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2010.03.22 Monday

 反竜伝記 第三部 第五話 グランバニア

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    反竜伝記 第三部 第五話 グランバニア 
     
     反竜伝記 第三部 第五話 グランバニア

    「この山脈を越えるのか」
     延々と連なる山脈を目の前にして、さすがのリュカも開いた口が塞がらない。
     チゾット山脈。そこはグランバニアの北部と南部を分ける、険しい山々だった。
     ほとんど岩肌がむき出しで、その形はまるで剣のように鋭い。その標高は雲がかかるほどで、山頂には砂糖を塗したかのように白い雪が積もっている。
     グランバニアにたどり着くためには、この山脈を越えなければならない。
     リュカの本当の故郷へ帰るため。そして、先々代国王グラン・エルド・グランバニアに、魔神一刀流を伝授してもらうため、彼はこの山脈を越えねばならないのだ。
    「おいピエール。とてもじゃないが、わしの腰がもちそうにないぞ」
     じろっとマーリンが隣の美丈夫を睨みつける。
    「大丈夫ですよ。マーリン」
     ピエールはやんわりと言った。
    「チゾットは昔から北部と南部とを結ぶ中間地点として、何人もの商人や旅人が行き来していたのです。当然、安全な登山ルートがありますよ」
    「そうなのですか」
    「ええ」
     フローラの問いに、彼は頷く。
    「天然の洞窟がありましてね、そこを通れば確実に山脈を越えることができます。もっとも、今ではその洞窟にも魔物が出没するようになり、安全とは言い難いですが」
    「それでも、あの山をクライミングするよりはましだな」
     リュカはそういって歩き出した。チゾットを越え、目的地であるグランバニアにたどりつくために。


     砂漠の国テルパドールを旅立ってから数週間が過ぎた。
     リュカ達は大海の西南に位置するグランバニア大陸に上陸した。
     ロックベル船長らストレンジャー二世号のメンバーと別れを告げて、彼らはまず、ネッドの宿屋を目指した。
     ネッドの宿屋……そこは、チゾット山脈を越えようとする旅人達が集う、休憩地点だった。宿の他に、武器や防具の販売もしており、グランバニアを目指す者達はここで必要なものを買い揃える。そして、準備を万端にして、チゾット越えに挑むのだった。
     リュカ達もその宿で一泊して、次の日に出発した。本当はもう二日ばかり休んで、日頃の疲れを癒しておきたかったのだが、そうもいっていられないことになってしまった。そう、あのうわさ話を聞いてしまったがために。


     チゾット洞窟は山脈の内部に出来た天然の鍾乳洞だった。
     道はほぼ一本道で、傾斜も比較的なだらかだ。さすがに昔から交通の要として使われていただけあって、洞窟内には燭台が用意され、今もなお火が灯っている。
    「おいおい、リュカ、ピエール。もうちょっとゆっくり歩こうぜ」
    「えっ」
     リュカとピエールは同時に振り向いた。そして初めて気付く。自分たちとフローラ達との距離が、だいぶ離れてしまっていたことに。
    「あ、ご、ごめん」
    「これは申し訳ない」
     リュカ達は互いに頭を下げて立ち止まった。
    「とうさん、歩くのはやいよっ」
    「ほんと、追いかけるのが、やっとよ」
     ロムが駆け足で父の元にたどり着く。その後に息を切らしてフィアが続いた。
    「ごめん」
     ばつが悪そうに、リュカは髪を掻く。
    「まったくよ。どうしたのさ」
     ロムの肩の上で、スライムのベスがいぶかしげな視線を二人に投げかける。
    「リュカのおじさんはともかく、普段は冷静なピエールまで浮き足立っちゃうなんて」
    「ベス。二人の気持ちも察してあげなさい」
     リュカとピエールを庇うかのように、フローラが間に割って入った。
    「グランバニアは、二人にとって故郷なのよ。心配になるのは当然です」
    「でもさぁ」
     ぷぅっ、とベスは不満げに頬をふくらませる。
    「ごめんな。ベス。僕たちも気をつけるよ」
    「う、うん」
     年上のリュカにこうも謝れると、ベスとしてもとまどいを覚えて口ごもってしまう。
    「それにしても、どういうことじゃろうな」
     マーリンはあごをしゃくりながら唸った。
    「のうピエール。いや、グランバニアの白騎士アルフレドさんや。グランバニアという国は、常日頃から魔物の襲撃にあっているような国なのかのう?」
     マーリンはわざと、ピエールの本当の名前を出して尋ねた。
    「たしかに、グランバニア周辺には、オークやパオームといった魔物がよく出没しますし、旅人が襲われることもあります。ですが、群れを成して国を攻めることはありませんでした」
    「このところの魔物の凶暴化に関係があるんじゃないのかい?」
     メッキーが言う。
    「何にせよ、一刻も早くグランバニアへ向かわないと。どうも、のんきに里帰り……って雰囲気とはいかない気がする」
     リュカの問いに、ピエールが真っ先に頷いた。
    「やれやれ、こりゃまた同じことの繰り返しになりそうじゃのう」
     ため息混じりにマーリンが肩を落とす、その時だった。
    「とうさん、上っ!」
     突如、ロムが叫び声を上げる。
    「えっ」
     はっとリュカは天井に目を向け、とっさに身を反らす。頬に鋭い痛みが走る。
    「あなたっ!」
     フローラが叫ぶ。リュカはバランスを崩し、その場に転がり込む。
    「くっ、油断したか」
     彼はすぐさま起き上がり、鋼の剣を引き抜く。かぎ爪で裂かれた頬の傷を拭いながら。
    「グワアアアァァッ!」
     その鳥の魔物は、けたたましい鳴き声を上げながら天井ぎりぎりを旋回した。そして、再び加速をつけて彼らに襲いかかる。
    「リントブルムじゃっ! 舌に気をつけろっ
    ! 奴の舌はヘタな槍よりも貫通力があるっ」
     マーリンが叫ぶ。
     中型の翼竜は大きな口を開け、長くてゴツゴツした舌を蛇のようにうねらせた。そして、ロムの頭上めがけて滑空する。
    「ロム、逃げろっ!」
     リュカが剣を振りかざして駆け出す。だが、リントブルムの方が早かった。父の剣が届くよりも先に、翼竜の槍のように鋭い舌が少年に迫る。
    (後ろを見せたらやられるような気がする)
     ロムは歯を食いしばり、腰を低く落とした。
     そして、腰巻きから銅の剣を取り出して、構える。
    「バカな真似はやめなさいっ!」
     フローラがロムをかばおうと走り出す。だが、すでに遅かった。リントブルムは鋭く尖った舌を繰り出した。誰もが頭に思い描いた。ロムの胸が貫かれる惨劇を。
     だが、予想はよい意味で裏切られた。
     ロムはとっさにしゃがみ込んで、舌の一撃をやりすごしたのだ。
     一番驚いたのはリントブルム自身だろう。翼竜は勢い余って地面に激突した。
     激しくバウンドして、ひっくり返る。
    「このっ!」
     無防備に腹をさらした翼竜めがけて、ピエールが剣を突きつける。
     腹部を貫かれて、リントブルムはひときわ甲高い絶叫を上げた。
     翼を押っ立てて痙攣し、やがて、ばたりと力尽きる。
     絶命した翼竜から剣を引き抜いて、ピエールはほっとため息をついた。
    「こ、こわかったぁ」
     ロムはへろへろとその場にへたりこむ。
    「おにいちゃん、大丈夫!?」
     慌てて、フィアが駆け寄る。
    「う、うん、なんとか」
     妹に手を差し伸べられて、兄はなんとか頷いた。
     フィアに起こしてもらうと、フローラが今にも泣きそうな顔をして駆け寄ってくる。
    「もう、心配かけて」
    「ご、ごめんなさい」
     しゅん、とロムは首をすくめる。
    「まぁまぁ、そう怒るなよ」
     珍しく、メッキーがフローラをなだめに入る。
    「反撃と見せかけて、回避に切り替える。見事なフェイントだ。この場合のロムの判断は正しいぜ」
    「メッキー」
     驚いて、ロムは目を丸くした。
    「あ、ありがとう」
    「まぁ、無事でよかった」
     リュカは安堵の表情を浮かべて、息子の肩に手を置く。その時だ。
    「ギラッ!」
     突然、兄の隣に寄り添っていたフィアが、リュカの頭上めがけて呪文を放った。
    「う、うわっ!」
     驚いて、父はのけぞる。炎の弾丸は彼の頭上に迫っていたもう一匹のリントブルムに直撃した。たちまち翼竜は炎にまかれ、地面に墜落する。
    「も、もう一匹いたのか」
     リュカはふぅ、とため息と共に額の汗を拭う。
    「えっへん」
     フィアは自慢げに胸を張った。その手にマーリンから貰った魔法の杖を握りしめて。
    「わたしだって、いつも呪文の練習をしてるんだから。おにいちゃんが剣術の稽古をかかしていないようにね」
    「ほえぇ、すごい威力……」
     プスプスと焦げているリントブルムの死骸を、ベスはまじまじとのぞき込んだ。
    「こいつはたまらないなぁ」
     リュカは困ったように笑った。
    「あと何年かしたら、僕たちこの二人に追い抜かれてしまいそうだ」
    「もう、あなたったら」
     フローラは唇を尖らせて、夫の脇腹と肘でつついた。彼女は子供達が戦闘に参加するのは、今でも反対だった。それだけに、リュカの発言は、少しだけかちんと来る。
    「いや、それにしても子供とはいえ、並外れた魔力だな。さすがは……」
     メッキーはそう言いかけて、息を呑んだ。一呼吸置いた後、
    「……フローラの子供だな」
     と、言い換える。その不自然な間に、リュカは怪訝に思って首をかしげた。だが、すぐにその疑問は頭の中から消えた。気にするようなことでもないだろう。
     その時彼はそう思ったのだった。



