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2015.11.10 Tuesday

反竜伝記 Afterstory ACT2 異界の賢者

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    今回からボリュームは控えめだけど、その分早めに上げていくことにしました。
    更新頻度を増すためですので、どうかご了承ください(汗)


     


    その夜。
    ロムは約束通り、町へと繰り出した。
    もちろん、お忍びだ。いくら他の国よりそういうことが緩いグランバニアとはいえ、見つかれば大目玉は必死。オジロン

    叔父の小言を小一時間は聞かされるはめになるだろう。
    (まぁ、その時はその時か)
    ロムは開き直ることにした。
    もうじき春とはいえ、標高高いチゾット山脈の麓にあるグランバニアの冬は長く、夜の空気は指先が凍りそうなくらいに

    寒い。この町全体が城塞に覆われていて外から冷気が入ってこないのが、せめてもの救いだ。
    (さむさむ……)
    人気のない、街灯の明かりだけがぼんやり光る町中を、ロムはひっそりと歩く。
    しばらくすると、見覚えのある、歴史ある石造りの二階建ての小さな宿が見えてきた。
    ここがピピンの母親が経営する宿屋だった。ドアを開けると、暖炉の暖かい温もりが冷えた身体にぬくもりを与えた。
    「おや、ロム様。いらっしゃい」
    四十歳くらいの、背の小さな女性がフレンドリーな応対でロムを出迎えた。言うまでもなく、この宿の主だ。
    「やぁ、女将さん。僕に客が来ているはずなんだけど」
    「あぁ、あの二人のハンサムさんね、二階の三号室にいるよ」
    「二人? エリオスの連れかな」
    ロムは首を傾げたが、とりあえず階段を昇ることにした。


    三号室というプレートのドアの前に立ったロムは、軽くノックした。
    「エリオス、来たよ」
    「ロムか、ちょっとまっててくれ」
    しばらくして、錠のはずれる音がした。
    「いいぞ」
    (やけに用心深いなぁ)
    妙に思いながらも、ロムはドアを開ける。
    そこにいたのは、確かに二人だった。
    一人は言うまでもなくエリオスだ。もう一人は、ロムの知らない男性だった。
    歳は、ロムより少し上だろうか。二十歳半ばの、青みがかった長い髪の、ハンサムな青年だった。
    真っ白な法衣を着込み、腰に先端に赤い宝石がついたロッドを差している。
    彼は細い目をよりいっそう細めて、ロムを見つめた。
    「なるほど、あいつとどこか雰囲気が似ているな」
    「えっ?」
    ロムはきょとんとした目をした。
    「すまない、ロム。今日お前を呼んだのは他でもない、彼に会って貰いたかったからなんだ」
    「エリオス、どういうことだい?」
    「まぁ、まずはお互い自己紹介といこうじゃないか。ロムさん」
    青年は椅子から立ち上がった。
    「私の名はセイン。一応、賢者という肩書きを持っている」
    「賢者?」
    「おっと、こっちの世界には、賢者という概念はないんだったな。まぁ、魔法使いと僧侶を極めし、知恵の探求者、という

    職業のことだ」
    「そ、そうか。ご挨拶どうも、僕はロム。今はグランバニアの王子なんかやっている。よろしく」
    そういって、二人は握手した。
    「ところで、さっき、こっちの世界って言っていたけど」
    「察しが早いな。そう、何を隠そう、私はこの世界の人間ではない」
    さらりと、大胆な発言が飛び出たことに、ロムは驚いた。
    「私は、この世界の隣にあって、決して交わることがなかった世界からやってきたのだ。いや、やってきたというより、飛

    ばされてきた、という言い方のほうが正しい」
    「違う、世界から……」
    にわかには信じがたいことだが、ロムはすんなりと受け入れていた。そう、彼は知っているのだ。この世界の他に、もう

