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2016.03.09 Wednesday

反竜伝記 Anotherstory ACT4 猛攻、海の悪魔

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    ひじょうに遅くなってしまったことをお詫びします。
     
     反竜伝記 Anotherstory ACT4  猛攻、海の悪魔


     父リュカとの旅立ちをかけた戦いから数日が過ぎた。


     一行はグランバニアを離れ、チゾットの山脈のはるか南に位置する、ネッドの港町にきていた。
     ここ、ネッドの港町は、去年開設されたばかりの若い町だ。今までグランバニアは諸外国とのつながりが乏しかったがために、主立った海路の出入り口がなかった。そのため、貿易にはいろいろと不自由をかいていた。
     リュカ王の代になって、さまざまな国と物資をやりとりするようになり、改めて、大規模の港町を用意することを迫られた結果、こうして作られたのがこのネッドの港町だった。
     町にはさまざまな人種の人たちであふれかえり、出店には見たことのない珍しい品々が並ぶ。海には国籍、大きさともにさまざまな船が行き来し、船員たちはその船から落とされたコンテナを運ぶので大忙しだ。
     今、グランバニアで最も活気にあふれた町といっても過言ではなかった。
    「この国に来るときも立ち寄ったが、相変わらずすごいな。この港は」
     異邦人であるセインには、見るものすべてが目新しいものばかりだった。
    「私の世界では、魔物が幅をきかせていたため、このような大規模な港町はなかった」
    「どうだ。少し見学していくか」
     エリオスがそう聞くが、セインは首を左右に振る。
    「いや、やめておこう。遊びに来たわけではないのだからな」
     真顔でそう言った矢先に、
    「むっ、あれはなんだ!」
     と、出店に並ぶ珍しい品が気になって飛び出す始末だ。
    「やれやれ。言った次からこれだよ」
    「ふっ、どうやら、賢者様も自分の知的好奇心には勝てないようだな」
     どうやら、船に乗るのはもう少し後になりそうだ、と二人は思った。



     セインの知的好奇心を一通り満たした一行は、遅めの昼食を取るべく、大通りにある酒場に向かった。酒場といっても、昼間は軽食がメインの健全なところだ。
     三人はカウンターから少し離れたテーブル席に座ると、それぞれ注文を取った。
    「ロム、セインとも話したのだが、やはりポートセルミの港に向かおうと思う。何しろ、いまのところ、何の手がかりもないからな。まずは情報を仕入れねば」
     ポートセルミは世界中の船が行き来する世界の中継所ともいうべき港だ。さまざまな情報が行き交う場所でもある。
    「ポートセルミか。ルーラの呪文が使えれば、すぐにいけるんだけど」
     移動呪文ルーラで世界中を自由に往復できたのは、すでに昔の話だ。国家間での取り決めにより、今この呪文は完全許可制になっており、覚えるには厳しい審査に合格しなければならない。もともと失われた呪文だったルーラだが、十数年前にとある魔術師が復活させて以来、瞬く間に世界中に広がってしまった。そうなったら案の定、ルーラによる悪用が多発した。不法入国や家屋への不法侵入が多発したため、あっという間に規制されてしまったというわけだった。今では一部の国の許可を得た商人や外交官、そして王族くらいしか取得できないようになっている。
     ルーラが廃れたのも、過去に同じようなことがあったからかもしれない。
    「まぁいいじゃないか。船旅だって捨てたものじゃないよ」
    「……はぁ、この気持ちはお前さんにはわからんか」
     なぜかセインは深くため息をついた。
     と、その時だった。
     突然、バァンと蹴り破る勢いで入り口の扉が開かれた。
    「失礼、ここに、腕に覚えのある者はいないかね!」
     血相変えて飛び込んできたのは、中年の船乗りの男だった。
    「どうしたんだい? そんなに血相変えて」
     この店のマスターが訊ねる。
    「魔物だよ! 海の魔物が沖に現れたんだよ!」
    「魔物だって? んなバカな」
     マスターは目を丸くした。魔物の凶暴化の原因だった光の教団が滅び、世界が平和になってからというもの、魔物は以前のように積極的に人を襲うことはなくなった。今では、こちらから魔物にちょっかいを出さない限りは、何もしてこない、そんな大人しい存在になっていた、はずだった。
    「で、いったいどんな魔物だよ? どうせマリンスライムやおばけヒトデ程度だろう?」
    「そんなザコじゃない、テンタクルスに深海竜、それに、キングマーマンまでいやがる!」
     どれも、並の戦士では手に負えないほどの強敵だ。
    「こいつらがとにかく大暴れでさぁ、このままじゃ、港に停泊している船が全部やられちまうよ!」
    「ロム」
     エリオスの呼び声に、ロムは静かに頷いた。腰に帯びた鋼の剣を握りしめて。
    「その魔物退治、我々に任せてもらえないだろうか」
    「えっ? あんた達が」
     船乗りの男は、ロム達に顔を向けると、とたんに驚きの声を上げた。
    「あ、あぁ! あなたは、ロム王子じゃありやせんか!」
     その船員の一声に、ロムは一斉に周囲の客の注目を浴びた。

     ロム王子?
     あの、天空の勇者!
     そうだ、ロム王子だ!
     王子なら、なんとかしてくれるに違いないぜ!
     ロム様! ロム様!! ロム様!!!