     それからも何度か魔物の襲撃はあったが、どれも皆リュカ達の敵ではなかった。さすがに子供達が再び戦闘に参加することはなかったが。
     しかし、リュカ達の体力を疲弊させたのは、魔物との戦いよりも、延々と続く道のりにあった。
     普段は平坦な道が、突然入り組んだでこぼことしたものにかわったりする。自然に出来た洞窟ならではの構造に、リュカ達はともかく、子供達の足はもう棒のように重たい。
     さすがに二人とも弱音を吐くことはなかったが、足取りは次第に遅くなり、歩けなくなるのも時間の問題だった。
     子供達を負ぶってやりたいところだが、それだといざ魔物が襲ってきた時に素早く対応することができなくなる。リュカ達にできることといえば、子供達を励ますことぐらいだった。
     すでにチゾットの山越えを始めてから、八時間が経過していた。
    「うっ」
     突然、フィアがその場にがくりと倒れた。
    「フィアッ!」
     驚いて、ロムが駆け寄って妹を抱き起こす。
    「あ、足が、痛い」
     唇をぎゅっと一文字に引き締めながら、フィアはうめくように言う。
     リュカが娘の靴を脱がせると、素足はすでに血だらけだった。
     おそらく、豆が潰れてしまったのだろう。小さな足は真っ赤に腫れ上がり、見ているだけでも痛々しい。
    「こりゃひどい。もう歩けないだろう。ほらっ、お父さんの背中におぶさりなさい」
    「い、いやっ」
     フィアはぶんぶんと首を左右に振った。
    「足手まといはいやっ!」
    「フィア。それどころじゃないだろう?」
    「やだやだやだ! こんなのへっちゃらだもん! 自分の足で歩けるもんっ」
     涙目で抗議する娘に、リュカは困ったように黙り込んでしまう。
     やはり、無理があったのだ。
     ロムはともかく、フィアはまだ五歳の女の子。長旅に耐えうる体力など持ち合わせてはいない。
     もっと気遣ってあげるべきだった。自分の娘なのに。
     リュカは己自身の配慮の足りなさを恥じた。
    「大丈夫ですよ。リュカ」
     彼の心配を察したのか、ピエールはリュカの肩に手を置き、頷いて見せた。
    「ここまでくれば、山間のチゾットの村まであと少しですから」
    「ピエール……ありがとう」
     リュカは肩に乗っている彼の手をぽんぽんと軽く叩いた。こういう時こそ、父親である自分がしっかりしなければ。
     そう思い立ったリュカは、思い切ってフィアを抱き上げた。
    「や、やだやだ! 自分の足であるくのっ!」
    「駄々をこねないのっ」
     足をじたばたさせて暴れるフィアにはかまわず、リュカはすたすたと先へと進む。
     最初は駄々をこねていたフィアも、しだいに口数が減ってきた。だんだんと傷の痛みが酷くなってきたのだろう。そのことに気付いたリュカ達は、足を速めた。
     幸いにも一回も魔物に出くわすことなく、一行は洞窟の出口を抜けた。
     外に出ると、眼下に広大な大地が広がっていた。
     緩やかな円を描く地平線。沈みゆく太陽。赤く染まった大きな空。どこまでも広がる大海原……その全てが見渡せる。
    「すごい眺めだな」
     リュカは改めて実感した。自分たちは山脈を登っていたのだ。自らの足だけを頼りにして。
    「うぅ」
     リュカの腕の中で、フィアがぶるぶると身を震わせていた。顔が真っ青なのは、足の傷が痛むせいだけはなさそうだった。
     外に出てしまえば、後は村までは三分もかからなかった。
     岩肌に突き出たわずかな足場をたどって、リュカ達は山間の村チゾットに入った。
     そこは凹凸の激しいチゾット山脈の中でも比較的平らな土地に作られた閑散とした村だった。
     村人の数は、おそらく百もいないだろう。夕暮れ時のせいもあり、外に出ている人たちはまばらだったが、そのほとんどが老人であった。
    「相変わらずだな」
     ピエールは懐かしさに目を細めた。
    「この村は変わっていない。昔も今も」
    「そうか。ピエールさんはグランバニア出身だから、当然この村にも来たことがあるんだよね」
     きょろきょろと辺りを物珍しそうに見回しながら、ロムは言った。
    「えぇ、その頃はまだピエールではなく、本名であるアルフレドで、でしたが」
     ピエールは自然と目を細める。
     その後、リュカ達は村の入り口近くの宿に入った。幸いにも、フィアの足の怪我はたいしたことはなく、フローラのベホイミで綺麗に傷口は塞がった。だが、念のため今日と明日はこの村で休養を取ることにした。
    「ごめんなさい、おとうさん」
     ベッドで泣きそうな顔をするフィアを、リュカは優しく慰めた。
    「あまり気にするな。それよりも、下山の時は無理はするなよ。フィアは女の子でまだ子供なんだから、いつでも僕や母さんを頼っていいんだ」
    「うん」
     こくん、とフィアは素直に頷くのを見て、よしよしとリュカは娘の頭を軽く撫でた。
     
    「フィアはどうじゃった」
     部屋を出てドアを閉めたところで、リュカはマーリンに呼び止められた。
    「えぇ、ぐっすり寝てしまったよ。よっぽど疲れていたんだろう」
    「そうじゃろうとも。子供にこの山越えは酷じゃて」
    「……やっぱり、連れてくるべきではなかったのだろうか」
    「これこれ、今更そんなことをいうでない」
    「……そうだね。ごめん」
     マーリンに睨まれて、リュカは素直に頭を下げた。
    「あの子らは足手まといに思われるのを一番嫌がっておるんじゃ。リュカ。お前さんも父親なら、子を信じて、見守ってやるんじゃな」
    「その通りだな。本当に」
     リュカは恥ずかしそうに頭を掻く。父親として、僕はまだまだだな、と思いながら。
     こんな時思い浮かべるのは、彼の父パパスの後ろ姿だった。父さんならああするだろう。こうするだろう。常日頃からそう考えながら、リュカは子供達と接してきた。
     パパスならもっとうまくやれただろうが、自分はどうも心配性過ぎていけない。
     うまくいかないものだな。苦笑いを浮かべながら、リュカは己自身の不甲斐なさを深く反省した。まだまだ、父には遠く及ばない。
    「あぁ、リュカ。ここにいましたか」
    「ん、ピエール?」
     リュカとマーリンは声のする方を振り向く。そこには予想していたとおりピエールの姿があった。
    「どうしたんだい?」
    「リュカ。パパス様の剣が、修復できるかもしれません」
    「えっ?! なんだってっ!」
     驚いてリュカは大声を出す。
    「いったいぜんたい、どういうことじゃ。あの剣は、たしか特殊な製法で作られた名剣で、普通の鍛冶屋では修復不可能なのではなかったのか」
    「えぇ、そうです。普通の鍛冶屋ならね」
     にやっ、とピエールは口元に笑みを浮かべる。
    「だが、この剣を鍛えた男ならば、もちろん修復は可能です」
    「そ、その人が、このチゾットに住んでいるのかい」
    「え、えぇ」
     無意識にリュカはピエールに詰め寄っていた。その迫力にやや圧倒されながらも、彼はこくこくと頷く。
    「名はラーディッシュ。元グランバニアの専属鍛冶師です。腕は超一流……魔神一刀流の威力に耐えうる剣を作れる、唯一の男なんですよ。今は鍛冶師を引退し、産まれ故郷であるこの村で隠居しているとのことですがね」
    「父さんの剣が、直る……っ」
     リュカの脳裏に、五年前の光景がまざまざと蘇る。魔神アトラスとの戦いで、傷つき、使い物にならなくなってしまった父の形見の剣……
     あの時のことを思い出すたびに、リュカは己の未熟さを恥じた。あの時、もっとうまくやっていれば、剣は無事だったかもしれないのに。何度そう悔やんだことか。
    「ピエール、今すぐ行こう! 連れてってくれ!」
     リュカは言うなり、ピエールの手首を取って走り出した。
    「ちょ、ちょっと、リュカ! もう遅いですし、日を改めてから」
    「そんなに悠長に待っていられない!」
    「おーい、リュカよぉ」
     マーリンはのんびりとした声で彼を呼び止めた。
    「どうでもいいが、おぬし、肝心の剣を忘れておるぞ」
    「あっ」
     ぴたり、とリュカは止まる。ピエールの冷ややかな視線が痛かった。


