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2010.03.22 Monday

反竜伝記 完結編 第26話 バーサス、リュカとフェズリィ

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    反竜伝記 完結編 第26話 バーサス、リュカとフェズリィ 
     
    反竜伝記 完結編 第26話 バーサス、リュカとフェズリィ


     ……なぜだッ!

     吐き出すような、叫び声が聞こえる。
     その声に聞き覚えはない。しかし、なぜだろう。私は今までに何度も、その声を聞いてききたような気がする。
     その他人ならざる声は、さらに続いた。
     それは、悲痛の叫びであった。

     ……なぜ、わかってくれないッ!
     僕はこの十年間、自分を捨てて、この国のために尽くしてきた。親から託された使命すら捨てて!
     その僕を、おまえたちは父ではないというのか! 父とは認めないというのか!
     今まで一度たりとも、おまえたちを忘れたことはなかった!


     どうしてだっ! ロムッ、フローラッ!!





     ハッと、フェズリィは目を開けた。
     全身が現実世界に溶け込んでいくのを感じる。どうやら、夢を見ていたようだ。
     なんて、夢だ。
     フェズリィはため息まじりに胸を押さえた。心臓の音は、聞こえない。当たり前だ。彼の身体は、とうの昔に生気を失っている。肉体に血は通っていても、巡廻はしていない。それなのに、どうしたというのだ、この胸の動悸は。
    「気がついたか」
     その声はライオスのものだった。今更ながら、フェズリィはすぐそばに彼がいたことに気づく。
     ライオスは剣を抱いたまま、地べたに腰を下ろしていた。おそらく、気を失っている自分の護衛をしてくれていたのだろう。
    「私は、気を失っていたのか?」
    「あぁ、ロム達が行くのを見届けてから、突然ばったりと倒れた。まったく、驚かせおって。とうとう力尽きたかと思ったぞ」
    「ははは、それは、心配かけてすまなかったな。だが、どうやらまだ生きているらしい」「ふん。それより、大丈夫か。だいぶうなされていたが」
    「あぁ、変な夢を見たよ。いや」
     フェズリィはゆっくりと頭を振った。
    「あれは夢なんかじゃない。私にはわかる。あれは、もう一人の私の心の叫びだ」
    「どういうことだ?」
    「ふふっ、どうやら、同じリュカ同士、惹かれ合うものがあるらしいな」
     そういって、フェズリィはふらつきつつ立ち上がった。
    「お、おい、あまり無理は……」
    「だいじょうぶさ。少し休んで、身体はだいぶ楽になった」
     それに、と、フェズリィは付け足す。
    「まだ、死ねないさ。確かめなければならないこともできたしな」
    「確かめなければ、ならないこと?」
     フェズリィはその質問にはあえて答えず、黙って頷くに止めた。
    「……わかった。今すぐ、二人を呼んでこよう。本当に、大丈夫だろうな」
     ライオスは念を押すように言う。
    「あぁ」
     フェズリィは間髪入れずに返事を返す。だが、胸に埋め込まれた命の石の輝きは、今にも消えそうなほど、弱々しいものだった。



     甲高い音と同時に、凄まじい爆発が生じる。
     爆風の中、ロム、フローラ、アイメルは煙に紛れて部屋を飛び出した。
    「逃がさないよ」
     フィアは右手に魔力を集中させてイオの呪文を発動させると、そのエネルギー球をロム達に投げつける。
    「マホカンタッ!」
     振り向きざまにフローラが出した魔法障壁が、エネルギー球をはじき飛ばす。
    「フィア! お願い、正気に戻ってっ」
     母の叫びも空しく、フィアは連続でイオの呪文を放つ。攻撃がバリアにぶつかるたびに、マホカンタの表面にヒビが入っていく。
    「くっ、なんて、魔力……!」
    「きっと、何者かに精神を封じられているんです」
     と、アイメルがいう。
    「それと同時に、潜在能力も無理矢理引き出されて……」
    「そう、それで」
     確かに、このイオの威力は普通ではない。一発一発が、イオラ級の破壊力を秘めている。
    「だとすると、はやく正気に戻さないと危険だわ。心身にかかる負担が大きすぎて、やがては精神が焼き切れてしまう」
     その時だ。
     この騒ぎに気づいた兵士達が駆けつけていた。
    「なんだこの騒ぎは、こ、これは、フィア様?」
     兵士長らしき男がフィアに近寄る。
    「……危ないっ!」
     ロムはとっさに飛び出し、彼に体当たりする。
     その直後、イオの光球が彼の背後の壁に炸裂し、大爆発を起こした。
    「ひ、ひえぇ」
     壁に風穴が空くほどの威力を目の当たりにして、兵士長の顔色は瞬時に青ざめた。
    「フィア、なんてことを」
    「無駄よ、ロム。今のフィアには、何を言っても聞こえないわ」
    「なら、どうすればいいんだよっ」
    「落ち着いて。フィアに術をかけた術者を見つけて、洗脳を解かせるのよ。それしか、方法はないわ」
    「そんなこと、いったっ……」
     言いかけて、言葉を失う。
     次にフィアが放とうとしている術、それは、先ほどのイオラと比べて、三倍ほど大きな光球だった。
     まずい。あんなものを食らったら……!
     だが、ロムが動くよりも早く、フィアは容赦なくエネルギー球を放った。
     やられる! と、ロムは覚悟を決めた、その時だった。
     突然、何者かが放った短剣が、イオラの光球を貫いたのだ。
     エネルギー球は標的に到達する間際に大爆発を起こす。
     その爆風に、ロムは吹っ飛ばされ、壁に背中を強く打ち付けられた。
     一瞬、呼吸が止まり、その後、ひどくむせ返る。体中が激しく痛んだが、死ぬよりかはましだ。
    「いったい、誰が……あっ」
     顔を上げたロムはその姿を見て驚いた。
     そこにいたのは、ホークスを肩に止めた国王リュカと、その従者オークスだった。