     ……と、途端に客達の間でロムコールがわき出す。
    「大人気だな、さすがは、この世界の勇者だ」
     セインはうんうんと頷く。
     ……だが、

     えっ? でも待てよ。
     確か、ロム王子ってもう勇者の力はないんじゃなかったっけ?
     って、ことは、ただの王子様ってことだよな?
     だ、大丈夫なのか……

     ……と、先ほどまでの声援が打って変わって、不安なムードに変わってしまう。
    「だ、大丈夫でさあ!」
     パンッと、船員が手をたたいてみんなの不安をぬぐい去る。
    「たとえ勇者の力がなくなったって、ロム様はこの世界を救ったお方だぞ! あの程度の魔物、ちょちょいのちょいでやっつけてくれるさ! ね、ロム様?」
    「えぇっと……努力はしてみるよ」
     ロムは苦笑いをしながら、頷いた。






     ところかわって、ここは港。
     そこでは、確かに三体のモンスターが大暴れしていた。
     巨大なイカの化け物、テンタクルス。水中のドラゴン、深海竜。そして、反魚人マーマンの最上位種の、マーマンキング。
     どれもが血走った目をして、手当たり次第にあたりの物を破壊しまくっている。
    「ロム、こいつは……」
    「あぁ、ここまで凶暴化しているとは、どういうことなんだ」
     魔物は本来、大人しい生き物だ。だが、そんな彼らを豹変させてしまう要因の一つが、瘴気だ。瘴気とは、魔界の邪悪な大気であり、本来は魔界にしか存在しないはずだが、瘴気をその身から発することのできる者はごくわずかだが存在する。すなわち、魔王かそれに匹敵する力を持った高位の魔族……!
    (まさか、エスタークが……)
     ロムはかつて見た、あの異界の帝王を思い浮かべた。だが、そんなはずがない。エスタークは、少なくとも百年間はこの世界に出てはこれないはずだ。
     だとしたら、別のなにかが……
    「ロム、考え込むのは後にしたほうがいいぞ」
     そういって、エリオスは隼の剣を引き抜いた。
    「そうだね」
     ロムも、鋼の剣を引き抜いた。天空の剣と比べるといささか心許ないが、知り合いの女鍛冶士が丹誠込めて鍛えた名剣だ。切れ味だけなら、決してひけは取らない。
     ……とはいえ、三年ぶりの実戦だ。
     はたして、身体が思うとおりに動いてくれるだろうか。
     そうこうしているうちに、三体のうちの一体の、深海竜の目がロム達に向けられる。
    「来るぞ!」
     エリオスの叫び声とほぼ同時に、三体が一斉にロム達めがけて突っ込んできた。
     テンタクルスの太い触手が三人が立っていた場所に落ちる。地面がめり込むほどの衝撃。だが、かろうじて三人はその攻撃を散開して避けた。
    「たあっ!」
     ロムは跳躍して、テンタクルスを頭上から攻める。だが、別の触手がロムの身体を弾き飛ばした。
    「ロム!」
    「だ、大丈夫っ」
     ロムはなんとか受け身をとって着地する。
    「けど、厄介だよ、これは」
     水棲生物との戦いは、長期戦になりやすい。相手が水の中に潜ってしまったり、岸から少し離れたところにいってしまったら、こちらとしては手が出せないからだ。
    「ロム、お前さん、勇者の力はなくなったというが、それはどの程度のものだ」
    「はっきりいって、あまり期待しないほうがいいよ。僕の身体は、もうふつうの人間と変わらないんだ。かろうじて、ライデインが一回くらいできる程度さ。それだって、一度放てば全身に力が入らなくなってしまうくらいだ」
    「そいつは困ったな。私も呪文は使えないし……」
    「おいおい、お二人さん。私の存在を忘れてないかな?」
     そう言ったのは、セインだった。
    「伊達に賢者を名乗ってはいないというところを、お見せしよう」
    「おぉっ、ついに」
     エリオスが期待の目をセインに向ける。
     彼も、セインの呪文の腕前を見るのは、はじめてだった。
    「相手は三体、それも水中、ならば……」
     セインは短く呪文を唱えると、片腕を振り上げて叫んだ。
    「バギクロスッ!」
     すると、セインの呪文に呼応するかのように、水中から巨大な竜巻が二つ発生した。
     竜巻は、左右から封じ込めるかのように三体の魔物を挟み込む。
     渦巻く真空の刃が、ミキサーさながらにキングマーマン、テンタクルス、深海竜の身体を切り刻んでいく。
    「す、すごい、これが異世界の賢者の実力か!」
    「感心している場合ではないぞ、二人とも、いまのうちにとどめを!」
    「よしっ!」
     ロムとエリオスが同時に仕掛けた。