    「ここですよ」
     ピエールが連れてきたのは、チゾットの村の北端の崖の切っ先にぽつりと建つ、小さな山小屋だった。
    「ここに、父さんの剣を直してくれる刀鍛冶がいるんだな」
     リュカは生唾を飲み込んで、ドアをノックする。
     返事はなかった。
    「すみません。ラーディッシュさん。いらっしゃいませんか」
     その後も軽くノックを繰り返すと、扉がギィーと音を立てて、ゆっくりと開かれた。
     そこからのっそりと顔を出したのは、一人の少女だった。
     歳は十五。小柄だが、日に焼けた小麦色の肌をした、健康的な女の子だ。山吹色の長い髪をポニーテールに纏めているのが特徴的で、身につけている衣服は薄汚れたツナギだった。
    「ふわぁい、どなた?」
     少女は半分閉じた目をこすりながら、リュカとピエールを交互に見た。
    「夜分恐れ入ります。私の名はピエ……アルフレドといいます。ラーディッシュ殿に用があって来たのですが」
    「アルフレド……さん?」
     しばしぼうっとしていた少女だったが、驚いたように目をくわっと見開いた。
    「あぁっ! あなたが、白騎士アルフレドさんですかっ!」
    「えっ?」
     ピエールは目をぱちくりした。少女の眠気はどこへ行ったのか、彼女は瞳をランランと輝かせている。
    「おじいちゃんから良く聞かされていましたよ。骨のある騎士がグランバニアにいたって! あれ、でも、アルフレドさんって、確かお亡くなりになったのでは……?」
    「……そうですか」
     ピエールは軽くため息をついた。どうやら、この国ではもう自分は故人ということになっているらしい。
    「私でしたら、この通りピンピンしていますよ」
    「よかった。おじいちゃんも、惜しい奴を亡くしたって。せっかく鍛えた剣が台無しになっちまったって、嘆いていましたからね」
    「剣を? 私のために……」
    「あ、さぁさぁ、二人とも、お入りください!」
     少女は言うなり、ピエールとリュカの背中を押して彼らを小屋の中へと招き入れた。
     工房の中は、焼ける鉄の臭いで充満していた。それと共に、熱気が漂っている。おそらく、まだ炉に火が入っているのだろう。
    「おじいちゃんっ、お客さまよ」
     炉の前でたばこを吹かしている老人に、少女は告げた。
    「なんじゃい、リア。今日はもう店じまいのはずじゃろう。帰ってもらえ」
    「ふっふっふ、おじいちゃん。この人を目の前にして、そんなことが言えるのかな?」
    「ん?」
     老人は顎に蓄えた真っ白な髭をしゃくりながら、テーブルに置いた眼鏡をかけて、客人に目を向けた。
    「お、おおぉ」
     そのとたんに、しょぼくれていた老人の目に、みるみると活気が蘇る。
    「お、おぬし、ア、アルフレドかっ!」
    「ご無沙汰していました。ラーディッシュ殿」
    「こ、こんの、バカたれめがっ!」
     喜びもつかの間だった。ラーディッシュは日焼けした顔をさらにカッカさせながら、ピエールに詰め寄ってきた。
    「生きておるんなら、もうちょっと早くに顔を見せにこんかっ! 二十年近くもまたせおって!」
    「す、すみません。そ、その、いろいろあったもので……」
     その剣幕に、ピエールもすっかりたじたじだ。
    「しっかし、おぬしは二十年前と少しもかわっとらん。どういうことじゃ? それに」
     ラーディッシュは、隣に立つリュカの顔を、まじまじと見つめた。
    「この男は誰じゃ? 誰かに似たような面をしておるが……」
    「似ていて当然。このお方は、義兄上の実の息子であらせられるのですから」
    「な、なにっ! パルバドスの子じゃとっ!」
     驚きのあまり、ラーディッシュは口から紙タバコを落としてしまった。
    「と、ということは、おまえさん、リューゼンリッター……なのかっ!」
    「は、はい」
     相変わらず自分のフルネームは慣れない様子で、リュカはどことなく曖昧な返事を返した。



    「そうか……パルバドスは死んだか」
     リュカとピエールにこれまでのことを聞き終えたラーディッシュがショックを受けたのは、やはり、パパスの死だった。
     彼はがっくりと肩を落とし、工房の椅子に深くもたれかかる。
    「陛下……わしよりも早く逝ってしまったとはな」
    「ラーディッシュさん。この剣を見てください」
     リュカは腰に帯びた剣を鞘から引き抜き、それを彼に差し出した。
    「こ、これは」
     ヒビの入った片刃の剣を手にしたラーディッシュは、眼鏡をかけ直して刃をすみずみまで見回した。
    「パルバレード……なつかしいのう」
    「パルバレード? それが、この剣の銘なのですか」
    「そうじゃ。おぬしの父親の名前を取って、パルバレードとわしが名付けた。わしの作品の中でも、最高傑作だよ。だが、この剣は……」
    「すみません。僕がいたらないばかりに、剣を傷つけてしまった」
     リュカは深く頭を下げた。
    「……ふむ、こいつはひどい。刃そのものがもう寿命じゃ。確かに、おぬしの使い方がなっていない証拠じゃな」
    「お、おじいちゃんっ。そんな、はっきり」
    「いいんだ。リアちゃん」
     リュカは首を横に振った。
    「おぬし、手を見せてみろ」
     そういうなり、ラーディッシュはリュカの利き腕である左手の手首を掴んだ。
    「えっ、う、うわっ」
     手を引っ張られ、リュカは思わずバランスを崩しそうになる。ラーディッシュは、まるで手相を見る占い師のように、彼のしなやかで、かつ引き締まった平手をじっくりと見つめた。
    「ふぅむ。よし、合格だ」
    「ご、合格って、どういうことですか」
     わけがわからず、リュカは問い返してしまう。
    「剣が破損したのは、おぬしの剣術の腕が未熟だったからじゃ。だが、この手を見る限りでは、その後修行を積んだようじゃな」
     にやっ、と、ラーディッシュは口元を緩ませた。
    「安心せい。わしが完全に修復してやるわ」
    「そ、それじゃあ」
    「おっと、早合点するな」
     ラーディッシュは彼から手を離すと、再びツナギの胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
    「確かに剣の腕は上がったようじゃが、それだけでこの剣を使うことは本来許されん。このパルバレードを使うことができるものは、魔神一刀流の真の伝承者のみなのじゃ」
    「まことの、でんしょうしゃ……」
     リュカはごくっ、と息を飲み込む。
    「この剣は預かっておく。おぬしはグランバニアへいき、そこで魔神一刀流の試練を受けるのじゃ。その試練を全て終えた時に、この剣をおぬしに渡そう」
    「……わかりました」
     リュカはこくりと頷いた。
    「僕に、その剣が相応しくないのであれば、僕はなるしかない。パルバレードを手にする者として、相応しい男に……」


    「まってくださいっ!」
     ラーディッシュにまた来ますと告げて、小屋を出たとき、孫娘のリアが追いかけてきた。一振りの剣を抱え持って。
    「どうしたんだい」
    「ごめんなさい。おじいちゃん。頑固だから」
    「いいよ。気にしないで」
     リュカは笑顔で言った。
    「でも、せっかく来てくださったのに、手ぶらでお返しするわけにはいきません。これを、受け取ってください」
     そういって、リアは手に持った剣をリュカに差し出した。
     それは、しなやかですらりと伸びた、美しい長剣だった。
    「私が鍛えた鋼の剣です。鋼の剣といっても、チゾットの鉄は他の鉄鉱石よりも強度に優れているから、魔神一刀流の威力にも少しは耐えることができると思います」
    「これを、君が?」
    「ごめんなさい。おじいちゃんほど出来はよくないんですが」
     自信なさげにリアはしょぼんと俯く。
    「……いえ、これはすばらしい名剣ですよ」
     剣をまじまじと見回したピエールが、満足げな顔で絶賛した。
    「リュカ。ぜひ貰っておきなさい。この剣は、立派にあなたの助けとなってくれるでしょう」
    「うん。僕もそう思う」
     リュカも頷くと、懐から小ぶりの袋を取り出して、それをリアの手に乗せた。
    「五千ゴールドある。それで、足りるかな」
    「そ、そんなっ! う、受け取れませんっ!」
     驚いて、リアはぶんぶんと顔を左右に振る。
    「私はまだ修行中の身。お金を取るなんて」
    「いいや。この剣には、それだけの値打ちがある。ぜひ、受け取って欲しい」
    「だめです! おじいちゃんに叱られちゃいます」
    「しかたないな」
     頑なに拒否するリアに、リュカは髪を掻きながら苦笑いを浮かべる。
    「それじゃ、こうしよう。僕には、ロムという息子がいるんだ。十年かして、その子が大人になった時に、彼のために剣を作ってもらえないか」
    「えっ? リュカさんのためじゃなくて」
    「うん。あの子も、剣の道を志した子だ。きっと、君の剣が必要になってくる。だから、その時のためにね。その五千ゴールドは、その時の代金として、前払いってことで、どうだい?」
     リュカはそういって軽くウィンクする。
    「あっ、ありがとうございます」
     リアはパァッと花開くような笑顔で、頷いた。
    「私、誓います! もっともっと修行して、ロムくんに立派な剣を作るって!」



