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2011.05.27 Friday

反竜伝記外伝 もう一つの物語 第一話

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    全五話程度の予定です。

     

     

    第一話

     

     ※作中でロムがフェズリィ=○○○のことをすでに知っていたりする描写がありますが、これはこの短編だけのオリジナル設定となっております。その他いろいろと差違の部分がありますが、お祭りと思って軽く流して頂ければ幸いです;。

     

     

     シスターと別れたロム達は、旅支度を整えたのちにポートセルミを出発した。
     旅立つ前に、シスターから前金を受け取ったフェズリィは、その金で馬売り屋から馬車と馬をセットで購入した。
     もちろん、護衛するご令嬢のためだ。
    「安物の馬車で申し訳ありません。どうですかな。乗り心地は」
     フェズリィは馬車内に座っているフローラにたずねた。
    「とてもいいですわ。それより、私の方こそ気を使わせてしまって申し訳ありません。私でしたら、徒歩でもよろしかったですのに。こう見えて、修道院にいたころはオラクルベリーまで歩いて通っていたんですのよ」
    「なるほど。その華奢なおみ足からは想像もつきませんな。おっと、こいつは失言でしたね」
    「まぁ」
     フローラはというと、気分を害すどころか、愉快そうにころころと笑った。
    「サラボナまでは三日程度でつく予定です。できるだけご不便をかけないように勤めますが、もし何かあれば言ってください。男性である私やロムに話しにくいことなら、アイメルにでも。彼女とは歳も近いでしょうから」
    「お心遣い感謝しますわ。フェズリィさん。サラボナまでの道中、よろしくお願いしますね」
     


     フェズリィとフローラがそんな他愛のない話をしている頃、馬車の外ではロムとアイメルが小声で話し合っていた。
    「ねぇ、ロム。あの人って、やっぱり」
    「……うん。信じられないけど、フローラ母さんだよ」
    「あの人が、ロムのお母さんになる人?」
    「まだそうなるとは決まったわけじゃないけどね」
     そうなのだ。この世界と自分達の知っている世界とは微妙に差違が生じている。フローラが別の男性と結婚したり、生涯独身のままでいる可能性だってありうるのだ。
    「それにしても驚いたわ。こんな偶然ってあるのね。けど、フローラさん、まだ独身だったということは、ここは私たちの時代よりもだいぶ前ってことになるのかしら?」
    「あぁ、そうらしいな」
     話を終えて、フェズリィがこちらの会話に加わる。
    「で、父さん、どうだった? 若い頃の母さんとの会話は」
    「それなんだが、どうも妙なんだ。話しているとわかるんだが、やはり私の知っているフローラとは、どこか違う。外見的なものではなく、なんというか、雰囲気というか……」
    「そうかな?」
     元々若かった頃の母を知らないロムにとって、その違いが何なのかはわからない。
    「まぁ何にせよ、サラボナに無事に送り届けるまでの付き合いだ。そのことは忘れないようにな」
    「う、うん」
     フェズリィがいうことの意味するところは、ロムも理解しているつもりだった。自分達はこの世界においてイレギュラー的存在だ。あまりこの世界の住人と関わりあいを持つべきではない。どんな悪影響が出るかわからないからだ。
     彼女は自分の母ではない。あくまでも赤の他人なのだ。それはわかっているが、ロムにはそう簡単には割り切れそうになかった。


