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2015.12.02 Wednesday

反竜伝記 afterstory ACT3 激突、父と子

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     入院間際に書いたストックを放出。ほんとうはもっと長く書くはずでしたが、今回もちょっと短くてすまぬです……



    翌朝、ロムは顔を洗っていたところを、アイメルに呼び止められた。
    「ロム、今すぐ、修練場に来て」
    「修練場に?」
    修練場とは、グランバニアの王族専用の稽古場だ。城の見学が比較的自由に許されているグランバニアだが、修練場だけは何人たりとも立ち入ることが許されない神聖なる場だった。
    「呼んでいるのは、父さんだね」
    「え、えぇ」
    アイメルが頷くのを見ると、ロムの顔つきが真剣なものに変わった。



    修練場は、グランバニア城の地下にある、ドーム状の空間だった。
    大きな円形のリングの周りには水が張られている。底は見通せないくらいに深い。
    ひんやりとした空気の中、ロムはみた。リングの中央に立つ、父の姿を。
    父は着慣れた旅装束を身につけていた。紫色のマントに、白のシャツ。腰にはグランバニア王家に伝わる長剣を差している。
    その姿を見て、ロムは父の考えを一瞬で悟った。
    そんな彼に変わって、遅れて来たフィアが叫ぶ。
    「お父様、これは、いったいどういうことなんですか? そんな、真剣なんか持って……」
    ただの訓練ならば、刃の潰した訓練用の剣を用いるはずだ。
    「簡単なことさ。私たちはこれから、刃と刃をぶつけ合う。真剣勝負だ」
    「そんな……」
    フィアの顔から血の気が引く。
    「一応、説明してくれるかい、父さん」
    言いながら、ロムも予め用意していた鋼の剣と鉄の盾を構える。
    「まぁ、あれだ。こいつは、試練と思ってくれていい。簡単な話だ。お前が勝てば、お前の旅立ちを許そう。ただし、私が勝てば、お前はグランバニアに残ってもらう」
    「そんな、力で解決だなんて……」
    フィアが非難の声を上げるが、
    「フィア。お父様には、考えがあるんです。黙って、見守ってあげて」
    そういって、フローラが娘の肩に手を添える。
    「母さん……」
    聡明な母がそう言うのだ。フィアはこれ以上なにも言えなかった。
    「わかったよ、父さん。こちらとしても、ありがたい譲歩だ」
    そういって、ロムはリングに上がる。
    「勝敗は簡単だ。相手を参ったと言わせるか、気絶させるか、場外にたたき落とせば勝ちだ。むろん、死んでしまっても負けだ」
    「死……」
    「当たり前だ。刃を潰しているとはいえ、真剣を使っているのだからな。これは訓練ではない。ロム、私を敵だと思ってかかってこい。さもなければ……本当に死ぬぞっ!」
    突然、リュカがロムめがけて飛び出す。
    虚を突かれて、ロムはとっさに盾で剣を防ごうとした。だが、
    (だめだ……!)
    ロムは思い出した。父の剛剣を。
    グランバニアに伝わる、魔人斬りという特技を最大限に極めて、一つの流派にまで昇華させた剣術……魔人一刀流。父はその継承者だ。
    その一撃は、岩をも斬り伏せる。たとえ刃を潰した剣でも、おかまいなしにロムの腕ごと粉砕するだろう。量産品の鉄の盾では防ぐどころか、腕ごと持っていかねない。
    ロムはとっさに後ろに飛んで、その斬撃をからくもかわした。
    「父さん、本気だわ。本気で今、ロムを斬るつもりだった……」
    フィアの目に、怯えがちらつく。
    そんな中、
    「もう始まっていたか」
    彼女の隣に新たに客人が現れる。それは、エリオスと、賢者セインだった。
    「エリオス!? それと、あなたは……」
    「はじめまして、姫。私は賢者セインと申します。どうぞお見知り置きを」
    そういって、慇懃にセインは挨拶する。
    「国王に呼ばれたのだ。おまえ達も、ロムの戦いを見ていってほしい、とな」
    と、エリオス。
    「私たちも、ロムのレベルを知っておく必要があるからな。しかし……」
    と、セインは戦いの様子を見た。
    戦局は、ロムの防戦一方だった。リュカの鋭い攻撃をからくもかわしているが、なかなか反撃の糸口を見いだせていない様子だった。それとも、攻撃するのを躊躇っているのか……
    「あのロムの父という戦士、かなりの手練れだな。うちの戦士ルドガーと互角、いや、それ以上かもしれん」
    「だが、その攻撃をさばいているロムの腕も大したものだ。勇者の力は失っているが、剣の腕自体は落ちてはいないと見える。だが……」
    と、エリオスは目を細めて言う。
    「このままでは、負ける。ロム、それでいいのか……?」