     リュカとピエールがラーディッシュの工房を訪れていた頃。
     メッキーは一人宿を抜け出し、人気のない崖の頂に訪れていた。
     夜空には銀色に輝く月が浮かび、眼下には広大な地平線が広がっている。
    「ここでいいはずだが」
     メッキーが呟くと、突然空間が歪み始めた。
    「おいでなすったか」
     彎曲した次元から、一人の美丈夫が現れる。すらりと伸びた長身に、マグマのような褐色の肌、そして、金色に輝く独眼……行き交う女性のほとんどが思わず振り向くほどの美貌の持ち主だった。
    「待たせたか」
    「いいや、俺も今来たところだ」
    「そうか」
     男は漆黒のマントをなびかせて、地面へと舞い降りる。
    「ルラストルって呪文は便利だね。俺もキメラのはしくれなんでルーラくらいは使えるが、空間を跳躍するその呪文……ぜひ教えて欲しいものだ」
    「残念だが、この術は先天的な才能のない者には扱うことはできない」
    「そりゃあ残念だ」
    「……本題に入ろう」
    「あぁ、そうだな。まず、ゲルド……お前さんが気にしていたことだが……フローラな、やはり、天空の勇者らしい。しかも、かつての英雄エルフォーシアの生まれ変わりだ」
    「……うむ、やはり、な」
     ゲルドは顎に手を当てて低く唸った。
    「一応、真偽のほどは確かか」
    「あぁ、テルパドールのオアシスでフローラがピエール達に告白しているところを影で見ていたんだ。間違いない。だが、おかしなことを言っていたな」
    「おかしなこと?」
     ゲルドは眉をひそめる。
    「あぁ、自分は、枯れた勇者、だと」
    「……」
     ゲルドは深く考え込むかのように、深く俯いた。
    (やはり、彼女自身それに気づいていたか。やはり、天空の神であれ、完全な形で勇者を蘇生することは不可能だったようだな)
    「フローラはこうもいっていた。ロムとフィア……二人の子供のうちのどちらかが、真の天空の勇者かもしれないと」
    「……!」
     険しい目つきで、ゲルドはメッキーを見た。
    「お、おい、そんな怖い目で睨むなよ」
     慌ててメッキーは羽をばたつかせた。
    「しかし、そんなことがありえるのか。子供が勇者だなんて」
    「あり得ない話ではない。本来勇者とは血の繋がりを持って継承される……そうか」
     はっ、とゲルドは息を飲み込む。
    「天空の神がなぜフローラを不完全な形で蘇らせたのか。その謎がようやく解けた。全ては、彼女が生むであろう次なる命のために」
    「……ちっ、それが本当ならばいけすかねぇぜ。神さまってのもよ」
     メッキーはケッと悪態をつく。
    「まぁ、俺の掴んだ情報はこのくらいだ」
    「そうか。すまなかったな。これは、報酬だ。受け取れ」
     ゲルドは懐からゴールドの詰まった袋を取り出すと、メッキーに向かって放った。
     慌ててそれをキャッチするメッキーだが、その表情は晴れない。
    「やはり、良心が咎めるか」
     ゲルドの声が、メッキーの心臓を激しく揺さぶる。
    「あぁ、当たり前だ。二重契約なんざ、本来やっちゃいけないことだ。情報屋としてな」
    「だが、お前は私に協力して貰わなければ困る」
    「あんた。一度リュカと顔を合わせているんだろう。ならなぜ、直接会って話をしないんだ!」
     メッキーはわずかだが声を荒げていた。
    「それはできん。会えば、奴らに感づかれる恐れがある。そうなれば、今まで私がしてきたことが全て無駄になる」
    「……だが」
    「メッキーよ。私はお前に全てを告白した。私が何者で、何をなそうとしているのかを。私のしていることは、リュカが掲げている目的と同じことなのだ」
    「あぁ、あんたのことは信用しているよ。レヌール支部でフローラを助けたあんたのことはな。光の教団の幹部の一人、ライオネックのライオス……魔族であるあんたが、同じ魔族である光の教団に対して反乱を起こそうとしているなんてね」
    「……その名は口にするな。どこで誰が聞いているかわからん」
    「わかったよ」
    「……全ては、我が母マーサのためだ」
     そのセリフは、まるで自分自身に言い聞かせるような含みを秘めていた。
    「メッキー。私がリュカの前に姿を現すその時まで、このことは他言無用だ。わかったな」
    「わかっているよ。だが、お前、本当にリュカの目の前に姿を現すことができるのか」
    「……時が来れば、おのずと顔を合わせずにはいられまい」
     そう呟いて、ゲルドは小さく呪文を唱える。すると、再び空間が歪み始める。
     そして、彼はその中に身を委ねた。ゆっくりと次元が修正されていき、そして、ゲルドの姿は完全に消えた。

     その後、こっそりと宿に戻ってきたメッキーを出迎えたのは、プリプリしながら腰に手を当てたフィアだった。
    「もうっ、メッキー。どこにいってたのよっ。遅くまで帰ってこないから心配したわっ」
    「おっ、フィア。もう身体は大丈夫かのかい」
    「あんなの、お母さんのベホイミですぐに治ったわ」
    「そりゃあよかった」
    「ねぇ、どこにいってたの?」
    「……秘密さ」
     メッキーは翼をクチバシに当てて言った。
    「そう。それじゃあ、私はもう寝るね。お休み」
    「あっ、フィア」
     くるりときびすを返した時、メッキーは思わず彼女を呼び止めていた。
    「ん、なに」
    「あ、いや」
     メッキーは口ごもってしまう。
     この子のどちらかが勇者だなんて。
     メッキーはこの時ほど心臓がずきん、と痛んだ時はなかった。
    (まだガキなのによ)
    「どうしたのよ。メッキー」
    「あ、いや、何でもない。おやすみ」
    「……変なメッキー。じゃあ、また明日ね」
     手を振って、フィアは寝室へと歩いていく。
     その後ろ姿を、メッキーはずっと見つめていた。
    (すまねぇな。フィア。だがよ、俺も男だ。ここまで関わったからにゃあ、お前達のことは死んでも守り抜いてみせるぜ。たとえ、あのライオスのいっていることが口からでまかせだったとしてもな)
     メッキーはその夜、たった一人で固く誓ったのだった。


     それから二日たって、フィアの足の具合もすっかり良くなった。
     そして再び、リュカ達はグランバニアへ向かうために歩き出した。
     宿をチェックアウトして、彼らは下山すべく山の天辺の細道を進む。
     そこは、踏み外したら下まで真っ逆さまの断崖絶壁だった。足の踏み場はわずかしかない。
    「ふぅ、ふぅ、こりゃあ、心臓に悪いわい」
    「ほ、本当よ。もう、やんなっちゃう」
     高所恐怖症ぎみなフィアは、怖さのあまりすっかりへっぴり腰になってしまい、父のマントから手が離せない。
    「リュカ。あそこをごらんなさい」
     先頭を行くピエールが、眼下に広がる樹海を指さした。
     森の中にそびえ立つ堅牢な城が、そこにはあった。
     その大きさは、街一つは飲み込んでしまうほどの規模を誇る。
    「あれが、グランバニアです」
    「あ、あれが」
     リュカは思わず立ち止まる。
    「あれが、城塞都市……グランバニア。僕と、父さんの産まれた国か」
    「ついに、ここまで来ましたね。あなた」
     フローラも彼に寄り添ってその城を見つめる。
    「そして」
     ピエールはさらに後方……運河を隔てた小島にそびえ立つ、不気味な塔に指先を動かす。
    「あれが、デモンズタワー」
    「デモンズタワー」
     リュカはごくっ、と生唾を飲み込んだ。
     黒塗りで、ところどころが突起した、奇妙な形をした塔だった。特に、最上階の形はまるで悪魔の顔のように不気味にうねり、あやしげな赤黒い光を放っている。
    「……あの塔から、すさまじいまでの怨念や憎悪を感じます」
     フローラの声は震えていた。
    「あれは、いったい」
    「わかりません。誰が何のために建てたのか。グランバニア建国時から、あの塔はそこにそびえていました。一説では、魔物が天空の城を攻めるために建てたとも言われています」
    「その仮説も納得できるな」
    「しかし、あの光はなんでしょう。私がグランバニアに住んでいた頃は、デモンズタワーからあんな怪しげな光は出ていませんでしたし、邪悪な気配もなかった」
    「ひょっとしたら、グランバニアが魔物に巣くわれたことに関係しているのかもしれないぜ」
     と、メッキー。
    「二十年前……私はあそこで、ゲマと戦って破れ、スライムナイトにされてしまった。人間だったころの記憶を封じられて」
    「ピエール……」
    「そして、マーサ様は……くっ」
     ピエールは唇を噛みしめる。そんな彼の肩に、優しく手を置いたのは、他でもないリュカだった。
    「いこう。グランバニアへ」
    「リュカ……」
     リュカは微笑んで見せた。
     本来ならば、彼も同じ気持ちだろう。だが、リュカは自分を気遣うために、あえて冷静に振る舞った。その心意気に、ピエールは心底感服した。
    「えぇ、行きましょう。我々の故郷は、もう目の前です」


