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2016.08.12 Friday

反竜伝記Afterstory ACT8 原点復帰

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     ロムは思い返していた。

     あの父リュカとの魔人一刀流の修行……その日々のことを。


     城から離れた森の奥にある、王家の修練場。

     小高い森に囲まれた中に、一カ所だけ開かれた場所がある。それが王家の修練場だった。石造りのリング以外には何もない、質素な場だが、魔人一刀流の修行に大がかりな訓練道具は必要ない。ただ、己の闘気を高めて放つのみ。それがグランバニア王家に伝わる一子相伝の剣術の極意だった。

    「ロムよ、よく見ておくのだぞ」

     リュカはリングの中央に置かれた大きな岩に剣を向けると、精神を集中し始めた。

     彼の身体から熱気とともに闘気があふれ出て、それが剣にまで伝わる。

     すごい。なんて闘気だ。

     現役を引退したというのに、父リュカの闘志は少しも衰えていない。

     息子が黙って見守る中、彼の父はその充実した闘気を勢いよく岩に叩きつけた。

     轟音とともに岩は真っ二つに砕ける。その威力は弾かれた破片が木の表面に突き刺さるほどのものだった。

    「す、すごい」

    「さぁ、やってみなさい」

     リュカは彼に剣を放って渡す。

    「これまでの厳しい修行に耐えてこれた、今のお前ならできるはずだ」

    「は、はい」

     ロムはうなずくと、自身も父がやったように精神を集中し始めた。

     身体の奥底から何かが燃え始め、やがてそれが身体にあふれ始める。

     人間なら誰でも持つ戦う力、闘気。魔人一刀流はそれを最大限にまで高めることにより、己が剣の威力を何倍にも高めることを極意をする。

     ロムのその闘気は先ほどのリュカのよりもいささか弱い。

     だが、彼は構わずそれを目の前の岩に放った。

     岩に亀裂が走る。彼の放った奥義無双刃は大岩を見事に切り裂いた。

    「ほう」

     リュカが感心とともに片眉をつり上げる。

    「ここまで魔人一刀流を体得するとはな」

    「ありがとうございます。でも、まだまだ、父さんのようには」

     ロムは注意深く岩を観察する。

     リュカが放った魔人一刀流の後は、威力が岩の底、つまり土にまで達していた。切れ目からのぞき込んでみると、地面が一文字に切り裂かれているのがよくわかる。片やロムの一撃は、そこまで深く達してはいない。

    「僕には、やはり魔人一刀流は使いこなせないのでしょうか」

    「やれやれ、私はたいしたものだとは思うが、いささか向上心が強すぎるな、お前は」

     リュカは苦笑しながら、息子の肩に手を置いた。

     確かに、たいしたものだとは思う。その細い身体で、これだけの重い一撃を放てるのだ。タッパのなさを、技量で補っているのだとしたら、掛け値なしの天才だ。

     やはり、ロムは天空の勇者の力を失っても、剣士として一流の素質を持っている。あと数年修行を積めば、最終奥義の会得も可能だろう。

     ……だが、それでも魔人一刀流は体格の差が威力に如実に現れる剣術だ。それは、今の一撃が如実に表わしている。

     望むべくはこれから数年経って、ロムの体格が少しでも成長してくれればいいのだが。

    「何はともあれ、試験は合格だ。よくがんばったな、さぁ、城へ帰ろう」

     まだ納得できていないロムの背中をどんと叩き、リュカはグランバニア城を指さしたのだった。

     そう、あの頃から内心わかっていたのだ。

     自分には、魔人一刀流を満足に使いこなせるだけの体格がないということを。

     内心わかっていた。だが、それでも構わないと思っていた。元々、魔人一刀流はグランバニア王家の男子なら必ず習得しなければならない一子相伝の剣術だから。

     だが、そんな時に新たなる敵が現れてしまった。

     勇者の力が使えない今、ロムにとって唯一の生命線は魔人一刀流だったのだ。

    「今の僕の力では、漆黒の騎士には手も足も出ない。そして、ゾーマにさえ!」

     ロムは己の無力さを嘆くように、地面に拳を叩きつけた。


    「……そういうことだったのか」

     そんな彼の姿を、遠目から見守っている二人の姿があった。

     言うまでもなく、エリオスとリーシャだった。

     ロムの様子がおかしいことに気づいた二人は、密かに後をつけたのだった。

    「あいつの悪い病気が出たな」

    「どういうこと?」

     リーシャが訊ねる。

    「あいつは責任感が強すぎるんだ。そのせいで、全部自分自身でなんとかしなきゃと思い込んでしまうんだ……もっとも、私たちも悪いんだ。前の戦いの時、我々は勇者ロムの天空の力に頼り切ってしまっていた」

