も改まるじゃろうて」
    「いったいなにを……」
     そう答えようとした時だ。突然、ブライが杖の先端をロムの眼前に向けた。
    「えっ、あ……」
     急に視界が暗黒に包まれ、ふっとロムの意識は途切れた。
    「ロ、ロムおにいちゃん!」
    「心配するな、マナ。ちょっと、眠らせただけじゃよ。さて、授業のはじまりじゃ」

     

     ……ここは。
     気がつくと、ロムは真っ暗な空間に浮かんでいた。
     ……ブライ様、これはいったいどういうことです。
     そう叫ぼうとしたが、声が出ない。
    『まぁ、そういきり立つな。これからお前を、ちょっとした時間旅行につれていってやろうとしているだけじゃ』
     ……時間旅行?
     ふいに頭の中に声が響いてきたと思うと、急に暗闇が晴れた。
     これは、街?
     見たことのない建物、みたことのない服を着た人々が、ロムの眼下に現れた。
    『これが、今から一千万年前の昔の姿じゃ』
     ……え?
     ロムはその言葉を疑った。
     ここに突如出現した世界は、そんなにも昔の光景とは思えなかった。いや、むしろ、これは未来の姿なのではないか?
     銀色に輝き、天までそびえたつ塔がいくつも建ち並び、人々はみたことのない乗り物を自由に乗りこなしている。
     その中でロムは、ただ一つだけ、みたことのあるモンスターを見つけた。
     それは、まるで衛兵のように街を巡回していた。細部は異なるが、これはキラーマシンではないか。
    『あれは衛兵ロボじゃな。キラーマシンは軍事用じゃが、こいつはあくまでも見回り用じゃ』
     ……それじゃ、この世界は。
    『左様。かつてこの世界に存在した超古代都市じゃ』
     ……超、古代都市?
    『そうじゃ。わしが生まれ育った故郷。それが、ここ、超古代都市エスタークじゃよ』

     

     エスターク。その名はどこかで聞いたことがあるような名前だった。
     ……数千万年前に、こんな文明があったなんて。
     しかも、ここはブライの故郷だという。
     それが本当だというと、やはりブライは不老不死の存在だったのか。
    『あぁ、あった。生活水準は今よりももっと高かった。魔法も発達し、誰もが自由に魔法を操ることが出来た。才能のないものも、道具を介してそれを行うことができたほどじゃ。じゃが、この文明は一夜にして滅び去ることとなる』
     ふいに、場面が変わった。
     まるで天国から地獄に変わったかのような、そんな変貌を世界は遂げた。

     それは、あまりにも恐ろしい光景だった。
     空は暗黒に染まり、大地は裂け、空から飛来した無数の炎が都市を飲み込んでいく。
     阿鼻叫喚の中、人々の命は次々と消えていく。それは、あまりにも無慈悲な光景だった。
     ……こ、これは……
     顔面蒼白の中、ロムはみた。
     天空にそびえ立つ竜と魔神を。
    『片方はマスタードラゴン。この世界で神と呼ばれし者じゃ。そして、それと対峙している者こそ、この災悪を産んだ元凶、エスタークじゃ!』
     ……エスターク。
    『エスタークの正体は、この文明の中でもっとも巨大な軍事都市が作り出した精霊じゃ。隣国を征服するために作り出したこやつが、暴走し、悪魔となり、魔神に進化し、やがては世界全土を滅ぼすのじゃ』
     ……そんな。
    『じゃが、この世界にも神はいた。それがマスタードラゴンじゃ。マスタードラゴンは、この魔神と全力で戦った。じゃが、人間が作った魔神の力は、神と互角。いや、戦いが長引けば、マスタードラゴンが不利だったかもしれぬ』
     次の瞬間、マスタードラゴンとエスタークとの間で、凄まじい爆発が起こった。
     その爆発は瞬く間に、大陸全土を、いや、この惑星すべてを飲み込んでいった。
     ふっと、景色が途絶え、また再び何もない空間に戻った。
     ……い、今のは。
    『ロム、お前にはわかるじゃろう。神と悪魔、その強すぎる力が全力でぶつかり合った時のすさまじいエネルギーが。それは、あっという間にこの世界を滅ぼすほどに強力じゃった』
     ……そうか。
     ロムにはなんとなくだがわかった。マスタードラゴンが以降魔族や魔王との戦いに直接参加しなかったことが。かわりに天空の勇者をこの世に生み出した理由が。
    『神と魔神の戦いによって、超古代文明、いや、世界は滅びた。それから数百万年もの間、この世界は草一つ生えぬ荒野と化したのじゃ。むろん、人類も絶滅した。自分たちが起こした過ちのせいで!』
     ……!
    『神は魔神を地底深くに封じ込めることに成功したが、力を使い果たし、長い眠りについた。神が再び人間を作り出したのは、それから長い年月は経てからじゃった』
     ……神は、再び人間をこの世界に生み出したのですか。
    『じゃが、神……マスタードラゴンは迷った。人間を再び産みだしたところで、行き着く先は同じ未来ではないか、と。進化を遂げた人間は、やがては自滅の道を歩む。なら、人間など、二度と産み出すべきではないのかもしれない、とな』
     ……そんな。
    『悩んだ末に、今一度神は人間を作り出した。なぜ、もう一度人間をこの世に生み出したのか……それは、神のみぞ知る、といったところじゃな』