     まず、エリオスが深海竜の首めがけて隼の剣をふるう。
    「奥義、ツバメ返し!」
     振り下ろすと振り上げるの二つの動作を同時に行う、エリオスの必殺技、ツバメ返しが、深海竜の太い首を切断する。
     続けて、ロムが再び跳躍し、今度は唐竹割りのごとく、テンタクルスの脳天に剣を振り下ろした。
    「父さん直伝の、魔人一刀流奥義、無双刃だっ!」
     父から教わったばかりの奥義は、テンタクルスを左右まっぷたつに切り裂いた。
    (やるな、二人とも)
     セインは不敵に笑う。二人とも、剣の腕ではかつての仲間だった戦士ルドガーや勇者ユーリアに負けていない。
    「さぁ、残りは一体だ。畳みかけるぞ!」
     セインがとどめとばかりに拳に魔力を込める。彼がもっとも得意とする火炎呪文メラゾーマだ。
     彼が満を持して呪文をキングマーマンに向けて解き放とうとした、その時だ。
     突然、海中から何者かが飛び出した。急なことに対処が遅れたセインは、その者の繰り出した痛恨の一撃をまともに食らってしまう。
    「がはっ!」
     腹部を蹴り飛ばされ、彼は後ろに吹っ飛ばされた。
    「な、なんだ、あれはっ!」
     思わぬ伏兵の姿に、ロムは目をみはった。
     見たことのない魔物だった。シルバーボディに、不気味に光るモノアイ。片腕に鋭いサーベルを、もう片腕には巨大なボウガンを装着している。
    「キラーマシン!? だが、なぜ海中に!?」
     そう、それは彼が知る機械仕掛けの魔物キラーマシンに酷似していた。違うのは、尾鰭らしきしっぽが生えていることと、キラーマシンよりシルエットがスマートになっていることだ。
    「水中用(マリンタイプ)キラーマシンとでもいうのかっ、こんなやつは見たことがないぞ」
     ロムとエリオスは慎重に身構えた。なにぶん、初めて対面する魔物だ。下手に動けない。
     そうこうしている間に、キングマーマンが岸に上がり、マリンタイプ・キラーマシンの横に並んだ。
    「ヒャダルコォッ!」
     キングマーマンから、口から凍てつく冷気を吐き出す。
     冷気は地面を凍らせながら、ロム達に迫る。その攻撃を三人は上空に飛んでかわした。
     だが、その隙を、マリンタイプ・キラーマシンは見逃さなかった。巨大なボウガンの矢を、エリオスめがけて放つ。
     ボウガンの矢は、エリオスのふとももを貫通した。
    「ぐっ!?」
     バランスを崩し、地面に落下する。
    「エリオスッ! くそっ、やったなっ!」
     ロムは頭上からマリンタイプ・キラーマシンを切りつけた。先ほども見せた、魔人一刀流の奥義を炸裂させる。だが、驚くことに、ダメージはまるでなかった。
     ロムの剣はキラーマシンの強化装甲にヒビ一つ入れることができない。むしろ、鋼の剣の刃がボロッと欠けた。
    (まずい……っ)
     一度距離を取るロム。彼の額に冷や汗が流れる。
    (この程度の敵に、こうも手こずるとは……)
     内心ショックだった。かつてのロムなら、天空の勇者だったロムなら、ここまで苦戦することもなかっただろう。
     ギリギリギリと、マリンタイプ・キラーマシンがボウガンの矢をロムに向ける。
    (一か八か、やってみるか。たぶん、できないと思うけど)
     ロムは左腕に意識を集中させた。あの頃のように、全身の気を高める。
     彼の左手が、バチバチと火花を散らし始める。
    (いけるかっ……!)
     マリンタイプ・キラーマシンが矢を放つ。
     ロムはそれを知っていながら、あえて前に出た。
     寸前のところで矢をかわし、猛然とキラーマシンの懐に飛び込む。そして、魔力を込めた左手を、キラーマシンにたたき込んだ。
    「ライデインッ!」
     零距離での、ライデインがキラーマシンのメタルボディに炸裂した。
    「おぉ、あれは確かに、勇者にしか使えない呪文、ライデイン!」
     セインが叫ぶ。
     内部の電気系統まで破壊された機械の魔物は、大爆発を起こして四散した。
     だが……
     次の瞬間、ロムはがくっと膝を落とした。
     全身の力が抜けていく。
     ライデインの呪文は、もともと勇者のみが使える呪文だ。勇者でなくなった今でも、その術式は覚えているために放つことはできるが、それはロムの寿命を著しく縮まる行為だった。
    「ロム、逃げろ!」
     エリオスが叫ぶ。ロムがかろうじて顔を上げると、そこには、鋭い爪を振りかざして襲いかかるキングマーマンの姿があった。




     続く

     
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