    「けど、彼はもう、普通の人間。そういうことか」

     リーシャは少し考え込むと、
    「ねぇ」
     とエリオスに聞いた。

    「彼はここ数年で戦いのスタイルを変えたのよね?」

    「あ、あぁ。今でこそ、魔人一刀流の剛の構えだが、以前のロムは、片手剣に盾を用いた、オーソドックスなスタイルだった」

     それが、天空の勇者にとって最良の戦闘スタイルだったからだ。攻撃のみに特化するのもいいが、最強の防御力を持つ、天空の盾を使わない手はない。

    「なるほど。ようするにロムは、天空の力が使えなくなって、攻撃力の低下に悩んだ末に、魔人一刀流とやらに手をだしたというわけか。気持ちはわかるけどね。でもまぁ、それでだめだったときは、基本に立ち返るのも一つの手よ」

     そういって、リーシャはにっこりと微笑んだ。


    「いったい僕は、どうすればいいんだ」

     ロムがそうつぶやいた時だった。

    「……!」

     突然の殺気に、ロムはとっさに後ろに飛んだ。

     そうしなければ、彼に向かって飛んできた気弾にその身を貫かれていたところだ。

    「なんだ!?」

    「よくかわしたわね、褒めてあげるわ」

     そういって、ロムの前に現れたのは、あろう事か、あのリーシャだった。

    「リ、リーシャ! どういうことだ。冗談にしてはたちが悪いぞ」

    「冗談なんかではないわ。いい機会だからはっきりしておこうと思ってね」

    「はっきり、とは」

    「むろん、あなたの実力のことよ。はっきりいうわ。今のあなたは弱い! 勇者の力を失ったあなたは、単なる役ただず。足手まといにしかならないということよ!」

    「……っ!」

     ロムに衝撃が走る。面と向かって用なしと言われたも同然だった。

    「お、おい、リーシャ。言い過ぎだぞ」

     と、エリオス。

    「いいえ、はっきりいっておくわ。今のあなたでは、エリオスにすら勝てない!」

    「くっ」

     ロムは拳をわなわなと震わせた。悔しいのだ。エリオスと比べられてではない。自分自身のふがいなさに、怒りがこみ上げてくる。普段は争いごとを好まない性格のロムだが、やはり彼も戦士だということだった。

    「いい子だから、あなたはこのままグランバニアにお帰り。元勇者さん」

    「そこまで言われて、引き下がるわけにはいかないっ!」

     ロムはまっすぐリーシャの目を見据えて言い放った。

    「なら、今の僕の実力のすべてを、君の拳で確かめてみるがいい!」

    「ロ、ロム……」

     エリオスは驚いた。ロムのこういう一面を、初めて目のあたりにしたのだ。挑発に乗るような男ではないと思っていたが、やはり彼にも戦士としての、男としてのプライドはあるのだ。

    「ふっ、いいでしょう」

     不敵な笑みを浮かべると、リーシャはふわりと舞い上がるように飛び上がり、ロムの目の前まで躍り出た。

    「ちょ、ちょっとまった!」

     慌ててエリオスが二人の間に割り込む。

    「さすがに本気でやりあうのはまずいぞ。万が一ということもある」

    「エリオス。止めないでくれ。僕としても、このまま引き下がるわけにはいかないんだ」

    「だ、だめだ。完全に頭に血が登っている……」
    「別に全力で来ても構わないけど、まぁエリオスがそこまで言うのならルールを付け加えましょう。あなたの一撃、なんでもいいわ、峰打ちでも蹴りでも、とにかく何か一つヒットすればあなたの勝ちとしましょう」