     
     最初の一日目が終わった。
     初日ということもあり、日が暮れないうちに野宿の準備に入った。
    「あの、何か手伝いましょうか?」
     火をおこすために薪を拾っていたアイメルに、フローラは声を掛けた。
    「あ、いえ、お気遣いなく。フローラさんは馬車の中で休んでいてください。今日は疲れたでしょう?」
    「そんな。私は四六時中馬車の中にいましたから大丈夫ですわ。それに、何かしていないと落ち着かなくって」
     花嫁修業のために修道院に預けられたフローラにとって、家事はもっとも慣れ親しんだものであった。さすがに野宿経験はないが、火を起こしたり、山菜採りくらいはできる。
    「では、馬車の中に市場で買った野菜があるんですけど、それを取ってきてくれますか?」
    「はい!」
     野菜を持ってくる、ただそれだけのことなのに、フローラは嬉しそうに頷いた。
    「なんだか変な気分ね」
     アイメルは苦笑しながら首を傾げた。
     ほどなくして彼女は戻ってきた。麻袋にぎっしり詰まった野菜を手に持って。
    「お待たせしました」
    「ありがとうございます。ごめんなさい、重かったですか?」
    「それほどでもなかったですわ。修道院にいた頃もよくこのくらいの買い物はしていましたから」
    (そういえば、ロムから、母さんは昔笑いながらモーニングスターを軽々と振り回して戦っていた、って話を聞いたことがあるけど、あれは冗談じゃなかったのね)
    「どうかしましたか? アイメルさん」
    「えっ!? い、いえ、なんでも」
     慌ててアイメルは頭をぶんぶんと振った。
    「あの、失礼ですけど、フローラさんって、歳はおいくつで?」
    「今年16になったばかりですわ」
    「私より二つも年下なんですか!?」
    「そ、そうですけど……ちょっと、傷つきますわ。私って、見かけより、その、年上に見えますの?」
    「い、いえ、そんなことは。ただ、ちょっと驚いちゃって。フローラさん、大人っぽいから」
     16ってことは、ロムより年下じゃない。はぁ、なんて運命のいたずらなのかしら。
    「大人っぽいって?」
    「その、胸とか」
     アイメルはちらっと彼女のバストサイズを自分のと見比べた。そして悲しくなった。
     方やフローラはというと、アイメルの発言にみるみると顔を真っ赤にする。
    「ご、ごめんなさい、私ったら、変なこといっちゃって。今のは、忘れてください」
    「は、はい」
     ……なんとも気まずい雰囲気が流れる。
    「そ、その、アイメルさん!」
     このムードをなんとかしようと、フローラは会話の流れを変えるべく彼女に尋ねた。
    「は、はい?」
    「アイメルさんは、その、結婚について、考えたことはありますか?」
    「け、結婚、ですか」
     質問して、フローラはしまったと後悔した。アイメルは明らかに動揺している。
    「そ、そうですね」
     アイメルはもじもじと左右の指先を絡めながら、恥ずかしそうに言った。
    「まだ、そこまでは。相手もいませんし」
    「ロムさんは、恋人ではありませんの?」
    「わ、私とロムは、そういう関係じゃありませんよ!」
     慌てて否定する。
    「それじゃあ、フェズリィさんと?」
    「か、考えられません! わ、私とあの人では一回り以上も歳が離れてますし、それにフェズリィさんって奥さんがいるんですよ! 不倫になっちゃいますよ!?」
    「フェズリィさんってご結婚なされているんですか!?」
     今度はフローラが驚く番だった。
    「結婚どころか、子供もいますよ」
     アイメルがロムとフェズリィが実の親子だということを話すと、フローラは目を丸くした。彼が所帯を持っていることが考えられなかったようだ。
    「あんな鎧をしている方ですから、てっきり独身かとばかり思ってました。驚きましたわ。奥様を一度お目にしたいですわ」
    (あははは……)
     鏡を見ろ、とも言えず、アイメルはただただ苦笑した。
    「でも、その奥様は今どちらへ? ご一緒ではありませんよね」
    「……私も詳しくはしらないんですけど、今、わけあって離れ離れになってるみたいです。あ、でも、離婚とか、そういうんじゃないんですよ。フェズリィさんを見ていると、わかるんです。あの人がフ……奥さんをとても愛していることが」
    「……そうですか」
     フローラは俯きがちに呟いた。
    「私も、そんな殿方に巡り会うことができるといいんですが」
    「あ……」
     そうだった。アイメルは今更ながら思い出した。花嫁修業に修道院に行っていた彼女がサラボナに呼び出された理由といえば、一つしか思い浮かばない。
    「……私、サラボナに帰ったら、結婚しなければならないんです。顔を知らない、見ず知らずの男の方と」
     その話なら知っている。というか、サラボナ周辺で育った人間で知らない者はいない。それほどまでに当時話題になった。今では著名作家が本にしたほどだ。
     フローラの父ルドマンは莫大な富を持つ大富豪だが、世継ぎに恵まれなかった。故に娘の婿を募るのである。それも無茶苦茶な条件を出して。
    「私、今まで一度も男性を好きになったことがないんです。それなのに、結婚だなんて」
    「フローラさん」
     大丈夫ですよ。フローラさんはなにも心配することはありません。そういってあげたい。あなたはとても素敵な人と結婚できます、と。
     だが、この世界が自分達がいた世界とは似て非なるものである以上、フローラの結婚相手が必ずフェズリィ(リュカ)になるとは言えない。もしかしたら彼女は、財産目当てのろくでなしと結婚させられるかもしれない。そう考えると他人であるアイメルですらぞっとした。
    「フローラさん、無理することはないんですよ。女にとって、結婚は切実な問題であることはわかるつもりです。いやならいやって、お父様に仰った方が」
    「……アイメルさんは、優しいんですのね」
     フローラはにっこりと微笑んだ。
    「でも大丈夫ですわ。今までお父様がしたことで、間違いだったことはありませんもの。それに、こうなることでお父様の恩返しになるのだったら、私は……」
    「恩返し?」
     アイメルはその言葉の真意を尋ねようとしたが、
    「アイメルさん、そろそろ支度をすませてしまわないと、暗くなってしまいますわよ」
     そういって、結局はぐらかされてしまった。