    一つ、別の世界があることを。
    「……君は、大魔王ゾーマによって滅ぼされた世界からやってきたんだね」
    「ご名答。その通りだ。天空の勇者」
    セインは頷いた。
    「確かに私は、こことは別の世界の出身だ。そして、大魔王ゾーマに戦いを挑み、破れた勇者一行の一人というわけさ」
    自虐げに、セインは言った。




    セインは語った。自分たちの戦いの歴史を。
    彼らの世界は、とある魔王の侵攻により脅威に晒されていた。
    魔王の名は、バラモス。
    世界の大半を手中におさめたバラモスに対し、名のある勇者達が戦いを挑んだ。だが、そのどれもが帰ってはこなかった


    そんなバラモスに、戦いを挑んだ少女がいた。少女の名はユーリア。南に浮かぶ大陸の国アリアハンにその人ありと謳われた勇者オルテガの一人娘だった。
    ユーリアは魔法使いで後に賢者となるセイン、武道家リーシャ、戦士ルドガーの三人の仲間と共に、父の仇を打つため、そして、世界に平和を取り戻すために旅に出た。バラモスと戦い、からくも勝利を収める。
    だが彼女たちは知ることとなる。大魔王ゾーマの存在を。
    バラモスは、ゾーマの手下の一人にすぎなかったのだ。
    ユーリア達は、大魔王ゾーマを倒すために、やつが支配している別世界、アレフガルドへと旅立つ。
    そこで彼らはさらなる力を蓄え、満を持して大魔王ゾーマの根城へと突入した。
    決戦は熾烈を極めた。
    死闘の末、勇者ユーリアが願いをこめて放った神秘なる宝玉――光の玉が、大魔王ゾーマの身体を包んでいる闇の衣をは

    ぎ取る……はずだった。
    だが、ありえないことが起こった。
    光の玉が、突如砕け散ったのだ。竜の女王から授かった、魔王の力を奪うはずの切り札が……
    頼りの綱を失ったユーリア達に、勝機は完全に消え失せた。
    仲間達は次々と倒され、彼女自身も手痛い深手を負ってしまう。
    そして、止めの一撃が繰り出される絶体絶命の時、突然目映い光が辺りを包み込んだ。



    「それが何だったのかは、今もよくわからない。気がついたら、私は何もない荒野に倒れていたのだ。仲間達の姿もなく、

    深手を負っていた私は、ここで力尽きるかと思った。だが、そんなところを、この若者に助けられたのだ」
    そういって、セインはエリオスに目を向けた。
    「それが、今から三ヶ月ほど前の出来事だ」
    「他の仲間達は?」
    「……いや、周囲には、誰もいなかった。おそらく、皆散り散りに飛ばされたのだろう。無事だと良いが……」
    「しかし妙だな。ロムの話では、ゾーマがこの世界に侵攻して、マスタードラゴンに封印されたのは、だいぶ昔のはず。そ

    れなのに、セイン達はつい先ほどまで、ゾーマと戦っていた。時間が合わない」
    「おそらく、私達は世界を飛び越えると同時に、時間をも飛び越えてしまったのだろう。別世界への移動……世界跳躍には

    、そういう現象が起こり得るものなのかもしれない」
    しばしの沈黙のあと、セインは口を開いた。
    「エリオスに会って、私は君のことを聞いた。この世界にも勇者がいて、ゾーマの先兵を倒したと」
    そこまで話を聞いて、ロムは悟った。
    彼は、勇者である自分の力を借りたくて、グランバニアまで足を運んでくれたのだ、と。
    それだけに、彼は申し訳なく肩を落とした。
    「でも、僕には……」
    「聞いている。きみは、勇者の力を失ったことは。だが、それを承知の上で、力を貸してほしい。私は、この世界に飛ばさ

    れた仲間達を一刻も早く探し出さねばならない。だが、私はこの世界のことを何も知らないのだ。私には、この世界の地理

    に長け、旅慣れた冒険者の助けが必要なのだ」
    「……わかった。協力しよう」
    ロムは頷いた。
    「いいのか、ロム。ここまで案内した私が言うのも何だが、君はグランバニアの王子だろう」
    「……常々、考えていたんだ。このままで、本当にいいんだろうか、と。確かに、イブールは倒れ、光の教団は壊滅し、世