     リュカはそのフィアの変わり様を見て、明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。
    「ど、どうしたんだ。フィア、なぜ、このようなことを」
     その呟きに、ロムは唖然とする。
     この男は、偽物だ。それは、はっきりした事実だ。なのに、どうしてこの男は、そんな顔色でフィアを見つめているのだ。
     フィアをこんなにした張本人は、このリュカ王ではなかったのか……?
    「どいて、お父さん。今、この男に止めを刺すから」
    「と、止めって、何を言っているんだ、やめなさいっ!」
    「この男は結局、最後までお父様に心をお許しにならなかった。お母様もよ。こんな二人、もう家族でも何でもないわ。私たちの敵よ」
    「フィ、フィア様、いったい、どうなすったんですか。正気に戻ってくだされ」
    「うるさいッ! ダマレッ!!」
     カッと見開くその目は、明らかに正気を失い、焦点すら定まっていなかった。
     その時だ。カツカツと靴音を響かせて、その男は悠然とやってきた。
    「おやおや、何の騒ぎかと思い来てみれば、これはこれは……」
     狂ったフィアを見つめるセヴィルの眼差しは、冷ややかなものだった。
    「セヴィル。大変なんだ。フィアが」
    「ん? 何を驚く必要があるのです?」
     セヴィルは首をかしげた。
    「フィア様は、反逆者ロムとその一行を、ご自身で始末しようとなさっているのですよ」「なっ!」
     リュカは愕然とする。
    「身内の恥は自分で、ということです。リュカ王、そういうことですから、くれぐれも、邪魔せぬよう、お願いしますよ」
    「ふざけるな!」
     リュカは激昂して、セヴィルの襟首をむんずと掴んだ。
    「あれが正気を失った者の姿だと、なぜ気づかない! いや、そもそも、ロムが反逆者とは、どういうことだ!」
    「ロム王子は、この国の転覆を企てた疑いがあります。我が軍を掌握し、ラインハットへの援軍とする……それは、許し難き裏切り行為です」
    「そ、そんな」
    「違う!」
     ロムは間髪入れずに叫んだ。
    「でたらめをいうな! それに、謀っているのはおまえ達の方じゃないのか。オジロン王とサンチョさんは、すでに解放したぞ!」
    「なに、どういうことだ? 叔父上は、すでに亡くなったはずでは……」
     知らなかった事実に、リュカの手が緩む。その隙を見て、セヴィルはすばやく、彼から身を遠ざけた。
    「へ、陛下、これは、いったい……」
     兵士長が詰め寄った時だ。
    「余計な者達には、黙っていてもらおう」
     セヴィルはそういうと、小さく呪文を唱えた。すると、ばたばたと兵士達がその場に崩れ落ちた。それは、兵士長とて例外ではなかった。
    「へ、兵士長!」
    「ご心配なく。眠らせただけですから。まぁ、起きた頃には、何も覚えてはいないでしょうが」
     くくくと不気味に笑いながら、セヴィルは眼鏡のずれを直す。
    「ま、まさか、セヴィル。おまえが?」
    「……えぇ、そうですよ」
     セヴィルはフィアの元へ近寄ると、彼女の肩を抱いて見せた。
    「もうこの娘は、私の操り人形、ふふ、かわいいお人形さん、というわけです」
    「なっ! き、きさまぁっ!!」
     怒りに血が上ったリュカは、猛然とセヴィルに殴りかかる。
     だが、セヴィルがカッと目を光らせると、途端に彼はうずくまり、苦しみ出す。
    「ガッ、う、ぐぅっ……」
    「ふんっ、身の程をわきまえず、困った奴だ」
     吐き捨てるように、セヴィルは言った。
    「やっぱり」
     魔法障壁を解いて、フローラは厳しい目つきでセヴィルを睨んだ。
    「あなたが黒幕だったのですね」
    「ふふふ、気づくのが、いささか遅かったようですね。フローラ王妃。本当はあなたもフィアのように操れれば良かったのですがね。あなたのような美女は、滅多にお目にかかれるものではありませんからね」
     その言葉に、フローラは吐き気すら覚えた。
    「ど、どうして、だ」
     苦しみに胸を押さえながら、リュカはセヴィルに言う。
    「なぜ、このようなことを。セヴィル、僕はおまえを、信じていたのに」
    「信じていた? ふん、出来損ないの屑の分際で、生意気な」
    「なっ……でき、そこ、ない?」
    「そうさ。どうやら、お前の時間も残り少ないだろうから言ってやるよ。お前はリュカなんかじゃない。真っ赤な偽者さ」
    「……えっ」
    「それどころか、お前は人間ですらない。お前は、錬金術を用いてこの私が作った、人形にすぎんのだからな!」
    「で、でたらめをいうなっ!」
     リュカは叫んだ。
    「僕が人形だと! お前に造られただと! ふっ、つくなら、もう少し現実味のある嘘を言うんだな! 僕には幼い頃の記憶があるんだぞ! れっきとした、人間の、生きた証だ!」
    「それが、私が植え付けた情報に過ぎんとしたら?」
    「なに……!?」
    「貴様が記憶している過去は、十年前のデモンズタワーで手に入れた、リュカが流した血から取り出した過去の記憶を、お前に移植したに過ぎん」
    「ば、ばか、な」
     私は、オリジナルの髪の毛一本でも手に入れることができれば、そこから記憶、癖、外見、すべてを復元することができるのだ。その情報を人形に植え付けることで、あたかも本人そっくりの複製人間ができあがる、というわけだ。この術法を使えるのは、光の教団でも私だけでね。私がこの国に派遣されてきたのも、その術法を買われてのことさ」
    「う、うそだ、そ、そんな、ことが」
    「ふん、信じられんなら、自分の胸に刻まれたナンバーを見てみろ」
    「ナンバーだと、そ、そんなものが……」
    「ふんっ」
     セヴィルはリュカに近寄ると、彼の胸元を短剣で引き裂いた。
     露わとなった胸元には、確かに『10』の文字が刻まれていた。
    「それは、製造番号。そう、貴様は十体目のリュカ、ということさ」
    「じゅ、十体目……」
    「この術には欠点が一つだけあってね。本来生きた人間の肉体にあったものを人形に無理矢理定着させるため、無理が生じる。そのため、寿命が著しく短い。だいたい、長くもって一年三ヶ月ってところだ」
    「で、では、僕の、僕は」
    「貴様は一年前に造られたリュカの複製人形よ。貴様が自分のものと誤認している記憶も、オリジナルのリュカと、廃棄された九体の人形の情報に過ぎん」
    「うわあああああああっっっ!!」
     痛ましい絶叫が、木霊した。