     下山のルートは登山の時と同じく、山脈内に存在する地下通路を進むこととなった。
     斜面はなだらかで、ほぼ一本道なため、迷うことはなかった。途中何度か魔物に襲われることはあったが、それもリュカ達の敵ではなかった。
     子供達も以前ほど疲労することもなくなった。むしろ、元気にリュカ達の先頭をいこうとするほどだ。
     子供の順応性は恐ろしいな。リュカは半ば苦笑しながら、そう思わずにはいられなかった。
     そうこうしているうちに、終点にたどり着いたようだった。
     洞窟の中にぽっかりと開いた口から洩れる光こそ、出口に間違いない。
     リュカ達はついにチゾット山脈を越えることに成功した。
     洞窟の出口から先は、鬱蒼と茂った森がどこまでも続いていた。
    「これがグランバニアの樹海ですよ。ここから先は、私が先頭を行きましょう」
     そう言って、ピエールが一同の前に出た。
    「大丈夫かい」
    「ははは。私にとって、この森は庭のようなものですよ」
     いらぬ心配だったようだ。リュカは安心して、彼にバトンを渡して少し後ろに下がる。
     空はほんのりと茜色に染まっていた。登りよりは楽だったとはいえ、やはり山を下りるのに相当な時間を消費してしまったらしい。
     ひょっとしたら、今夜は野宿かもしれないな。リュカがそんなことを思いながら歩いていた時だ。
     がさがさっ、と遠くの茂みから草が揺れる音が響いた。
     魔物かと思い、反射的にリュカ達は身構える。だが、
    「う、ううぅ」
     藪の中から聞こえてきたのが、人間のうめき声だとわかり、彼らは警戒心を解いた。そして、声のする方向に駆け寄る。
     そっと草を手で分けると、そこに現れたのは傷ついた若い兵士だった。
     歳は十六かそころだろう。全体的に痩せ型の、剣よりも書物が似合いそうな、気弱そうな少年だった。
     魔物とでも戦った後なのだろう。手に持った鉄の槍にはモンスターの血で塗れ、彼自身も身体中に浅い傷をいくつも負っている。
    「おい、大丈夫か」
     リュカが彼の身体を抱き起こす。
    「う、うぅ。か、かあさん。モ、モンスターが、悪魔が……」
    「……フローラ」
    「わかってますわ」
     リュカの問いかけに即座に頷いて、フローラは彼の側に跪いた。そして、兵士の肩にそっと手を添える。
    「この者の傷つき身体を癒したまえ……ベホイミ」
     フローラが呪文を唱えると、その手のひらから淡い光が溢れだした。光は少年の身体を包み込むと、じょじょに傷がふさがっていった。
    「……あっ」
     うっすらと少年は目を開けた。焦点の定まらない眼球をしばし泳がせ、やっとリュカ達の存在に気づく。
    「あなたたちは」
    「僕はリュカ。旅の者だ。君はグランバニアの兵士かい」
    「あっ、はい。自分はグランバニア王国ピエトロ小隊所属、ピピン・カッシーニ二等兵であります」
     弱々しいながらも、ピピンは名乗った。
    「危ないところを、どうもありがとうございます」
     そういって、少年兵はよろよろと立ち上がった。まだ足腰がおぼつかない様子だったが、鉄の槍を杖代わりになんとか直立する。
    「ピエトロ小隊といいましたね」
     ピエールはその名前にピンときたのか、彼に尋ねてきた。
    「ピエトロとは、王宮騎士のピエトロ・カッシーニ十騎長のことか」
    「あ、はい。ピエトロは、僕の父でもあるんです。それから、今は十騎長ではなく、百騎長であらせられます」
    「そうか、出世したな。あいつめ」
     ピエールは顎をしゃくりながら、唇に笑みを浮かべる。
     その言葉はピピンには聞き取れなかったらしく、彼は首をかしげたが、すぐに真剣な表情に戻る。
    「そうだ。早く部隊と合流しなくちゃ」
    「部隊? 演習か何かですか。いえ」
     自分で言った言葉を、ピエールはすぐさま取り消した。演習でこれほどまでの怪我を負うことは普通あり得ない。ならば、これは……
    「説明してくれますね」
    「はい。実は」
     ピピンはおずおずと話し始めた。
     最近グランバニア周辺に異常な数の魔物が出没するようになった。しかも、それらは野獣のたぐいではなく、悪魔やゴーストといった、自然界には存在しない種族達だった。
     どうやら、最近怪しげな光を放ちだしたデモンズタワーから、ぞくぞくと死霊達がこの国に向けて押し寄せているらしい。
     その魔物の軍勢を前に、グランバニア付近の村は次々と襲われ、壊滅していった。ことの深刻さを認識したオジロン王は、魔物討伐隊を組織したのだった。
     そして、今回が初めての出撃だったのである。
    「私はうっかりしていたら、隊からはぐれてしまって。それで、偶然魔物に見つかってしまい、こうして命からがら逃げてきたわけであります」
     話し終えて、ピピンは恥ずかしさのあまり顔を伏せた。
    「はぁ、自分がなさけない。勇猛果敢な父に比べて、僕はなんて臆病なんだ」
    「そう自分を責めるなって」
     メッキーはそういってピピンの肩を羽ではたいた。
    「う、うわぁ、ま、魔物だぁっ!」
     素っ頓狂な声を上げたかと思うと、ピピンはあたふたと草むらの中に飛び込んだ。
    「こりゃあ、筋金入りだぜ」
     呆れた調子で呟くメッキーを、まぁまぁとなだめながら、リュカは怯える彼に説明した。
    「そ、そうですか。よかった。この魔物達は邪悪な魔物ではないんですね」
     ほっと胸をなで下ろし、少年兵はごそごそと藪の中から頭を出す。
    「ったく。魔物の全てが人間を食い物にしているわけないだろう。俺のように、社交的な奴らだっているってことを、覚えておいて欲しいものだぜ」
    「よくいうわよ」
     にやにやと笑いながら横から口を挟んだのはベスだった。
    「こんにゃろっ」
    「へっへーんだ」
     ベスはべーっと舌を出すなり、ロムの肩から飛び降りた。その後を顔を真っ赤にしてメッキーが追いかけていく。
    「ま、まぁ、ともかくだ」
     ごほん、と咳払いをして、リュカが言った。
    「どうする、ピエール。彼をこのままにもしてはおけないし」
    「私達が責任を持って、ピエトロの元へ送り届けましょう」
    「グランバニアへはいいのかい?」
    「彼と私は旧友です。先にあなたを紹介しておくのもいいでしょう」
    「そうか。わかった」
    「さて、そうときまれば、メッキー」
     ピエールはベスを追いかけ回っていたキメラを手招きした。
    「なんだよ」
    「ピエトロが野営をしている位置を探してください」
    「なんで、俺が」
    「この中で空から偵察できるのは、あなたしかいないでしょう」
    「わかったよ。キメラ使いが荒いなぁ」
     やや不機嫌がちにいいながら、メッキーは翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がった。
    「……見つけたぜ」
     はるか頭上から、メッキーの声が響いてくる。
    「ここから北へすこし行ったところだ。焚き火の煙が見えるぞ」
    「ご苦労様でした。メッキー」
    「はいはい」
     メッキーは投げやりな返事を返して、リュカ達の元に舞い降りた。