    界に平和が戻った。だが、本当の脅威が去ったわけではない。そして、ゾーマの封印は、百年後には切れてしまうのだとい

    う……」
    ロムは拳を握りしめた。
    「父さんや母さんは、お前はよくやった。後は百年後の若者達に託す番だと言ってくれた。けど、それは結局、問題を未来

    まで先送りにしていることに他ならない」
    「ロム……」
    「それじゃ、やっぱりダメなんだ」
    「……ふっ、まじめな奴だな。そういうところも、ユーリアにそっくりだよ、きみは」
    そういって、セインは再び、ロムに手をさしのべた。
    「改めてよろしく、ロム王子」
    「ロムでいいよ。セインさん」
    「では私もセインでかまわない。我々は仲間なのだから」
    ロムとセインは、再び、今度は結束の握手を交わしたのだった。



    ロムは新たに旅立つ覚悟を決めた。
    だが、黙って旅立つわけにはいかなかった。
    彼も今は、グランバニア王子という肩書きを持つ身である。
    当然ながら、すんなりとはいかなかった。



    「なりませぬぞ、王子!」
    王の間に、オジロンの大声が反響する。
    翌日の朝、ロムは一同を呼び出して、昨日の出来事を話した。話し終えての第一声がこれである。
    「城をこっそり抜け出した挙げ句に、また旅に出るなどと!」
    (やっぱりなぁ)
    オジロンは反対するんじゃないかと思っていたのだが、案の定その通りだった。
    「王子。あなたはもう、グランバニアという一国の王子なのですぞ。どこの国に、ほいほいと旅に出てしまう王子がおりま

    すか」
    「けっこういるんじゃないかなぁ」
    「王子っ!」
    ギロッ、とオジロンはロムを睨みつけた。
    この三年のうちに、オジロン叔父はすっかり禿げ上がってしまった。このままでは、後頭部にわずかに残った白髪も抜け

    落ちかねない。
    「まぁまぁ、オジロン叔父。落ち着いてください」
    と、リュカが叔父をなだめる。
    「ロム。叔父さんのいうことも一理ある。お前はもう勇者ではない。そこまでする責任はもうないはずだ。聞けばエリオス

    も一緒だとか。ならば、お前が同行する必要も、必ずしもないはずだ。違うか?」
    「父さん……」
    ロムは内心唸った。父は賛成してくれるとばかり思っていたのだ。
    「それに、お前ももう一国の王子だ。王族として、民を導く責任と義務があるはず」
    「お言葉ですが、父上。王位継承権の優先順位は、フィアにあります。私は、グランバニアの未来のためにも」
    「ロムッ」
    リュカが窘めるような口調で彼の名を言う。
    「私は、お前にはグランバニアの南の地方を治めてほしいと思っているのだ。将来的にはな。グランバニアはチゾット山脈に阻まれて、北と南とではなかなか交流が捗らない部分があるからな。だが、お前が南の王となってくれれば、それも解消されよう」
    「南の、王。陛下は、将来的には国を二つに分けるおつもりですか」
    「そう大げさなものではないさ。ただ、一つの国は、必ずしも一人の王によって治められるものではないと、私は思っている」
    それは、ラインハットの醜い争いを見て得た彼なりの教訓なのだろうか。
    「それに、お前にもそろそろ、身を固めて貰わんとな」
    冗談交じりに言う。もっとも、ロムはそれが冗談ではないことは知っていたが。
    「まぁ、今回は諦めろ。何なら、グランバニアからも捜索隊の兵を出す。エリオスには、私からそう伝えておくぞ。さぁ、

    お前はもう自室に戻れ。黙って城を出たことは見過ごすわけにはいかないから、今日一日は自室で謹慎だぞ。いいね?」
    「……わかりました」
    この場は退くしかなかった。
    ロムはしぶしぶ頷いて、その場を去った。