     うずくまり、ガタガタと震えるリュカを、セヴィルはつまらなそうに見下した。
    「真相をしって壊れたか。こいつも、もう使い物にならんな」
    「うっ……」
     隣にいたフィアの冷たい目が、徐々に色を帯びていく。
    「ふん、時間か。もう少し持つかと思っていたが」
    「フィアッ!」
    「安心しろ、返すよ、もう用済みだ」
     セヴィルはフィアの背中を突き放つ。よろけるように地面に倒れそうになったフィアを、ロムは抱き留めた。
    「お、おにいちゃん、わたし、どうして……」
    「よかった。正気に戻ったんだな」
     ほっと胸をなで下ろす。
    「リュカ王、いや、十号よ。貴様にはがっかりしたぞ。予定より早いが、貴様はもう廃棄処分だ」
    「なっ……」
     リュカの目は、先ほどまでとは打って変わって、弱々しいものだった。
    「すでに十一号は完成している。あとは貴様の記憶を受け継ぐだけだったが、その必要はないな。十一号には九号の記憶を受け継がせることにしよう。動き出した途端に反逆されたらたまらんからな」
    「この、外道がぁっ!!」
     怒りに駆られたオークスが、槍を構えて突撃する。
     だが、セヴィルは恐るべき身のこなしでその一撃を交わすと、オークスの顔面に肘鉄をお見舞いした。
    「ガハッ」
     眉間に一撃を食らい悶絶したところを、回し蹴りで跳ね飛ばす。
    「ふんっ、馬鹿め。人形に仕えて来たことも知らずに」
    「に、人形だろうがなんだろうが、関係ねぇ!」
     ゼイゼィと荒い息をたてながら、オークスは叫ぶ。
    「俺はな、リュカ王の男気に惚れたんだ。人形だからだとか、人間だからだとかは関係ねぇんだよ! そのリュカ王に仇なすお前は、俺の敵だ!」
    「オ、オークス……」
    「安心してくだせぇ。リュカ王。俺にとって、リュカ王はあんたさ」
     そういって、オークスは口元に笑みを浮かべた。
    「ふん、オークスよ。そんな口が、いつまで叩けるかな?」
     セヴィルは指をぱちんと鳴らした。すると、
    「クワァァァァッ!」
     突然、リュカの肩の上に止まっていたホークスが、甲高い声を上げる。
    「な、ホークス、う、ぐぅっ!」
     ホークスの放つ超音波が、リュカの頭に重く響き渡る。
    「が、あぁぁぁぁ!?」
     リュカが絶叫する。
    「な、なにをしているんでぃ! ホークス、やめろっ!」
    「無駄さ。ホークスは私の使い魔なのだよ」
    「なんだと!」
    「さぁ、ホークスよ、リュカの意識を奪え。そして、戦いの本能だけを呼び覚ませ! こいつの最後の仕事だ!」
    「クワァァァァッ!!」
     ホークスが甲高い鳴き声をあげた。それは、耳を劈くかと思われるほどの高音だった。
    「なっ、う、うぐ、ぅっ」
     リュカは激しく苦しみ出す。その場に転げ込み、わなわなと震える指先で喉を掻きむしる。その目は血走り、白目を剥いていた。
    「おとうさんっ!」
    「だめだっ!」
     駆け寄ろうとしたフィアの腕を、ロムは掴む。
    「離して! おにいちゃんっ」
    「もう、遅い」
     ロムはゆっくりと顔を左右に振る。彼は感じ取っていた。リュカの身体から沸きだそうとしている、禍々しいオーラを。
     悶え苦しんでいたリュカの様子が、途端に静かになる。
    「っ!!」
     ロムはとっさにフィアを突き飛ばしてから、自身も後ろに下がった。その直後、両者の間に凄まじい衝撃波が、空気を切り裂きながら疾走した。その威力は堅い石畳が深く削り取られるほど強烈なものだった。
    (なんて抜刀術だ。あんなのをまともにもらったら、ひとたまりもない)
     ロムはリュカを見据える。彼の目は、すでに感情というものは消え失せていた。
     冷たい殺人鬼と化したリュカは、ゆっくりと剣を両手に構えて腰を落とす。
    「いけないっ! ロムッ!」
     ハッとしたフローラは、息子に向けて叫んだ。
    「それは防げない! 避けてっ!」
    「えっ?」
     次の瞬間、リュカは怒濤の如く飛び出し、ロムの懐に飛び込む。まさに、一瞬の出来事だった。
     胸部に鋭い痛みが走る。
    「なっ……」
     揺れる瞳で、ロムは見た。自分の右胸に剣が深々と突き刺さっている様を。
     背中から突き出た切っ先は、鮮血で真っ赤に染まっていた。