    「ピエトロ隊長!」
     野営地で部下からの報告を聞いていたピエトロの元に、一人の青年兵士が駆け寄ってきた。
    「うむ。どうだった」
     ピエトロは無意識のうちに眉をひそめていた。がっしりとした体躯と熊のようないかついひげ面に似合わず、彼はそわそわとどこか落ち着かない。
    「残念ながら、ピピン二等兵はどこにも」
    「そうか」
     はぁ、と深いため息をつく。
     やはり、つれていくべきではなかった。彼は今、自分が下した判断を心から悔いていた。
     魔物討伐など、実戦経験の浅いピピンにはまだ荷が重すぎたのかもしれない。
     もともと、魔物討伐隊への編入を希望したのは、ピピンの方からだった。
    「父さんの力になりたいんです!」
     父に単願してきたときに言ったその言葉を、ピエトロはうれしく思った。感激のあまり許可を出してしまったのだが、今にして思えば、軽率としかいいようがない。
    「……あの子はな」
    「はっ?」
     突然の言葉に、報告をしていた青年兵は一瞬怪訝な表情を浮かべた。
    「あの子は、小さい頃から私が槍をしこんだ。実戦経験こそないが、ピピンの槍の腕は間違いなくグランバニアで上位に食い込むほどなのだ。だが、あの子は気弱で臆病なところがある。この作戦で、あの子に自信を持たせてあげたいと思ったのだよ。私は……」
    「……隊長」
    「すまん。忘れてくれ。部隊の隊長ともあろうものが、私情をむき出しにしたとあっては……」
    「ピエトロ。相変わらずですね」
    「むっ」
     突然の声に、ピエトロは振り向いた。
     どこかで聞いたような、懐かしい声だった。頭の中で、一瞬あの男の姿がよぎる。
    「ま、まさか。そんなはずがない」
     あっけにとられるあまり、ピエトロは手に持っていた報告書を落としてしまう。だが、彼はそれすら気付かない様子だった。
     なぜなら、目の前にいる男が、自分がついさっきイメージした男とあまりのも酷似していたからだ。
    「そ、そうか。お前もデモンズタワーがあふれ出たゴーストだな」
     キッと睨みつけて、ピエトロは腰に帯びた鋼の剣を引き抜いた。
    「聞いたことがあるぞ。人間に化けるという低級の悪魔……たしか、マネマネだったか。そうだろう!」
    「やれやれ」
     ピエールは肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
    「私はマネマネではありませんよ。その証拠に、私は知っていますよ。あなたが宿屋の看板娘のカトリーネにプロポーズする時、私に相談を持ちかけましたよね。プロポーズの時に送る花はミルロネーズとアスカフラン、どちらがいいか、と」
    「そ、それはっ」
     みるみるうちに、ピエトロの顔が涙でしわくちゃになっていく。
    「お、おまえ、本当にアルなのかっ!」
    「……ご無沙汰です。ピエトロ」
    「こんのやろうめっ!」
     ドスドスと駆け寄るなり、ピエトロはそのがっちりとした腕でピエールの髪をグシャグシャに掻き回した。
    「アルフレド! 今までどこにいってやがった! お前が死んだと聞いて、みんな心配したんだぞっ!」
    「そ、それにはわけがあって、ですね」
     慌ててピエールは身を引き、乱れた頭髪を整える。
    「まぁ、そんなことより、あなたに子供がいたとは、驚きましたよ」
    「なにっ、なんでお前がそのことを知っている」
    「と、父さんっ」
     おずおずと、ピピンはリュカの背中から顔をのぞかせた。
    「ピピン!」
     大きな声で息子の名前を呼ぶ。ピエトロは息子の無事な姿を確認するなり、へろへろとその場に蹲ってしまった。
    「あ、あの、ご、ごめんなさい。ぼく、その」
    「こんの、馬鹿たれめっ!」
     次の瞬間、ピエトロの拳骨がピピンの頭に直撃した。
    「いたっ!」
    「お前ってやつは、まったくっ! 人をさんざん心配させておいてっ!」
     鼻をずずっとさすりながら、ピエトロは言った。
    「ったく、今日は人騒がせな奴らが二人もいやがる。なんて一日だ」
    「いえ、ピエトロ。三人、ですよ」
     彼の言葉を修正しつつ、ピエールはリュカに目を向けた。
    「何を言っているんだ。アルフレド。ん? その方は……」
     ピエトロはリュカの顔をまじまじと見つめた。すると、みるみるうちに彼の表情が驚きのものに変化する。
    「ちょ、ちょっとこっちに来てくれっ!」
    「え、あっ」
     ピエトロはリュカの手首を掴むなり、彼を野営のテントの中へと引き入れた。ピエールは仲間達にここで待っててくれといい残し、彼の後を追う。
     テントの中は幸いにも誰もいなかった。
     ピエトロはリュカから手を離すと、
    「おぉ。今日はなんという一日だ」
     再び涙を流し、彼の前に跪いた。
    「リューゼンリッター殿下。リューゼンリッター殿下であらせられますな」
    「……はい」
     リュカは突然のことに戸惑いながらも、顔を縦に頷いた。
    「おお、もっと、もっとお顔をお見せくだされ」
     ピエトロはリュカの頬を震える手で触れた。
    「似ておられる。マーサ様とパパス様に。あぁ、間違いない」
    「ピエトロ。驚きましたか」
    「驚いたどころではない。今日で、私の寿命がどれほど縮まったと思う?」
     ピエトロは袖でごしごしと涙を拭った。
    「それにしても、どういうことなのだ。説明してくれるのだろうな。アルフレドよ」
    「えぇ、もちろん」
     ピエールは手短に話し出した。
     自分がデモンズタワーで悪しき魔人によってスライムナイトにさせられてしまったこと。そしてリュカと出会い、彼と共に旅をして、ようやく元の身体に戻ることができたことを。
     そして、リュカの口からパパスの最後を聞かされた時、ピエトロの目尻から再び熱いものが溢れだした。
    「そうか。パパス王は亡くなられたか。サンチョの話を聞いて、覚悟はしていたつもりだったが」
    「サンチョ!?」
     リュカは思わず大声で言った。
    「今、サンチョといいましたかっ!」
    「え、えぇ。然り。パパス王と共にグランバニアを旅立っていった、サンチョであります」
    「サンチョが、この国に来ているのですか!」
    「えぇ、サンチョは今から約二十年前に、この国に一人で帰ってこられました。サンタローズの村が焼き討ちにあい、パパス様もリュカ様も生死が知れず、途方に暮れながら……」
    「サンチョか。会いたいな」
    「サンチョの方も、あなたが無事生きていたことを知れば喜ぶでしょう。会ってやってください。私はここから離れることはできませんが、道案内はアルフレドにさせるとよいでしょう。できるよな?」
    「この辺りは私の庭も同然だよ。ピエトロ」
     ピエールは肩をすくめて笑った。


     リュカ達は野営地を後にして、森の中を北へと進んでいった。
     すでに辺りは夜の帳が降りており、先頭を行くピエールの手には松明が握られている。
     もうすぐ。もうすぐだ。
     リュカの胸は、グランバニアへと近づいていくごとに高鳴っていった。木々の隙間から城塞が垣間見えた時は、思わず走り出しそうになったくらいだ。
     巨大な城壁が姿を現した。魔物の進入を拒む、強固な壁の向こう側には、街一つ飲み込むほどの大きな城が厳めしげにそびえ立っている。
    「ここが、グランバニア」
     リュカは思わず息を呑んで産まれ故郷を見上げた。
    「……変わっていない。あの頃と」
     ピエールは押し寄せる感激の波に胸を押さえた。
    「ここが、あなたの本当の故郷なのですね」
     フローラの優しい問いかけに、彼はゆっくりと、噛みしめるように頷く。
    「……あぁ、そうだとも。僕はここで産まれたんだ。さぁ、いこう」
     リュカは妻と子供らの背中を押した。


     グランバニアの門番は、リュカ達を快く迎え入れてくれた。
    「へぇ、あんたたち、チゾット下ってここまできたのかい。道中魔物に襲われなかったか?」
     笑顔で門を開けてくれた兵士は、まだ二十代と若かった。
    「あぁ、でも、なんとかここまでこれたよ。あっ、そうだ」
     思い出すかのように、リュカは門番に尋ねた。
    「サンチョという人に、心当たりはないかい」
    「サンチョ? あんた、サンチョさんの知り合いかい」
     兵士はきょとんとして聞いてきたので、リュカはイエスと頷いて見せた。
    「へぇ、そうなんだ。サンチョさんなら、郊外に自分で家を建てて、そこに一人で住んでいるよ」
    「そうなのかい?」
     リュカは驚いた。ピエールから聞いた話だが、グランバニアに暮らす人々は、城の中の居住空間に住居を割り当てられているはずだ。
     当然、サンチョの屋内に家を建て、そこで暮らしているものとばかり思っていたのだが。
    「サンチョさんはこの国に帰ってきて以来、すっかり元気をなくしちゃってね。滅多なことでは誰にも会おうとしないんだ」
    「サンチョ殿……そこまで、気を落とされていたのか」
     ピエールも深いため息をつく。パパスの義兄弟だった彼にとっても、サンチョは決して他人ではない。それだけに、彼の落胆を知って胸が痛む。
    「あんた達、サンチョさんに会いにいくなら、明日にした方がいいよ。今日はもう遅いしね」
    「そうだね」
     リュカは空を見上げた。夜空にはすでに銀色の月が顔を出していた。
    「今日のところは、宿に泊まらせてもらうことにするよ」
     リュカは門番に別れを告げて、居住エリアに入った。
     そこは、見渡す限りの広大なドーム空間だった。
     上を見上げれば、広い天井が数十キロに渡って続いている。そして、視線を元に戻せば、大小さまざまな建物が立ち並んでいた。
    「本当にドームの中に街一つ、まるまると収まっているって感じだ」
    「こりゃあ、すごい眺めじゃわい」
     長年生きてきたマーリンでさえ、開いた口がふさがらない。
    「おい、ピエール。お天道様もお星様も見られないんじゃ、この街は昼夜問わずずっと真っ暗なのか?」
    「まさか」
     ピエールは軽く首を振った。
    「昼間はちゃんと天井が開放されますよ。からくり仕掛けになっていて、城の中の操作室のレバー一つで開閉が可能なんです」
    「うわぁ、僕、見てみたいなぁ」
     ピエールの話を聞いて、ロムが目を輝かせた。
    「あのおっきなてんじょうが、ごごごごご、って音をたてて開くところが」
    「大丈夫。雨や雪の日以外は午前六時に開放されますから」
    「まっ、お寝坊さんのロムにはちょっと無理かなぁ」
    「むっ」
     ベスにそう言われて、ロムはぷぅっ、と頬を膨らませた。
    「お兄ちゃんには、ちょっと無理そうね」
     くすくすと笑いながらフィアも言う。
    「フィアまで! よーし、ぜったいに明日は早起きしてやるからなっ!」
     ロムはそう宣言して、ちっちゃな握り拳を固めた。
    「……ふふ、大丈夫でしょうか」
    「うーん」
     リュカとフローラは意気込むロムの姿がかわいくて、頬を緩ませた。
    「聞かなくても、わかるだろう?」
    「えぇ」
     その答えに、フローラは苦笑しながらも頷いたのだった。