    「はぁ、やれやれ」
    ロムが退室してから、リュカ王はぐったりと玉座に腰を沈めた。
    その傍らでは、王妃フローラがリュカの苦労を知って苦笑いを浮かべている。
    「お見事でしたぞ。国王陛下。失礼ながら、わしはてっきり、陛下がロム王子の肩をお持ちになるのかと思っていましたが


    「私はそこまで親ばかでもないよ。しかし、あれであいつがすんなり諦めるとは思えないな。誰に似たのか、あぁ見えてと

    ても頑固なところがあるからね」
    といって、リュカはフローラの顔をちら見する。
    こほん、と彼女はわざとらしくせき込みながら言う。
    「ロムには、王子という肩書きは荷が重すぎたのかもしれませんね」
    「あいつはフィアとは違って、青年期をライオスと共に過ごしたからな。森と自然に囲まれて。それだけに、王子の暮らし

    が窮屈なのだろう。本人は決してそのようなことは口にはしないがね。もっとも、今回のことはそれを口実にした逃げ、と

    いうわけでもなさそうだが……」
    「まさか王子は、このまま城を出て行ってしまうおつもりでしょうか」
    と、オジロンはやや狼狽がちに言う。
    確かに、今回のことでロムがすんなり諦めたとは思えない。
    リュカはしばし考えた。そして、
    「……わかった。私に少し考えがある。叔父さん。すまないが、ちょっと準備を頼めないかい?」
    そういって、リュカはオジロンに詳細を伝える。
    「な、なんですとっ!」
    それを聞いたオジロンは、飛び上がって驚いた。





    一方その頃、父リュカがとある計略をめぐらせているとも知らずに、ロムは自室で鬱憤を募らせていた。
    「さてさて、どうしたもんだか……」
    椅子に座って、なにか妙案が浮かばないか考えるのだが、机の上の作戦ノートの紙面にはまだ何も書かれていない。
    その時だ。トントン、とドアをノックする音がした。
    「ロム、私よ」
    それは、アイメルの声だった。
    「開いてるよ、どうぞ」
    ロムが返事を返すと、ドアを開けて彼女は入ってきた。
    アイメルは今、グランバニアの近衛隊長という肩書きを持っている。先の戦いの実績を買われてのことだったが、アイメ

    ル自身が望んだことでもあった。
    他のグランバニア兵の軍服とは異なる、白の生地に黒のラインの入った服を身にまとい、腰にはレイピアを差しているそ

    の姿は、とても凛々しく写る。ましてや、アイメルはフィアと並ぶほどの美女に成長していた。すらりとした体型はそのま

    まだが、背もやや伸び、ロムと並ぶほどに成長し、胸の方も、フィアとは違ってそれなりに育っている。
    アイメルのことは何とも思っていないと昨日リュカには言ったが、この亜麻色の髪の美女のふとした仕草に、ふいにドキ

    ッとさせられる瞬間があることだけは、ロムも認めざるを得なかった。
    「紅茶とクッキーをお持ちいたしましたわ。殿下」
    「それだけじゃないんだろう?」
    「ご明察ね」
    ふふっと苦笑して、アイメルはトレーを彼の机に置く。
    「聞いたわ。また旅に出るつもりなんですってね。それでみんなに猛反対されたとか」
    「どうせ、君も反対派なんだろう」
    やや拗ねた口調で、ロムは言った。
    「私は、そうでもないわ」
    意外にも、アイメルは否定も肯定もしなかった。
    「けど、ロム。あなたはもう勇者ではないのよ。勇者の力も、失われてしまった。もう、天空の剣や鎧も装備できない」
    「それでも、まだできることがあるはずさ」
    クッキー片手に、ロムはいった。
    「問題はそれが何なのか、それはまだわからないけど、今回の旅でそれを見つけられたらとも思っている」
    (やれやれ、説得しても無駄ね、これは)
    アイメルは呆れながらも、自分も旅立ちの準備をしておかなくちゃね、と密かに決めたのだった。



    続く


























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