    「では、君の勝利条件は?」

    「私は手加減なんて生ぬるいことはしない。あなたを叩き潰して、起き上がらせられなくなるのみ!」

     言うが早いか、リーシャはゴムが弾けるように急発進して飛び出した。

     なんという早業。気づいた時には、ロムは彼女の蹴りを脇腹に食らって宙に吹っ飛んでいた。

    (こ、これが、リーシャの動き。ま、まるで神速……)

     驚愕しながら、どうと倒れる。

    「立ちなさい。今のはだいぶ手加減したわよ」

    「ぐっ」

     ロムは脇腹を押さえながら、よろよろと立ち上がる。

    「うおおおおっ!」

     ロムは剣を両手で持ち、大声を張り上げながら突撃した。

     魔人一刀流の一撃、だが、それが振り下ろされる前に、再びすばやく懐に飛び込んだリーシャの肘打ちがロムを撃つ。

     たまらず、彼は膝を折った。

    「そんなスローな攻撃で私をとらえられると思って?」
    (な、なんて早い動きだ。この動きに魔人一刀流を叩き込むのは、至難の業だ。ならば)

     ロムは剣を両手から、片手に持ち替えた。

    「いくぞ!」

     今度は彼の方から駆け出す。

     魔人一刀流の剛の剣をあえて封じ、威力は少ないが隙の少ない斬りや突きを連続で繰り出す。

     だが、リーシャはそれらをことごとく避ける。

    「ふっ、その程度かしら!?」

     避け続けるリーシャの表情には、未だ余裕があるように見える。

     だが、遠目で見ているエリオスだけはわかった。

     ロムの狙いが。

    「でやぁっ!」

     一際大きな動作の突きを繰り出す。

     それを後方に跳躍してかわしたリーシャだったが、

    「えっ?」

     そのときになって初めて気づいた。自分が今立っている場所が戦術的に圧倒的に不利なところだということに。
     そこは、ちょうど崖の地形がUの字に引っ込んだ狭い空間だった。当然、左右に余分なスペースはない。リーシャはロムにまんまとこの袋小路に誘導されたのだ。

    「うまい! これでリーシャに逃げ道はなくなった!」

    「これで、最後だっ!」

     ロムは渾身の突きを放つ。

     逃げ場を失ったリーシャの眼前へ向けて。

    (さすがに寸止めにしておくが、この勝負もらったぞ!)

     完全に捉えたかと思えたその一撃、だがリーシャは予想外の行動に出た。

     あえて、彼女はロムめがけて突進したのだ。

     下手すれば突き出したロムの剣が体に刺さる危険をはらんでいるのに、彼女は躊躇うことなく前へ出た。

     その華奢な体からは想像もできないほどの強烈な体当たりに、ロムは大きく後方に吹っ飛ばされる。

    「ふぅ、今のは危なかったわ」

     額を汗を拭って、リーシャは言う。

    「な、なんて女の子だ」

     立ち上がりながらも、ロムは驚愕を隠せないでいる。

     戦いの駆け引き、勘、そして度胸。どれをとっても超一流だ。しかも、本気で叩き潰すといっておきながら、彼女はまだ実力の半分も出していないように見える。

     その一方で、リーシャの方も内心高揚を隠せないでいた。

     ロムの攻撃は、どれも無駄がない。一つの斬撃一つとっても、緩急を使い分けており、巧みにフェイントまで混ぜている。

     リーシャはちらっとエリオスを横目で見る。第三者の彼は軽々と攻撃を避けていたと思っているようだが、とんでもない誤解だ。けっこう苦労して避けていたのだ。

    「ふふ、今のはいい攻撃だったわ」

     リーシャの顔にはじめて笑みがこぼれる。

     それでロムは今更ながら気づいた。リーシャは自分に稽古をつけてくれているのだ、と。

     うじうじと悩んでいた僕に活をいれるために……

    (そうだったのか)