     宿に一泊して、夜が明けた。
    「おはよう……」
     やや目を赤くして、リュカが食堂に顔を出したのは、朝の十時を回った頃だった。
     みんな、朝食はすでに食べ終え、各自自由に寛いでいる。
    「とうさん、おそいよ」
    「ごめんごめん」
     ロムにめっとされ、リュカはばつが悪そうに頭を掻きながら、椅子に座った。
    「興奮して、眠れなかったんですか」
     ピエールの問いに、リュカは顔を赤くしながらも頷く。
    「あぁ、目が冴えてしまってね。仕方ないから、この本を読んでいた」
     そういってリュカが卓の上に出したのは、一冊の呪文書だった。
    「おぉ!」
     真っ先にマーリンが飛びつく。
    「これが、あのテルパドールに伝わるミネアの書かっ! かつて、ミネアが使っていた呪文の全てが記載されているという……」
    「あぁ、だけど残念ながら、僕には本に書かれた呪文の半分も体得できそうにないよ」
     リュカは苦笑しながら肩をすくめた。
    「呪文の契約に必要なアイテムも、今ではほとんどお目にかかれない代物ばかりだし、契約自体にも高い魔力を要する。残念ながら、僕自身の魔力は、フローラやあなたと違って、さほど高いものではないしね」
    「ふぅん、じゃが、だとしたらなぜアイシス女王は、お前さんにその呪文書を託したんだ? 魔力の高いフローラならまだしも……」
    「いえ……」
     リュカは顎を指でなぞりながら、低く呟く。
    「ひとつだけ、僕にも扱えそうな呪文があったんだ……」
    「ほう、その呪文の名は?」
    「えっと……」
     リュカはなぜか、戸惑うように目を泳がせていた。
    「あ、ザメハ、かな?」
    「ザメハァ? あの、眠気覚ましの?」
    「あぁ。どこかのねぼすけさんの役に立つんじゃないかな、と思ってね」
    「んっ……!!」
     食後のデザートのアイスが喉に詰まって、ロムはあわてて胸をどんどんと叩く。
    「ひ、ひどいよお、とうさん」
     うらめしそうな目で、ロムは父を睨んだ。
    「そりゃあ、今日も九時まで寝ちゃって、結局、天井が開くところ見られなかったけどさ」
    「おにいちゃんの朝寝坊は、呪文でも使わなきゃダメね」
     くすっ、と笑いながら、フィアが頷いた。
     その後、リュカはトーストとハムエッグ、コーヒーを注文した。それらをそそくさと食べ終えると、彼は席を立った。
    「いかれますか?」
     ピエールの尋ねに、リュカはマントを羽織りながら頷く。
    「あぁ、一刻も早く会いたいんだ」
    「それでは、私も行きましょう」
    「私も参りますわ。ロム、フィア。あなたたちもいらっしゃい」
    「はい、かあさん」
    「わかったわ」
     こうして、サンチョ邸へ赴く者達は、リュカの他にピエール、フローラ、ロム(&ベス)、フィアと決まった。
    「わしとメッキーは留守番しておくよ。わしらはこの国とはあまり関わりはないしな。お前さん達だけで再会を喜んでおいで」
    「ありがとう。いってくるよ」
     リュカ達は一足早く宿をチェックアウトした。
     昨夜潜った門をくぐり、屋外に出る。
     そのまま防壁を伝って北へと移動した。
     やがて、一行は森の中に入っていった。
    「この森の奥に、サンチョの住んでいる家があるのか」
    「こんな寂しいところに、一人で……」
     フローラの声も心なしかか細い。
    「相当堪えたようですな。無理もない」
    「サンチョ……」
     数分ほど歩いただろうか。
     リュカ達の目の前には、質素な小屋がぽつんと建っていた。見るからに寂れた丸太小屋だ。
     生唾を飲み込み、リュカは意を決して扉を叩いた。
     だが、何度叩いても返事はない。
     留守なのだろうか。そう思って、一旦ノックを止めようとした、その時だった。
    「だれですかな」
     しゃがれた、か細い声がドアの奥から聞こえてきた。
    「世捨て人のサンチョに、何のようですかな」
     扉がわずかに開かれる。そこから顔を出したのは、白髪頭の、小太りの老人だった。
     年寄りの男性は眼鏡を指先で直して、来客に目を向ける。
     小さな目が、しぱしぱとリュカを見つめた。
    「はて。どなたでしたかな? 最近、めっきり目が悪くなりまして。その輪郭、どこかで見たような」
    「……」
     リュカは、何も答えられなかった。
     これが、あのサンチョだろうか。
     家政夫として走り回るように働いていた当時の姿からは想像もできないほどに、目の前の老人はただ、弱々しかった。
    「……サンチョッ」
     目頭が熱くなるのを堪えきれずに、リュカは彼の身体を強く抱きしめた。
     いきなりの行動に、サンチョは面食らったのか、目を大きく見開いて、何度も瞬きをする。
    「と、突然なにを、あ、あなたは」
     サンチョはおろおろと慌てふためきながら、リュカの肩に手を触れる。
     その時、彼の脳裏に何かが電流のようにほとばしった。
    「……! ま、まさかっ」
     サンチョは驚愕しながら、彼の身体を一旦は引きはがした。そして、リュカの顔に両手を添え、まじまじとその目を見つめる。
    「お、おおぉぉっ」
     栗色のサンチョの目から、熱いものが溢れだしてくる。
    「わ、わたしは夢でも見ているのでしょうか? あなたのその澄んだ黒い瞳は、それは、あの方の、ぼっちゃんのっ!」
    「もう、坊ちゃんという歳ではないけどね」
     リュカは袖でごしごしと己の涙を拭いながら、彼に笑いかけた。
    「生きていたんだよ。なんとかね」
    「おぉっ、ぼっちゃん! リュカぼっちゃんっ!!」
     サンチョは顔中を涙と鼻水で汚しながら、彼にしがみつくように抱きついてきた。そんな彼の背中に、リュカはそっと腕を回す。
    「いきて、生きてなさったのですね! あぁ、今日はなんて日だっ! わたしの、わたしのぼっちゃんが帰ってこられるなんてっ! あぁ、会いたかった。お会いしとうございましたっ」
    「僕もだよ。ずっと心配だった。サンタローズに行っても、すでにサンチョはそこにはいなかったし、死んでいるのか生きているのか、気が気でなかった」
    「ぐすっ、わたしなんかのために、ありがとうございます」
     サンチョはリュカから顔を離し、ようやく、顔をしわくちゃにさせながら笑ったのだった。
     やがて、ようやくサンチョが落ち着いてリュカから身を離した。その間を待っていたかのように、ピエールが話しかけた。
    「サンチョ殿。私からの再会の言葉も、受け取ってはくれませぬか?」
    「あ、あなたはっ、ア、アルフレドさまっ」
     サンチョの声は、驚きのあまり多少上ずっていた。
    「はい。アルフレドです。今は、ピエールと名乗っていますが」
    「まさか、あなたさまにまで再び会えるなんて、今日はなんて一日だ。しかし……」
     サンチョは目を細めて、アルフレドの顔をじっと見つめた。
    「はて。私の記憶違いかな。あなたは、三十年前と少しも変わっていないかのように思えるのですが」
    「あ、あははは。その、いろいろありましてね。だが、サンチョ殿。驚かれるのは、これからですぞ」
     ピエールはにやっ、と笑って、さっきから少し離れた場所で控えていた女子供に目を向ける。
    「はて?」
     ロム、フィア、フローラに視線を合わせたサンチョは、片方の眉をそり上げて、考え込んだ。
    「……うーむ。残念ですが、こちらのお三方には、どうも見覚えが」
    「そりゃそうですよ。この方々とあなたは、今が初対面なのですから」
    「……? ど、どういう意味ですかな」
     未だに、サンチョはこの三人とリュカとの関連性が理解できずにいるようだった。それを察したフローラは、自ら一歩歩み出た。
    「初めまして。サンチョさん。あなたの事は、主人から色々と聞かされておりますわ」
    「はて、ご主人?」
     首を傾げるサンチョに、ピエールははぁ、とため息をつく。フローラも苦笑しながら、後ろにいる子供達を紹介した。
    「は、はじめまして。サンチョさん」
    「お会いできて、こうえいです」
     ロムとフィアが、ちょこんと挨拶する。
    「おやおや。礼儀正しいお子さん達ですな。お嬢さん。あなたの子ですかな? どれどれ」
     サンチョは前屈みになって、ロムとフィアの顔をよく見つめた。
    「おぉ、お嬢ちゃんの方は、お母さんに似て、かわいいねぇ。淡い青い髪なんかそっくりだ」
    「えへへ」
     照れくさそうに、フィアはぺろっ、と舌を出す。
    「それに比べると、おぼっちゃんの髪の色はお母さんとは違った黒髪だねぇ。けど、顔つきはお母さん譲りかな? ……おや」
     ロムの顔を眺めている内に、サンチョはあることに気づいた。
    「こ、この澄んだ黒曜石の瞳は、ま、まさか、マーサ様と同じ瞳を持つ者が、坊ちゃん以外にいるはず……っ!
    「やっと、気づかれましたな」
     ピエールはサンチョの肩をぽん、と叩いた。
    「……アルフレド様のいうとおりでしたな」
     ぐすっ、と鼻を鳴らして、サンチョはそのちょび髭に笑みを浮かべた。
    「まったく、今日はなんて一日だ!」