     
     一方、時は半刻ほど遡る。
     ここサラボナのルドマンの屋敷では、屋敷主の怒声が響きわたっていた。
    「デボラ、デボラはいないかっ!」
     ドスドスと床を鳴らしながら歩いているのは、恰幅のよい体つきをした、豪勢な服を身にまとった初老の男、いうまでもなく、彼がルドマンであった。その顔は怒りで真っ赤に染まっている。
    「あらあなた、いかがなさったの?」
     優雅にカップを手にしたままでルドマン婦人が亭主に聞く。
    「あぁ、お前か。デボラのやつだ。あいつの部屋から、こんな書き置きが見つかったのだ」
    「……お世話になりました。デボラ。あらまぁ、ずいぶんとシンプルな書き置きだこと。あの子らしいわ」
    「関心しとる場合か! まったく、もうすぐ妹が帰ってくるというのに、あいつはなにを考えとるのだ?」
     フローラとともに彼女をうちの養子にして十年が経ったが、ルドマンは未だにデボラのことが理解できなかった。何かというとことあるごとに自分に楯突く。そのわりに金使いが荒く、そのことで口論になったことも一度や二度ではない。
    「だ、旦那さまっ」
     その時一人のメイドが慌てふためきながらやってきた。
    「今度はなんだ!?」
    「馬小屋の馬が一頭見あたりません」
    「もしや、フォルセティではないだろうな」
    「そ、そのまさかでございます」
    「こ、このわしが一番大切にしている馬をっ!」
     わなわなとルドマンは拳を振るわせた。
    「いいじゃありませんの。フォルセティはデボラが一番可愛がっていましたし、第一あなたの体重じゃ、馬が潰れてしまいますわよ」
    「い、いいんじゃ! あれは鑑賞馬じゃ!」
     顔を真っ赤にして反論する。
    「おい、なにをぼーっとしておる!」
     おろおろしていたメイドに向かってルドマンは一喝した。
    「ぼさーっとしておらんで、早く連れ戻せ! 人を雇ってもかまわん! はやくせんかっ!」
    「は、はい! ただいまっ」
     メイドは慌ててその場を後にする。
    (そう簡単にあの子が捕まるとは思えないけど)
     夫の暴言に肩をすくませながら、落ち着いた仕草で夫人は紅茶に口をつけた。

     

     

     

     

     

    コメント
     養親に養われ何不自由ない暮らしをしてる立場で、言葉も金遣いも荒く宝石と良馬を盗んで家出・・・。
    デボラの特徴をよく掴んでますねえ。小説内で少しは自立して成長できるといいんですが。
    • N
    • 2011.05.28 Saturday 08:52
    感想ありがとうございます。
    短編でデボラを出すのは初めてで、上手く動いてくれるか心配ですね;
    • 花屋敷(管理人)
    • 2011.06.02 Thursday 15:07
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