     

     ふっと、意識が戻った。
    「ロムお兄ちゃん、大丈夫!?」
     マナが駆け寄る。
     ロムは軽く目眩を覚えたが、なんとか踏みとどまる。
    「これでわかったじゃろう? ロムよ。人間の進化は、とどのつまり、自滅なのじゃよ。結局、人は同じ過ちを繰り返す生き物なのじゃ。ならば、このまま魔族に生存権を譲り渡すほうが利口と呼べるのではないかな?』
    「いえ、いえ、だめです!」
     ロムは必死に否定した。
    「なぜじゃ? お前も見たじゃろう。あの世界がどんな結末を迎えたのかも」
    「確かに、人間は愚かにも自分たちが作り出した過ちによって滅びました。だけど、神様がもう一度僕らを産み出してくれたのなら、僕らには生きる権利があるはずです! 家畜のように魔族の下僕となることを、神が望んでいるはずがない!」
    「……」
    「それに何より、僕は天空の勇者だ。だから僕は最後まで人間の味方でいたいんです!」
     ……しばしの沈黙が場を支配した。
     マナとプサンは、固唾をのんで様子を見守る。
     先に言葉を発したのは、ブライの方だった。
    「なるほど、勇者としての自覚はある、ということか。それにしても、強情なやつじゃ。じゃが、さすがエルの息子だけのことはあるわい」
    「え? 母をご存じなのですか」
     ロムは驚いた。母がこの世界に転生する前の名前、先代の勇者エルフォーシアの名前が出てくるとは。
    「おいおい、忘れたか? ご存じも何も、わしはかつて、エルフォーシアと共に魔王と戦った導かれし者たちの一人じゃぞ。とにかく、わしはあやつがデスピサロと戦う前に、同じ光景を見せた。それで問うた。もっとも、その返答はお前さんと同じじゃったがな」
    「……母が」
    「ふむ、合格じゃ。ロムよ」
     にやっと、ブライは笑った。
    「合格って、それじゃ、今まで僕を試していたのですか?」
    「おうともよ。お前さんの、勇者としての覚悟を確かめさせてもらった」
    「なんだ、そうだったんですか」
     ロムはほっと胸をなで下ろした。
    「僕はてっきり……」
    「もっとも、わしは人間は嫌いじゃ。これだけ長い時を生きておるとな。人間の醜い部分をいやというほど見せつけられる。わしに永遠の命を与え、この世の行く末を見守る役目を与えた神を恨んだほどにな」
    「……」
    「じゃが、中にはわしが気に入っておる人間もおるのでな。そうむげにもできんのじゃよ」
     そういって、ブライはマナの頭をよしよしと撫でた。
     その顔は、孫娘にお小遣いをあげるおじいちゃんそのものだった。

     

     

    「ロムよ。おぬしはこれから、どうするつもりじゃ」
     改めて、ブライはロムに訪ねた。
    「光の教団の教祖イブールを倒します。これしか、この世界を救う手だてはありません」
    「無謀だとわかっていてもか?」
     確かに、成功する確率はほんのわずかだ。だが、これ以外に形勢を逆転する方法はなかった。
    「はい。成功する確率がたとえ1パーセントだとしても、僕はやります」
    「ふむ。その気持ちに水を差すようで悪いが……」
     ブライはあごひげをしゃくりながら、言った。
    「今のおまえさんでは、たとえ奇襲に成功しても、イブールを倒すことはできん」
    「……イブールとは、それほどまでに強いのですか」
    「それもある。じゃが、問題はむしろおまえさんのほうにある」
    「それって……」
    「おまえさんの体のことをいっておるのじゃ」
     鋭い目線が突き刺さる。
    「え? ロムお兄ちゃん、まだ身体の調子悪いの?」
    「え、い、いや」
    「とぼけても無駄じゃ。わしにはわかる。おぬしの身体はすでにボロボロじゃ。おそらく、お前の勇者としての力が原因じゃろう。そのあまりにも強大すぎる力に、肉体がついていかないのでないか?」
    「うっ……」
     まさしく、その通りだった。
    「そうなの、ロムお兄ちゃん!?」
     驚いて心配そうな顔をするマナに、ロムは何ともいえない微妙な表情で返す。
    「で、でも、僕は」
    「……この際だからはっきりいおう」
     ブライは目を細めて言った。
    「お前の命は、もってあと一年じゃ」