    「どうしたロム、なぜ攻めない? 攻めなければ、お前に勝ちはないぞ。それとも、お前の決意とやらは、その程度のものだったのか?」
    「くっ!」
    ロムは歯を食いしばってリュカの突きを盾で受け流す。がら空きになったわき腹めがけて、回し蹴りをたたき込もうとする、が。
    「甘いぞ!」
    それよりも早く、リュカの掌がロムの額をとらえた。
    突然の拳にロムは吹っ飛ぶ。ダウンしそうになるが、なんとか踏ん張ってこらえた。
    「なんというざまだ。それで再び旅に出るだと! その程度では二人の足手まといにしかならぬということがまだわからぬかっ!」
    一喝する。それは、普段の温厚の父からは考えられないほどに厳しい態度だった。
    その叱咤が堪えたのか、ロムはキッと父リュカを見据えた。
    (そうだ。僕はここでなにをしている? 父さんに、僕の覚悟を認めさせるためじゃなかったのか? なのに、この体たらく……まったく、情けない)
    心の中でそう呟きながら、ロムは再び剣を構えた。
    今までは防御の型だった。だが、今度のは違う。姿勢を低く落とし、利き足を前に出して、両手で剣を構えなおす。
    それは、攻めの姿勢に他ならなかった。
    そのまま、ロムは攻撃に転じた。
    一撃の攻撃力では、リュカには勝てない。そんな彼が選んだのは、圧倒的な手数だった。
    斬り、突き、盾による打撃、それに格闘術も織り込むコンビネーションを放つ。
    並の相手なら、その連撃の前に為す術もなく大ダメージを受けるだろう。だが、リュカは並の相手ではなかった。
    その全てを、避け、受け流し、はじき返す。
    「その程度の連撃で、私を止められると思ったか!」
    攻撃と攻撃の一瞬の隙をついて、リュカはロムの脇腹に回し蹴りを叩き込む。
    それにはたまらず、彼は吹っ飛ばされた。
    「ぐっ、うぅ」
    苦しさにうめき声をあげる。
    (やはり、生半可な攻撃では、父さんには通用しないかっ……、ならばっ!)
    キッ、とロムは父を睨み付けた。
    「いくぞ、父さんっ!」
    そう叫んで、ロムはリングを蹴って飛び上がった。
    そのまま、唐竹割りのごとく頭上から切りかかる。が、
    「あまいぞ!」
    その攻撃はすでにリュカに読まれていた。
    彼は腰を深くかがめ、ロムの一撃に合わせるように剣を突き出そうとする。
    「いかんっ!」
    エリオスがとっさに叫ぶ。
    彼も内心危惧していた。ロムがこの数年間の平和を謳歌しているうちに、戦いの勘を忘れてしまったのではないか、と。
    リュカほどの相手に、うかつに飛び上がっての攻撃など、愚の骨頂。それがわからないロムではないと思っていただけに。
    この勝負、ロムは負ける……!
    そう思った、その時だった。


    信じられない出来事が起こった……!


    そう、それは、リュカですら予想していないことだった。
    まさか、自分の剣が、粉々に粉砕されてしまった、などと。
    「こ、これは……」
    リュカは目を見張った。
    彼は、ロムが繰り出した斬撃を正面から受け、なおかつ彼の武器を粉砕するつもりだった。彼の魔神一刀流ならば、そんな武器破壊技が可能なはずだった。
    だが、ありえないことが起きた。
    なんと、ロムとリュカ、双方の剣が同時に砕け散ったのだ。
    そう、ロムが放った斬撃は、ただの斬撃ではなかったのだ。
    「お、お前、いつの間に、魔神一刀流を……」
    「できるさ。僕は、元勇者である前に、父さんの子だよ」
    そういって、ロムは手から柄だけになった剣を落とした。
    剣を持っていた手が痙攣している。完全に麻痺していた。いや、骨にヒビくらいは生じているかもしれない。
    「全く、いつの間に技を盗んだんだ。お前というやつは」
    感心反面、あきれた口調でリュカは言った。
    魔神一刀流は、土壇場で成功してしまえるほどの剣術ではない。過酷な訓練による下地と、積み重ねた技の切れがあって初めて放つことができる。
    リュカはその時初めて気づいた。ロムの手の平にできた潰れて固くなった豆を。それは、一日や二日で出来たものではないことは明らかだった。
    「付け焼き刃の魔神一刀流で、私の太刀に対抗しようとはな」
    「は、はは……」
    痺れた腕を押さえながら、ロムは苦笑した。
    「リュカ王、勝負は引き分けですな」
    エリオスが、リュカに言う。
    「この場合の処遇は、どうするおつもりですか?」
    「考えていなかったな。だが、ロムは私に負けなかった」
    そういって、リュカはふっと微笑む。
    「エリオス、出発の日付だが、一週間だけ延ばしてもらえるか。その間に、この素晴らしい不肖の息子に本当の魔神一刀流を伝授してみせよう」
    「父さん……!」
    ロムの笑顔がぱぁっと花咲く。
    そう、リュカは認めざるを得なかった。たとえ勇者の力を失っても、ロムはやはり勇者なのだ、と。



    続く    
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