    「どうですかな? 魔人一刀流疾風怒濤の威力は。本家にも勝るとも劣らぬスピードと技の切れでしょう?」
     そういって、セヴィルは嘲笑する。
    「ぐっ……」
     つぅっ、と、ロムの口元から、一筋の血が顎を伝う。
     リュカが、無慈悲にも、さらに剣をめり込ませた。
    「ぐああああああっ!?」
     次の瞬間、ロムは大量の血を吐き出した。
     凄まじい激痛、続いて、喉が焼けるような熱さがその身を襲う。
    「ロムッ!」
     たまらず、フローラが飛び出したが、その彼女の前にセヴィルが立ちはだかる。
    「……! どきなさいっ!」
     フローラが腰の業物を抜こうとする。だが、
    「目障りなっ!」
     突き出した掌から放たれた衝撃波が、彼女の身体を弾き飛ばす。
    「うっ、くっ!」
     吹き飛ばされながらも、なんとか受け身を取ることができたが、その技にフローラは軽い衝撃を受けていた。
    (今の攻撃から感じた邪気……まさか)
    「ふふふ、そう焦ることもないでしょう。じきに、後を追わせてあげますよ」
     そう言って嘲笑すると、セヴィルはくいと顎を反る。止めを刺せ、の合図だった。
     ググググッ、
     リュカがさらに剣に力を込める。
    「ぐっ! こ、この」
     灼熱の痛みに襲われながらも、ロムは抵抗を試みる。剣の柄を握るリュカの両手を、ぐっと掴んだ。
     次の瞬間、ロムの身体から発生したライデインの電撃がリュカの身を襲った。
    「ゴオオォウォォオッ!??」
     リュカの身体が激しくスパークする。
    「……くっ」
     大量の出血で目の前が霞むのを我慢しながら、ロムはさらに呪文の威力を上げた。
     スパークがよりいっそう激しくなる。その威力にリュカはたまらず剣から手を放す。
     ロムはその隙を見逃さなかった。渾身の力を込めて、土手っ腹を蹴り上げる。
     リュカはふらふらとよろめく。その合間にロムは震える手で身体に刺さっていた白刃を引き抜いた。
     傷口から大量の血が吹き出る。意識が飛びそうになるが、必死に現実につなぎ止める。
    「はぁ、はぁ、はぁ」
     呼吸が荒い。足腰に力が入らず、今にも尻餅をつきそうな勢いだ。
     まずいな。ロムは生命の危機を感じずにはいれなかった。目の前の男は、ライデインなどものともせずに、ゆっくりとこちらに向かってくる。
    (父さんの格好した奴に、殺されるのか……)
     ゆっくりと、リュカは地面に落ちた剣を拾う。そして、その獲物を振り上げ、一気に振り下ろした!