     


    「……」
     ロムは黙って唇を噛みしめた。
     たった今言い渡された余命宣告。それを黙って受け入れる。
     事態を飲み込めていないのは、マナだけだった。
    「薄々、感づいていました。僕の命が、そんなに長くないということは。自分の中の力が日増しに高まるごとに、身体が引き裂かれそうになる感覚……」
     ぐっと、拳を握りしめる。
    「やはり、な。天空の勇者というのは、代々短命らしい。エルもそうじゃった……」
     ブライはもの悲しい表情を見せた。
    「しかし、一年以内に僕が死ぬというのであれば、尚更事を急がなければ」
    「ロムお兄ちゃん!」
     悲痛な声を上げるマナ。
    「……いいんだ。マナ。覚悟は出来ていたことだ」
     控えめに微笑み、ロムは涙目になっている彼女を優しく撫でた。
    「その覚悟、誠のものだな?」
    「はい」
     ロムはうなずく。
     ブライの目がぎらっと煌めいた。
    「わかった。なら、わしからの助言を伝えよう。ロムよ。確かにお前の身体はもはや限界じゃ。だが、その身体を一時的にだが全快する術はある」
    「えっ!? そ、そんな術が、あるというのですか」
     信じられなかった。どんな薬草も回復魔法も効果はないだろうと、半ば諦めていたというのに。
    「かつて、この世界には一本の大木がそびえ立っていた。天まで伸びるほどのな。その名は、世界樹」
    「世界樹、ですか」
     聞いたことのない名だった。
    「その世界樹から採れる雫ならば、お前さんの身体を復活させてくれるはずじゃ」
    「けど、ブライ様」
     首を傾げながらマナが言った。
    「そんな大きな木なんて、見たことも聞いたこともないわ」
    「うむ。残念ながら、世界樹はとある出来事によって枯れ果ててしまったのじゃ」
    「それじゃ、雫などどこにも」
    「いや、あそこならば、きっと雫はまだあるはずじゃ」
     そういって、ブライは杖をはるか天上へと向けた。
    「え? え? え??」
     わけがわからず、マナは頭に?マークを浮かべる。
     ただ一人、ロムはハッと気づく。
    「ま、まさか」
    「そうじゃ。神と天空人が住む地、天界にならば、世界樹の雫はまだ残っているはずじゃ。世界樹の雫の精製は、天空でしか出来ないのだからな」
    「つまり、まだ在庫が残っている、ということですね」
    「なんとも俗っぽい言い方じゃが、その通りじゃ」
    「天界……か」
     ロムは感慨に、ぽつりと呟く。
    「天界、というと、天空の塔からいくんだっけ? 伝承では、そうなっていたわよね」
    「天空の塔……か」
     ロムは呟く。
     伝承で聞く天空の塔。
     だが、その在処は誰も知らなかった。
    「けど、そんな塔が本当にあるのかしら? 天界にまで続いている塔だなんて、どこからでも見えそうなものなのに」
    「ブライ様は、天空の塔がどこにあるのかご存じなのですか」
    「まぁ、の」
    「それで、天空の塔の場所は?」
    「幸いじゃったな。ここからそう遠くない。馬車を走らせて二日ほどのところじゃ。どれ、わしが案内してやろう」
    「ほ、本当ですか?」
    「わしに二言はないわい。ほっほっほ」
     そういって、ブライはにこやかに微笑んだ。


     かくして、ブライという新たな同行者を得たロム一行は、天空の塔があるという、ゴッドサイド地方へと向かった。
     ゴッドサイド地方は内海の浅瀬に浮かぶ小さな島だ。波も穏やかで、小舟で渡れるほどだ。ロム達は付近の村でボートを調達して、それに乗って行くことにした。
    (本当にここに天空の塔があるのだろうか)
     ロムが疑問に思うのも無理はない。見たところ、何の変哲もない島だ。もちろん、天高くそびえる塔など、どこにも見当たらない。
    「本当にこの島に天空の塔があるの?」
     マナはいまいち信じられない様子だ。
    「まぁ、いってみればわかる」
     と、ブライはニヤッと含みのある笑いを浮かべた。

     

     


     つづく

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