     ならば、とロムは思う。

     思う存分その気持ちに甘えようと。

     相手は女の子だが、戦闘においては明らかに格上だ。

     胸を借りるつもりでいくのだ。

    「よし、またいくぞ、リーシャ!」

     ロムはそういうと、リーシャに向けて斬りかかる。

     魔人一刀流の一撃は重いが、隙が大きい。何より、自分の体格ではそれを放つのには不向きだとわかった。

     ならば、自分本来のスタイルに立ち戻るだけだ。

     自分本来の動き、それは……

    「ロム! これを使え!」

     まるで自分の考えを予想していたかのようなタイミングで、エリオスはロムにそれを投げて渡す。

     それは、鉄の盾だった。

    「以前魔物と戦った時に得た戦利品だ。私は盾は使わないから防具屋に売ろうととっておいたが、それをお前にくれてやる。必要なんだろう?」

    「さすがエリオス、ありがとう!」

     ロムはそれを右腕に填めた。

    「剣と盾の、オーソドックスな構え。なるほど。だが、私に通用するかな?」

     ……懐かしい。

     盾を装備したのは、あの戦い以来だ。

     だいぶブランクがあるというのに、それを感じさせないほどにしっくりと馴染む。

     ……いける!

    「いくぞ!」

     ロムは再び攻撃を開始した。

     ショートの攻撃を幾度となく繰り返す。

     リーシャはそれらをことごとく交わして、かわりにパンチやキックを繰り出す。

     だが、それらもロムはすべてかわした。

     見事なまでの体さばきと、それでも防ぎきれない攻撃は盾で防ぐ。

    「くっ……!」

     リーシャは苛立ちを感じた。

     ロムが盾を装備して以来、こちらの攻撃がまったく当たらない。

     攻撃をしつつ、同時に守りも固めているので、隙がほとんどないのだ。斬撃をかいくぐり、その刹那を突こうとしても、すでに防御体制を取った盾に防がれる。

    (手強い。というか、しぶといわ。これが、ロムの本来の戦闘スタイル……!)

     苛立っていささか大振りな蹴りを放った隙を、彼は見逃さなかった。ロムは再び突進した。盾を正面に構えたまま。

    (盾ごと体当たり?!)

     避けようにも、すでにロムは目の鼻の先まで接近している。

    「ならっ、盾ごと弾き返してくれる!」

     リーシャは腰を低く落として、盾めがけて強烈な正拳突きを放つ。

     並大抵の戦士なら、今ので盾はおろか、その腕の骨ごと粉々に粉砕されてしまうだろう。
     だが、ロムは違った。
     リーシャの拳が当たる瞬間、盾の角度をずらしたのだ。

     リーシャの鉄拳はロムを捉えることなく捌かれる。

     その好機をロムは見逃さなかった。鋼の剣の柄の部分でリーシャの鳩尾を鋭く突く。

     これにはたまらず、彼女は体をくの字に曲げる。

    「げほっ、げほっ、ちょ、ちょっとたんま。わかったわ。私の負けよ」

     突かれた箇所を抑えながら、リーシャは潔く負けを認めた。

     ロムはふぅとため息をつき、鋼の剣を鞘に収めると、うずくまる彼女に向けて手を差し伸べた。

    「ありがとう、リーシャ。僕の目を覚まさせるために、一芝居打ってくれたんだろう?」

    「なんのことかしら?」

     とぼけながらも、彼女は差し出されたロムの手を両手で掴んで起き上がる。

    「あなたは一撃必殺のパワーファイター系ではない気がしただけよ。はまらない型に無理やりはめ込もうとしている。それじゃ、さらなる高みを望むことはできないわ」

    「まったく、それにしても、ヒヤヒヤしたぞ。二人の戦いは」

     と、遅れて駆けつけたエリオスが言う。

    「しかし、この戦い方も、あの漆黒の騎士には通用するのかな? せっかくのところを、水を指すようで悪いんだが……」

    「わからない。けど、今の戦いで、何かを掴めそうな気がしたんだ。確かな手応えがね」

     そう言うロムの顔には、先程までにはなかった自信が見え隠れしていた。

     どうやら吹っ切れたようね。リーシャは心の奥底で自分の下手な芝居は無駄ではなかったことを悟った。

     

     

     

     

     

     続く
     

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