     この時ばかりは、さすがのロムを死を覚悟した。しかし、突然飛び込んできた人影が間一髪、彼の命を救う。止めを刺そうとしたリュカの身体に体当たりを食らわせたのだ。
     城壁をぶちやぶるという人間離れした登場シーンをやらかしたのは、他でもない、フェズリィだった。
    「ロムッ!」
     リュカを吹き飛ばしたフェズリィは、今にも崩れ落ちそうなロムの肩を支えた。
    (と、とう、さん、ほ、ほんもの、の?)
     フェズリィはすでに仮面をつけてはいなかった。リュカとは相対的な白髪に、フィアは目を奪われた。
    (フェ、フェズリィさん……? あれが、仮面の下の、素顔)
     初めて見るフェズリィの素顔に、フィアはなぜか胸がざわめくのを感じていた。予想とはだいぶ違う。もっと、若い青年をイメージしていた。だけど、不思議と違和感を感じない。それどころか、なぜかとても切ない気持ちになる。そして、同時に、言いしれぬ罪悪感も。
    「ロム、くっ、ひどい傷だ」
    「だ、だい、じょうぶ」
    「やせ我慢するな。ここは私に任せておけ」
    「任せておけって、フェズリィさん……」
     あなたは、もうまともに戦える身体じゃないはずなのに。
     そう言おうとしたが、フェズリィはそれを許さず、彼の身柄をフローラに預ける。
    「ほう、これは意外な助っ人が現れましたな。ですが、何人現れようとも無駄ですよ。あなたがたに、『リュカ』は倒せない」
    「そうかな?」
     にやりと笑うと、フェズリィは肩に背負っていた重たい槍を外した。しかも、それを装備することなく、地面に投げ捨てたのだ。
     代わりに彼が手にしたのは、腰に帯びていた一本の剣だった。脇に差してはいたが、今まで一度も使ったことのなかった剣を、彼は今、初めて引き抜いた。
    (フェズリィさんが、剣を使う!?)
     ロムですら、その光景を見るのは初めてだった。
    「ほう、重たい槍を捨てて剣に変える。確かに、戦術的に理に叶っていますな。ですが、無駄ですよ。並の剣では、魔神一刀流を使うこの男には勝てません」
    「並の剣……か」
     ふっと、フェズリィは苦笑する。
    「では、その並の剣の活躍、その目でしっかりと見届けてもらおうか」
     そういって、フェズリィは地を蹴る。
     同じ相貌を持つ男達の戦いが、今はじまった……!




     続く

















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