     感激の涙に浸っていたサンチョもようやく落ち着き、彼はリュカ達を居間へと通した。
     円の広い丸太を輪切りにしたようなテーブルについた一行に、サンチョお手製のハーブディーが振る舞われた。
     積もる話は、山ほどだった。だが、リュカはまず、このことを彼に話さなければならないと思い、パパスの死のことをサンチョに告げた。
    「……そうでしたか」
     サンチョの落ち込みようは、予想していたよりも穏やかなものだった。はぁっ、と深いため息はついたが、取り乱すようなことはなかった。
    「ある程度、予感はしていたのですよ。あのパパス様が、何日もお帰りにならない。そのうち、パパス様は反逆者の汚名を着せられ、ラインハットの兵士達が大勢サンタローズの村に攻め込んできましてな」
     サンチョはコップに両手を添え、肩を落とす。
    「……わたしは、逃げるしかなかった」
    「仕方がないさ。あの時のことは」
     リュカは身を乗り出して、彼の肩にそっと手を触れた。
    「それに、あの頃のラインハットは異常だったんだ。だけど、今は以前の通りの平和で穏やかな国に戻った。そして、父さんの名誉もね」
    「そうですか。なんだか、長年抱えていた胸のつかえが取れたような気がします」
     そういって見せたサンチョの顔は、落ち着いた、清々しいものだった。
    「それにしても」
     と、話題を変えるかのように、彼の目に光りが戻る。
    「ぼっちゃんも隅におけませんね。こんなかわいいお嫁さんとお子さんがいるなんて」
    「六、七年前かな。フローラと出会ったのは」
    「えぇ、忘れませんわ。海岸で気絶していたあなたを、当時シスターだった私が見つけたのが、始まりでしたわね」
    「ほう。それではフローラさんは、ぼっちゃんの命の恩人、というわけですな」
    「そんな、命の恩人だなんて」
     フローラは、わずかに桃色に染まった頬を片方の手で押さえた。
    「それから、サラボナで再会して、まぁ、その、いろいろあってね」
     リュカはさすがに馴れ初めを話すのは照れくさかったのか、そのことだけはごまかした。
     それに、時の砂を巡る冒険のことは、にわかには信じがたい話だ。
    「……それで、結婚して、ロムとフィアは、五年前に授かったんだ」
    「驚きましたよ。特にロムぼっちゃんは、ぼっちゃんの子供の頃にそっくりだったものですからね」
    「そんなに、似ているの?」
     ロムは自分を指さしながら、サンチョに聞いた。
    「えぇ。そりゃあもう。背格好といい、黒髪といい、黒曜石の瞳といい、何から何まで、ぼっちゃんにそっくりですよ。ロムぼっちゃんは」
    「むー、まぎらわしいわねぇ。さっきからぼっちゃん、ロムぼっちゃんって」
     ベスが難しそうな顔をして眉間に皺を寄せた。
    「はは、こりゃあ、申し訳ない。ちいさなスライムのお嬢ちゃん」
     苦笑しながら、サンチョは髪を掻く。
     それからリュカは、自分たちが辿ってきた旅の軌跡を、サンチョに話して聞かせた。
     なぜ、自分たちがグランバニアへとやってきたのかも。
    「そうですか。ぼっちゃん……いえ、リュカ様は全てをお知りになられたのですね。自らの出生のことも。お母上のことも。そして、ご自身にかせられた使命のことも」
    「あぁ。魔族から母さんを取り戻すには、天空の勇者の協力が必要不可欠だ」
     リュカははっきりとそう告げた。その時、隣に座っていたフローラの表情がわずかに曇ったことに気づいたのは、ピエールだけだった。だが、彼は何も言わなかった。
    「だけど、だからといって、天空の勇者に全てを託すわけにもいかない。勇者には及ばないまでにも、せめて魔族と対等に戦えるだけの力を身につけたいんだ。そのために、僕はこの国へ帰ってきた。魔神一刀流を完全に会得するために」
    「リュカは、まだ魔神一刀流の全てを学びきれていません。基礎的なことは私が教えましたが、やはり、神髄を極めるならば、この国に赴かねばならないのです」
    「そうですか……わかりました。そうとあればこのサンチョ、ぼっちゃんのために、人肌脱ぎましょう!」
     そういって、サンチョはむんず、と腕まくりをした。

     さっそく、サンチョはリュカ達を連れて家を出た。
    「坊ちゃんには、オジロン王に会って頂きます」
    「そうか。オジロン様は今のグランバニアの王でしたね」
     ピエールが言う。人づてに聞いた話は、どうやら真実だったようだ。
    「えぇ。オジロン様なら、きっと坊ちゃんに力をお貸ししてくださることでしょう」
    「オジロン王……僕の叔父上か」
     自分の父に肉親がいることを、リュカは不思議に感じていた。やはり、父に似ているのだろうか。そう思うと、自然と会うのが楽しみに感じてくる。
     グランバニアの居住エリアに戻ると、サンチョは大通りをまっすぐ進んだ。そして、屋内の中に作られた堀の前で止まる。
     目の前にそびえたつ、天井まで突き出た巨大な城……それこそが、グランバニア城に他ならなかった。
    「おぉ、これはこれはサンチョ殿」
     見張りの、中年風の兵士が、槍を片手にサンチョの元へとやってきた。
    「お懐かしゅうございますな。最近お姿を見なくなって、心配していましたぞ」
    「そのせつは申し訳ありません。それよりも、お通ししてはくださいませぬかな? 王に、急ぎの用があるのです」
    「はぁ、他ならぬサンチョ殿の頼みとあらば、喜んで聞き入れますが、王に謁見とは、それまたどういう……」
    「わけは後で話します。とにかく今は」
    「わ、わかりました。どうぞ」
     門番は曖昧ながら頷いた後、係の者に頼んで懸け橋を降ろすように指示した。
     ゴゴゴゴゴと低い音を立てて、上がっていた橋が敷かれる。
    「申し訳ない! 感謝いたしますぞ」
     サンチョはぺこぺこと門番に頭を下げて、急ぎ足で城の中へと入っていった。リュカ達も、彼に遅れないように、足早に後を追う。
     城の中は、思ったよりも質素だった。ラインハットのような、高価な美術品はあまり見受けられない。
     目立つものといえば、床に敷かれた赤絨毯くらいで、全体的に石造りの灰色が目立つ、地味な印象をリュカ達に与えた。だが、彼らはそれが不快とは感じていなかった。
     確かに派手とは言い難いが、掃除や整備が隅々まで行き届いており、床は綺麗に磨かれ、窓には染み一つない。
    (思ったよりも、親しみやすい城なんだな)
     リュカの唇に、自然と笑みがこぼれた。
     サンチョは大広間の吹き抜けの階段を登って、二階へと上がった。
     そして、左右に柱が立ち並んだ、長く細い通路にでる。
     その先には重厚かつ立派な扉があり、そこを二人の兵士達が守っていた。
     先ほどから城のあちこちで目にする一兵卒の制服とは違い、この二人の軍服は青に黄金のラインが入った特別なものを身につけている。
     王族の身辺を警護する選ばれた者達……ロイヤルガードに違いなかった。
     一人は四十歳前後の、わずかに生えたあごひげがワイルドな風格の男性。もう一人はほっそりとした長身の細目で、金髪の長い髪をした、優男風の青年だった。それぞれ、名をジェイスとサイラスといった。
    「おや、これはお懐かしい顔だ」
     サンチョがやってくるのを見て、ロイヤルガードの二人は手にしていた槍を降ろした。
    「ジェイス殿、サイラス殿。ご無沙汰していました。今まで心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」
    「いえいえ、またこうして城にお見えくださって、嬉しいですよ。しかし、今日はどういうご用件で? あなたが来るとは、聞き及んでおりませんが」
    「見つかったのですよ!」
    「はぁ……何がですかな」
     サンチョが力んで言うのに対して、今ひとつ理解できていないジェイスは首をかしげる。
    「ジェイス。ここはとにかく通してくれないか」
     ピエールが口を挟んだ。突然見知らぬ男に呼び捨てにされ、いささかムッとしながらその男に目を向ける。
     いぶかしげなその目つきが、たちまち驚きと喜びのものにかわった。
    「た、隊長! あ、あなたは、アルフレド百騎長ッ!」
    「二十五、六年ぶりかな。ジェイス曹長」
    「いまは、ジェイス十騎長であります」
    「ほう、お前も出世したな。十騎長ということは、念願かなって騎士になれたか」
    「あー、もうっ、生きているんなら、どうしてもっと早く帰ってきてくれなかったんです!」
     かつての上司が戻ってきたことを知るなり、ジェイスの口調は急にくだけたものに変わった。
    「そのわけはおいおい話すことにしてだ。とにかく、オジロン様に謁見したい。大丈夫か」
    「えぇ」
    「ね、ねぇ、先輩」
     傍目で見ていたサイラスが、遠慮がちにジェイスの脇腹を指でつついた。
    「あ、あの人って、ひょっとして、あの有名な、白騎士アルフレド様なのですか!?」
    「あぁ、そうだよ。お前にも話してやっただろう」
    「ほ、ほんものっ!?」
     サイラスは驚いて、細目がちな目を大きく見開いた。
    「あ、あの、蛮族との戦いで、劣勢だった我が軍を巧みな戦術を用いて救ったという、グランバニアの白き英雄……!」
    「君は見かけないな。私が去った後に新しく軍に入ったようだね」
     ピエールはサイラスの前に立つと、手をさしのべた。
    「あ、サ、サイラス一騎長であります! お、お会いできて光栄ですっ!」
     サイラスは白い頬を真っ赤に染めて、両手で彼の手を握った。
    「じ、自分にとって、あなた様はあこがれの人でした! は、話でしか聞いたことはありませんでしたが、わ、わたしはあなたのような立派な騎士になるのが夢なんですっ」
    「ははは。結果的にだが、長い間城を留守にしてしまった私が、立派な騎士はどうかは疑問だが、君ならなれるさ。グランバニアの将来を背負って立つ騎士にね」
    「こ、光栄ですぅっ!」
     あまりの感激に、サイラスは目から滝のような涙を流した。
    「ったく、こいつは……おっと、隊長。では、お通りください」
     ジェイスは扉を開けた。
    (いよいよだな)
     リュカは固唾を呑んで、王の間へと足を踏み入れた。


    続く

      

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